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» 2014年12月03日 10時00分 公開

世界初の技術で透明マントにも手が届くか、「3次元メタマテリアル」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

[土肥正弘,ドキュメント工房]
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微細なコイルを製造する方法を発明

 そのような微細構造を実際にどうやって作り出すかが大きな問題だ。これまで、光リソグラフィーと呼ばれる写真転写露光とエッチング技術を利用して、微細なコイル状の2次元パターンを基板に作り出す方法で2次元メタマテリアルが開発された。

 この方法は、精密で自由な構造が実現できる一方で、製造のエネルギー消費が大きい上、加工時間が長く、しかも大きなサイズのものが作れない。しかも、2次元なので特定方向からの光に対してしか使えない欠点がある。

 また、DNA分子と微小な金属球とを組み合わせ、自動的にコイルと同等の構造を作る技術もあるが、こちらは形状や配置の制御が難しく、不均一、不完全になってしまう。

 そこで田中氏らが挑戦したのは、図3に見るような製造法だ。まず、シリコン基板表面へのポリメチルメタクリレート(PMMA)レジスト材料を塗布し、電子線でパターンを描画、ニッケルと金薄膜を蒸着してからPMMAごと取り去ると、ニッケルと金でリボン形状が出来上がる。

 その後、シリコン基板をドライエッチング法で削るとリボンの下のシリコンも削れてリボンがシリコン基板から離れるが、リボンの中央部分はやや大きめのパターンになって、その部分だけが基板のシリコンにくっついている。そのまま放置すると、金とニッケルの応力の差により、自然にリボンの両端が持ち上がり、立体的なコイル形状が出来上がる。

3次元メタマテリアルの製造 図3 3次元メタマテリアルの製造(出典:理化学研究所田中メタマテリアル研究室)

 この方法により、従来の方法では不可能だった3次元構造が容易に製作可能になり、従来は大きくても数百マイクロメートル角程度だったメタマテリアルが、一気に数ミリ角にまで大サイズ化できた(図4)。

数ミリ角のサイズで製作した3次元メタマテリアル 図4 数ミリ角のサイズで製作した3次元メタマテリアル(出典:理化学研究所田中メタマテリアル研究室)

 また、コイル状の形状は図4左上のように縦、横、斜めに配置したため、どちらの方向から来る光に対しても、メタマテリアルとしての特性が発揮できる。

 メタマテリアル製造の難問だった「3次元形状」「等方性」「大面積」の3つの課題がこれにより一挙に解決することになった。この全てが世界初となる快挙だ。

3次元メタマテリアルがひらく未来

 今回作製されたメタマテリアルは周波数32.8THzの中赤外線領域で、屈折率0.35を示した。これは真空中の光速より約3倍速く伝搬することを意味する。さらに素子を微細にして可視光領域での相互作用が実現すれば「透明マント」実現により近づくことになる。

 もちろん、メタマテリアルは「透明マント」作製のためだけの研究ではない。低屈折率のメタマテリアルを顕微鏡に応用すれば、光の波長よりも小さいものを光学的に観察できるようになりそうだし、デジタルカメラなどのレンズの応用すれば、解像力や集光能力を改善することにつながるだろう。

 また、光通信への応用も考えられる。通信そのものは光の「群速度」に支配されるので、光の速さを超えて情報が伝わることはあり得ないが、逆に光パルスの伝搬速度を遅くすること(スローライト)が可能だ。

 これができると、現在の光ネットワークを高速化できるかもしれない。光ネットワークのスループットを大きく制約しているのはネットワーク分岐点での電子回路による処理スピードだ。そこで情報の渋滞が起きるのがネックなのだが、一部の光パルスをメタマテリアルを利用して減速し、電子回路の処理能力に合わせて平均化した情報量を流すように制御すれば、トータルでネットワークのパフォーマンスが改善することになる。

 なお、特殊な結晶を利用してスローライトを実現する研究も行われているが、その結晶にレアアースが利用されることが多く、安定した原材料調達やコストに課題がある。メタマテリアルならシリコン、金、ニッケルといった一般的な材料が利用でき、その課題もクリアできそうだ。

関連するキーワード

光リソグラフィー

 半導体素子やプリント基板などの作製に用いられる2次元パターンの生成技術。パターンを描きたい物質の表面に感光性物質を塗布して、写真技術を利用して回路などのパターンを露光する。すると露光部分とそうでない部分で特性が変わるので、必要ない方を特殊な溶液で溶かして除去するとパターンが残る。

「3次元メタマテリアル」との関連は?

 光リソグラフィーで描けるパターンは2次元のみで、3次元形状を直接作り出すことはできない。本文の田中氏らの研究チームは電子線でパターンを描画し、光リソグラフィーと同じような方法で、必要ない部分を除去して共振素子となるリボン型の微細構造を作製した。

 この時点では2次元構造だが、リボン型は金とニッケルの薄膜を重ねているため、双方の応力の違いにより、両端がめくれてリング状の立体構造を形成するようにした。

 微細加工装置で精密に制御しながらパターンを生成するのが「トップダウン」方式とすれば、物質そのものの特性により形状を変化させるのは「ボトムアップ」方式だ。3次元メタマテリアルはトップダウン方式とボトムアップ方式の組み合わせで実現した。

等方性

 物質中を光が伝搬するとき、その伝搬方向や偏光方向がどうであれ、その物質が同じ特性を示す状態のこと。光の伝搬方向や偏光方向が異なると別の特性を示す物質は「異方性」があるという。

「3次元メタマテリアル」との関連は?

 3次元メタマテリアルは、これまでの2次元メタマテリアルが解決できなかった異方性の課題を解消し、あらゆる方向からの光に対して同じ特性を発揮できる等方性を実現した。

スローライト

 従来は制御できないとされた光の群速度を低減する技術。特殊なフォトニック結晶による導波路を利用する方法と、共振器を用いる方法とがある。国内でもフォトニック結晶共振器により、光を5万分の1にまで減速することに成功した例があるが、現在は人が歩く速度にまで遅くする研究が進んでいる。

「3次元メタマテリアル」との関連は?

 屈折率を構造で制御できるメタマテリアルは光の群速度の低減も可能だ。特殊な結晶ではなく、一般的な材料で作製できるところに強みがある。

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