端末過密時代の無線通信「DTNマルチキャスト配信」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)
回線が届かなくてもスマートフォンにデータ転送できる新技術が登場した。端末過密環境でこそ本領発揮する通信インフラの新たな形とは?
今回のテーマは、スマートフォンやタブレット端末同士が無線LANアクセスポイント(AP)なしで互いに通信しあい、数珠つなぎの要領で大規模情報配信ネットワークを形成する「DTNマルチキャスト配信」だ。災害時の避難所での迅速な情報配信や、通信端末が過密な繁華街やイベント会場などでの高速かつ大容量のデータ配信ができる新しい通信技術だ。
「DTNマルチキャスト配信」とは?
ここは大災害に見舞われ、孤立した被災地の避難所。固定電話も携帯電話基地局も失われ、個人が持ち込んだスマートフォンは多数あるものの通信手段が何もない。
近隣の避難所からタブレット端末を抱えた市役所職員がやって来た。すると被災者の手元のスマートフォンに「避難状況・安否情報」や「支援物資リスト」などのファイルが次々に届き始める。避難した住民は何の操作もせず、避難所で知りたい情報が、職員のタブレット端末から直接プッシュ配信される。
数秒から数十秒の間に、そこにいた数十名の無線LAN端末に同じファイルが配信された。それを開くと安否確認や避難生活に必要な情報などが閲覧できる。スマートフォンやタブレットの機能性、機動性により、情報は迅速に避難所全体に行き渡る。こんなシーンを実現しそうなのが、NECが開発中のDTNマルチキャスト配信技術だ。
デモ風景を図1に掲げる。専用アプリを導入したタブレットを10台用意し、1台のタブレットで撮影した画像ファイルを一斉に発信する。次々とファイルが他のタブレットに転送され、画面表示される。
発信後、時間を置かずに同時に表示された端末数台は発信元から転送が成功したものだ。遅れて表示された数台は、既に転送が成功した他の端末からファイルを受信したものだ。どの端末から受信したのかは分からないが、数十秒の間に9台の端末が同じファイルを受信完了した。
DTNマルチキャスト配信技術のポイントは?
なぜ無線LANアクセスポイントもないところで通信できるか。無線LAN端末が備えるアドホックモード通信を利用したからだ。これは、アクセスポイントを経由せず、無線LAN端末が直接相手の端末と通信するモードのこと。アプリケーション側で目的外の使用を制限しながら利用できるようにすれば、リスクなくアクセスポイントなしでの相互通信が行える。
この手法を利用して、素早く多数の端末に情報を自動配信するのがDTNマルチキャスト配信だ。「DTN」は「Delay/Disruption Tolerant Network」の頭字語で、「蓄積転送型ネットワーク」のこと。
DTNは、例えば野生動物の行動調査や気象観測など、通信インフラが存在しないような地域での情報通信に使われるケースが多かった。このような環境では、端末同士は遠く離れている場合が多い。お互いが近づき、通信が成立するまでは端末内に情報を蓄積し、通信が成立した時点でそれを相手に渡す。受け取った端末が別の端末に近づいたら同じように情報を渡す。まるでバケツリレーのような形で情報を伝達する仕組みだ。
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