データセンターになるワンボックスカー「ICTカー」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)
大規模災害時の通信インフラとして、電話通信を確保し、小さなデータセンターとしても機能するという「ICTカー」。その実態とは?
今回のテーマは、大規模災害時での通信インフラ損壊時に被災地にかけつけ、電源途絶状態でも5日間にわたってスマートフォンによる通話手段を確保し、小さなデータセンターとしても機能するという「ICTカー」。しかも、その通話機能はアタッシェケース1個に収められるという。その仕組みとは一体どうなっているのか?
災害対策のために生まれた「ICTカー」
ICTカーとは、通信インフラが破壊された地震などの被災地に自ら移動し、迅速な通話機能の復活と被災者データ収集、管理、さらには行政機関や病院などのITシステムを代替運用できるデータセンター機能まで搭載する新しい災害支援用車両のことだ。
東日本大震災でのICTインフラ損壊から教訓を得て、NTT未来ねっと研究所(NTT研究所)と東北大学、富士通、NTTコミュニケーションズが約2年前に開発に着手し、2014年1月に公表した。研究開発の一部は総務省の支援を受けている。
現在、ICTカーによるサービス提供エリアは車両から半径500メートル以内のスポット、運用可能期間はバッテリー車両搭載の燃料のみによる発電で5日間だ。ただし、燃料供給があればさらに長期間の運用、あるいは被災者の携帯端末充電などの電力シェアも可能になる。
被災地の情報通信を車両搭載機器により緊急支援するアイデアは既に幾つかが実証段階にある。しかし、これまでは主に広域ネットワークへの早期接続に重きが置かれていた。ICTカーは、携帯電話基地局さえ失われた被災地域内部での通話機能を早急に回復することを優先して考えているところに特徴がある。
ICTカーが目指す災害対応とは
ICTカーは、一般的なワンボックスタイプの車両にサーバ、ストレージ、無線LANおよび制御用通信機器、アンテナ、バッテリー、発電機、冷却装置といったデータセンター設備と同様の要素を非常にコンパクトな形で搭載する(図1、2)。
車両に備え付けられた設備の他、自立式アクセスポイントモジュール(図3)を4セット積載可能だ。自立式アクセスポイントモジュールは、太陽光発電装置、バッテリー、アクセスポイント、アンテナなどで構成される。このセットで見通しがよい場所なら100メートル程度の距離で通信可能になる。
目的の被災地に向かう途中、あるいはカバーエリア拡大のニーズに従って自立式アクセスポイントモジュールを配置することにより、ICTカーを中心に半径500メートル程度離れた地点までサービス提供ができる(図4)。
面積でいえば皇居よりもやや狭い程度のエリアではあるが、避難所内や近隣避難所を含めたネットワーク活用が期待できる。しかも、ICTカー到着からサービス開始までのセッティングは数十分〜1時間で可能だ。アクセスポイント間のネットワーク形成にはセンサーネットワーク技術により周辺アクセスポイント群の集中制御を可能にし、ネットワーク構築にも時間はかからない。被災者はスマートフォンの登録が済み次第に通話が行えるようになる。
必要最小限の通信回復機能を実現するためには「IP-PBX」「無線LANアクセスポイント」「バッテリー」の3点セットがあればよい。NTT研究所では人間がこれらを簡単に運べるように「アタッシェケース型ICTボックス」も開発した(図5、6)。
ケース内右上に見えるのがインテルのNUC(超小型PC)にIP-PBXソフトを載せたもの。それにつながる小さな機器がアクセスポイント、左側にあるのがバッテリーだ。コンパクトなサイズでもIP-PBX単体として、通話は5000端末が登録でき、同時接続は140通話まで、約5時間の運用が可能だ。
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