端末過密時代の無線通信「DTNマルチキャスト配信」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)
回線が届かなくてもスマートフォンにデータ転送できる新技術が登場した。端末過密環境でこそ本領発揮する通信インフラの新たな形とは?
「DTNマルチキャスト配信」技術の応用と今後
DTNマルチキャスト配信技術の利点は次の4点にまとめられる。
- LTE、3G回線、無線LANアクセスポイントがなくても多数の端末にスムーズなデータ転送が可能
- 転送データに欠落があっても、近隣の端末と補完しあって完全な情報共有が可能
- 端末が移動することで、遠隔地間でも比較的迅速な情報配信が可能
- 電波が不安定な状態でも完全な状態でファイルが受信可能
NECではこうした利点を生かしながら、無線LANアクセスポイントの利用もできるように可搬型のバッテリー付きアクセスポイントや、太陽光発電ユニットでセルフ給電する固定型アクセスポイントの同時利用を提案し、試作機も完成させた。
この研究の一部は、総務省の委託研究「大規模災害時に被災地の通信能力を緊急増強する技術の研究開発(災害時避難所等における局所的同報配信技術の研究開発)」なので、災害対策を基本に開発された。
しかし、実際の用途はそれにとどまるものではない。例えば、首都圏など人と端末が過密に存在する場所では、無線帯域が混み合って通信がつながりにくい状況が生じやすい。その環境下でスムーズな大容量ファイル転送を行う際にDTN技術を応用し、道路を走る自動車間での情報通信(車車間通信)による交通状況情報の交換を図ったり、研修会などの会場で多数の参加者に教材や資料を配布したりすることも可能になるだろう。防災ステーションに到達した情報を周辺住民に即座に配布するのもラクになる。
また、東京オリンピックを念頭に、会場内の多数の端末向けに試合の映像をストリーミング配信することも考えられる。さらに、特定エリアの端末限定の広告やクーポンの配信にも役立ちそうだ。
NECでは、地方自治体の災害情報配信や共有を行うシステム、防災無線をはじめとした社会インフラに広く適用し、安心安全な情報配信ネットワークの実証を目指すという。無線LAN対応デバイスの増加が予想される今後は、過密な情報端末環境の中での迅速な情報配信と共有の仕組みがますます求められる。DTNマルチキャスト配信は、災害時にはもちろん、平常時でも特定エリアでの活用の道がいくらでもありそうだ。
関連するキーワード
マルチキャスト
多数の通信相手に一斉にデータを送信すること。ただし通信相手は設定されたグループ内となる。これに対して、1対1の通信は「ユニキャスト」、不特定多数への一斉送信は「ブロードキャスト」と呼ばれる。
「DTNマルチキャスト配信」との関連は?
NECが開発するDTNマルチキャスト配信は、全てソフトウェアで構成され、専用アプリが必要だ。アプリがインストールされているか否かがグループ設定となる。アプリ導入端末同士は常に信号を発信して相手が通信可能範囲にいるかどうかを確認し、通信できる複数の相手先端末との間にメッシュ型の無線ネットワークを自動的に構築する。情報発信端末は、ネットワーク内の端末に向けて共有したいファイルを一斉送信(マルチキャスト)する。
なお、端末同士はアプリが管理する共有データのファイルについての情報を交換しあい、お互いに欠落しているデータがあれば、それを補う内容を送受信しあう。マルチキャスト配信が失敗しても、どこかに成功した端末があれば、その端末から他の端末に自動的にアドホックモードでファイルが転送される。
DTN(蓄積転送型ネットワーク)
送信するデータをいったん端末内に保管し、何らかのタイミングで相手先に転送するように構築されたネットワークのこと。本文中の例以外に、農業や過疎地避難所など端末が少ない疎密環境での端末同士の直接情報交換に向く。
「DTNマルチキャスト配信」との関連は?
DTNマルチキャスト配信は、端末が一定範囲内に高い密度で存在する状況で効率的な大容量ファイルの配信に向く。避難所はもちろん、災害復旧現場、道路(渋滞状況などの配信)、駅前、大規模イベント、販促などでの利用が好適だ。
また、発信者の近くにいる人のタブレットやスマートフォンなどの端末を自動検知し、その端末に向けてマルチキャスト配信ができるようにした。お互いの端末のコンテンツが一致せず、不足するファイルがDTN内の他端末にあれば補完する仕組みだ。
パケット衝突
無線LANでは多くのデバイスが高速に同時送信をした場合、パケットが通信経路上で衝突し、効率を大きく下げてしまう。
「DTNマルチキャスト配信」との関連は?
DTNマルチキャスト配信技術では、端末同士が同じ時間帯に送信しないようにする時分割制御機能により、パケットの衝突を防ぐ。
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