IEEE 802.11acのさらに先を行く「協調無線LAN」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(2/3 ページ)
ギガビット対応のIEEE 802.11acが抱える干渉問題などに対処すべく新たに研究が進む「協調無線LAN」。その最新動向を探る。
IEEE 802.11acの限界は?
優れた特長を持つIEEE 802.11acだが、次のような課題が指摘される。
- 多数のAPおよびSTAが高密度に存在する環境での周波数利用効率の向上
- 屋外環境でのロバスト化および効率改善
- 電力効率の向上
こうした課題をクリアする新規格が求められ、2013年5月にIEEE 802.11 WG(Working Group)委員会内に立ち上げられたのがHEW SG(Study Group)だ。ここでIEEE 802.11acの課題解決に向けた仕様策定を行うタスクグループの設立が検討され、遠からず具体化を進めるタスクグループが発足する見込みだ。
複数局が連携するための「干渉制御」がカギ、限界突破のための同時送信技術の研究
最も問題が大きいのが上記課題の(1)だ。企業や組織、公共施設、イベント会場、家庭と無線LANセルは今後ますます増加に拍車が掛かる。無線LANセルが近接すると干渉が避けられず、スループットが低下する。そこで、複数の無線LANセルが同一チャネルで通信する場合、干渉を避けるために一方のセルが通信中は他方のセルが通信を止める仕組みが採用された(図2上)。
しかし、これでは一方のAPが待機することになりムダが多い。図2下のように、隣接するセルでも同時に通信できればスピードは倍加するはずだ。
新しいビームフォーミング技術で干渉を排除し、同時送信を実現して容量は2倍に
この新しい同時通信技術に挑戦したのがNTT未来ねっと研究所だ。使われたのはビームフォーミングという技術だ。同研究所では、図3のような実験用装置を使い、図4のように干渉低減実験を行った。
まず、APの複数のアンテナから電波が送られると、STA側はその受信状況を測定し、APに測定結果を報告する。するとAPは、複数のアンテナから通信相手のSTAの位置でちょうど位相がそろうように調整した電波を送る。
相手のSTA側では、複数のアンテナに位相がそろった電波が届くので、信号強度が高くなる。他の電波が飛び交っていても、通信相手のAPの信号の方がずっと強いので、通信が識別できるわけだ。
言葉を変えれば、電波に強い指向性を持たせるということだ。APとSTA間がレーザービームで結ばれるような絵を想像するとちょうどよい。なお、実際の環境では壁などの反射があるため、反射波も含めて信号強度が強まるように制御している。
さらに、同研究所では同様の技術を利用してAPが通信相手以外のSTAに対して干渉波を打ち消すために調整されたビームを送るようにした。また、AP間通信を利用して隣接APと協調し、お互いの配下のSTAの無線環境を把握した上で、隣接無線LANセル内のSTAにも干渉波打ち消しビームを送るようにした。これにより、同一AP配下のSTAも、隣接するAP配下のSTAも、互いに干渉することなく同時刻に、同チャネルで、他に干渉を与えずに同時通信できる仕組みが出来上がった。
セル間干渉除去通信実験で送信電力対正規化スループット特性を見たところ、APが2つの場合には、時分割空間多重方式よりも通信量を約2倍に向上できることが分かった。なお、ビームフォーミング自体はIEEE 802.11nやIEEE 802.11acでも規定がある技術だ。その技術を洗練し、改善したのがこの実験といえる。
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