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肩書がインフレしている候補者に採用現場と職場が困惑、対応策は?

タイトルインフレこと「肩書のインフレ」は、採用時に候補者と採用担当者の双方を苦しめる。入社してからは既存の従業員との確執を生むこの問題に、対応策はあるのか。

» 2022年08月09日 07時00分 公開
[Emilie ShumwayHR Dive]
HR Dive

 現在、消費におけるインフレ率の高さが多くの人を悩ませている。しかし、別の形のインフレであるタイトルインフレこと「肩書のインフレ」が採用現場や職場の悩みになっている。

膨れ上がった肩書はなぜ生まれる

 全米エグゼクティブサーチ企業であるCowen Partnersのプレジデント兼共同創業者のショーン・コール氏は、2018年ころに起業したスタートアップ企業でこの傾向を確認した。

 「スタートアップ企業は必ずしも競争力のある報酬を出していなかったが、膨れ上がった肩書を与えていた。それは誇張されたバイスプレジデント(本部長や部長などのポジション)であったり、経営幹部の肩書であったりする」(コール氏)

 コール氏は、あるスタートアップがオフィスの受付係の肩書に「ファースト・インプレッション・ディレクター」を使っているのを見たことがあり、「『スタートアップ』は文字通り、全てを始動させた」と話す。

 この傾向は2020年までに主流となり、中堅企業や大企業は人材争奪戦が激化する中で、膨れ上がった肩書を提供し始めたとコール氏は述べる。「人材争奪戦に対応するために肩書を工夫する必要が出てきて、結果的にリテンション戦略のようになってきている」と語る。

 若い従業員は同僚の立派な肩書を見てより早く昇進したいと思うようになる。「ベビーブーマー(団塊世代)は昇進を10年待つが、ミレニアル世代は来年には昇進したいと考える」とコール氏は言う。

候補者や採用担当者にも広がる悪影響

 タイトルインフレは候補者や採用担当者にも悪影響を与える可能性がある。コール氏は「肩書に見合った適切な能力がなければ、その役割を活用して他の場所で地位を得ようとするときに、手に負えない事態になっていることに気付く」と指摘する。結局自分の経験に見合った肩書に落ち着くことになり、キャリアアップの際に肩書の違いを説明しなければならなくなる。

 人材の調査をしない採用担当者は、有望と思われた候補者が実際に期待される義務を果たせない場合、「次の買い手が不在する」シナリオと向き合わなければならない。正しい採用のためには、候補者の選別に時間をかけ、候補者が職務の要求に応えられるかどうかをしっかり確認する必要がある。

 「タイトルインフレは実施する企業にとってもマイナスに働くことさえある」とコール氏は言う。既存の従業員は「この人は誰で、給料はいくらもらっているのか。自分は5年も務めているのに……」と感じて士気が失われる可能性がある。

肩書のインフレを抑える策はあるのか

 コール氏は間違った人材の採用を恐れている人事担当者に、「ジョブディスクリプションを理解することで職責に精通すること」を提案している。肩書よりも職務に焦点を当てて比較することで、どの候補者が自社に合っているかを見極められる。

 採用担当者にも幾つかの方法を考案できる。例えばコール氏は、「ディレクター」という肩書の候補者を評価する際「あなたは個人的な貢献者でしたか、それともチームのマネジャーでしたか」と質問する。「多くの場合、適切な評価をされたディレクター職はある程度の管理経験を必要とする」とコール氏は言う。採用担当者は、候補者の管理職としてのレベルや、何人の部下を管理したかなど、より詳細な要素に目を向ける必要がある。

 「高い肩書にふさわしいと自認する候補者に低めの肩書を提示する」という微妙な仕事を担う採用担当者に対してコール氏は、「判断の背景を説明する重要性」を強調した。現在の職務とオファーされた職務の違いや、責任や会社の規模、その他の関連要因を説明すべきだと同氏は言う。

 「企業はタイトルインフレが起こってから修正するより関与しない方がはるかに良い。当人が退職しない限り肩書を元に戻すことはほぼ不可能だ」とコール氏は言う。これを防ぐには、人事担当者はチームの組織図の肩書について明確な質問をすることが有効だという。人事担当者は「この肩書がチーム全体の構造や将来の成長目標にどのように合致するのか、説明してください」と問うべきだと語る。

 最後にコール氏は「人事担当者は企業の目標や価値観を信じ、それに賛同する候補者を見つけることにエネルギーを注ぐべきだ」と言う。「肩書や金銭目当てで入社を希望する候補者がいたら、もっと報酬や肩書の良い別の機会が訪れることでその人物を失うだけだ。報酬や肩書ではなく、価値観を共有できるかどうかで採用を決めてもらいたい」と同氏は続けた。

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