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断線しても通信可能、無線と有線のいいとこどり「電波ホース」とは?5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)

折れ曲がりや破断があって大丈夫。有線と無線のハイブリッド技術「電波ホース」が登場した。シンプルながら驚きの技術に迫る。

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 今回のテーマは、折れ曲がりや破断があってもLANがそのまま使える、有線通信と無線通信のハイブリッド技術「電波ホース」だ。自動車のワイヤハーネスを代替して重量を10分の1以下にできるという技術は拍子抜けするほどシンプルだ。

「電波ホース」とは

 導電性塗料をコーティングしたプラスチックのチューブで電波を伝送する「ホース」型の通信回線だ。東北大学電気通信研究所の加藤修三教授らの研究チームが2014年2月に発表した。

 自動車内部のワイヤハーネスへの適用を想定し、折り曲げられたり、押しつぶされたり、事故時には破断したりすることもある過酷な使用条件下でも、通信の品質を十分に保って車内LANを運用できる。しかも軽量で従来の車両ワイヤハーネスの重量を10分の1にまで削減できるという。

「電波ホース」の試作品
図1 「電波ホース」の試作品。折り曲げてみても(右上)、指を離すとすぐに回復する(左下)。中身は市販のプラスチックチューブ(右下)で外側の塗料が導電性を持つ(出典:東北大学 加藤修三研究室)

なぜクルマに電波を使うのか?

 もはや「走るIT装置」といってもおかしくないほどエレクトロニクス設備を満載するのが現代の自動車だ。車体内には電子計測や制御を行うECU(Electronic Control Unit)を、大衆車で30個以上、高級車では70から100個程度も搭載し、ゲートウェイコンピュータを通じて連携しながら互いに協調して安全で快適な走行と居住性、低燃費を実現する。そこで問題になるのがECU間の通信だ。

 車内ネットワークは、制御系、オーディオビジュアル系、安全系の複数ネットワークが備えられ、近年ではテレマティクスやレーダーを使うASV(Advanced Safety Vehicle)技術や後部座席での動画鑑賞などのエンターティンメント設備も求められる。以前よりもはるかに大容量のデータを複数の系統でリアルタイムに送受信できる車内LANをどう構築するかが大きな課題だ。

 また、車内LANにはメタルケーブルが用いられ、それを束ねるワイヤハーネスの重量は、軽自動車で10キロ以上、大型高級車では50キロ以上にも及ぶ。車内空間設計面でも燃費面でも、その重量削減は急務だ。

 光ケーブルへの置き換えで省線化はできるが、有線での通信では車体内でのケーブルとり回しや分岐が複雑になるとともに、激しい振動や衝撃が加わる特殊な稼働環境の中では断線の可能性があり、制御系や安全系に用いることはできない。

 そこで有力視されるのが無線技術だ。車内にアクセスポイントを備えてECUに無線LANチップとアンテナを内蔵すれば問題は解決……となればよいが、金属の塊である自動車の中は電波が反射する「マルチパス干渉」が激しく、また人や荷物も障害物になる。空間伝搬では通信が途切れ、走行制御に用いた場合には思わぬ事故につながらないとも限らない。

 有線でも無線でも課題がある高速車内LANをどう構築するか。これを考え抜いた加藤教授らの研究チームが出した解答が、無線と有線を組み合わせたハイブリッド技術「電波ホース」だ。

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