4K/8Kの映像配信を普及させる映像符号化技術「HEVC」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(2/3 ページ)
H.264/AVC規格のデータ圧縮率を2倍に高める映像符号化技術「HEVC」が登場した。4Kや8K普及に弾みをつける高度な技術とは。
技術進歩のポイントは?
従来技術からの進歩は、主に次のような3つのポイントにまとめられる。
- 画像のブロック分割のサイズを大きくでき、効率的な圧縮が可能になった
- 映像内の絵柄の変化をきめ細かく予測して符号化することで効率を向上した
- 復号画像につきもののブロック歪除去処理に加え、ボケ抑制の画素適応フィルタを導入した
図2は、HEVCで映像を符号化するときの流れを示したもので、かっこ付き数字の箇所に上記の技術ポイントが生かされている。以下に少し詳しく説明しよう。
ブロックサイズが拡大
画像の中には、さまざまな形や色が移り変わる部分と、のっぺりとしたあまり変化がない部分とがある。画像全体を同じように符号化するのではなく、複雑な部分は細かいブロックに分けて符号化し、単純な部分は大きなブロックで分けて符号化すると、情報量を削減(圧縮率を上げる)できる。
H.264/AVCの場合は、複雑な部分は4×4ピクセルのブロックに分割し、単純な部分は8×8や16×16ピクセルに分割していたのだが、HEVCでは4×4〜64×64のブロックサイズに分割できる。図3に比較を示すが、HEVCでは類似した画素を極力まとめて1つのブロックにしたことが分かるだろう。これが圧縮率を高くするポイントの1つだ。
映像内の絵柄の変化をきめ細かく予測
圧縮や演算量削減のためには、画像の中の「動き」を検出して次の画像を予測する仕組みや同じ画像内の類似する画素から次に符号化する画素を予測する仕組みが以前から盛り込まれている。これらは「フレーム間予測」と「フレーム内予測」と呼ばれる。
動画の場合、あるフレームの画像と次のフレームの画像のほとんどは大きく変わらず、画像全体の中で一部動くものが写っていることが多い。そこで映像データの受信側で既に持っている画像情報に、動きによる変化の差分情報だけを送り、補正を加えることでグッと情報量を減らす方式が利用される。
例えば、ブロック内に走る車が写っていれば、次のフレームでまた同じ符号化処理と情報伝送を行うのではなく、車の動きを予測して、次のフレームの予測された位置(座標)に、既に受信側にある車の画像データをはめ込むようなイメージだ。図2では、いったん符号化した画像は品質改善を施した上で「ブロック単位の処理」に戻されているが、これはこうした差分を取るための仕組みだ。
動画の細かい動きに対応するため、動きの変化を1画素よりも小さい単位(1/2、1/4ピクセル)で表現したが、画像のメリハリに関わる高い周波数成分が失われて画像が「ボケる」嫌いがあった。HEVCでは高精度な「画素内挿フィルタ」を用いて、高い周波数成分も維持して高精細な信号にする改良が施された。
また、同じフレーム内の画素の類似性を用いた予測も行われる。これは、隣接するブロックの絵柄が類似する画素を一定方向に引き伸ばして予測し、その差分を取って使用することでやはり情報量を圧縮する仕組みだ。
H.264/AVCでは画素の予測は画素のマトリクスの中で8方向の変化(予測モードとしては9モード)しか予測できなかったが、HEVCでは33方向の変化(予測モードとしては35モード)を予測できるようになった。ブロックごとに、より適切なモードを適用できるので、高精度で劣化の少ない符号化が行える。
新しいフィルタ処理の導入
もう1つのポイントは、ブロック歪除去に伴う「ボケ」を抑制するための「画素適応フィルタ」を導入し、元の信号により近い画像を再現できるようにしたことだ。
JPEG画像などで圧縮率を高くすると画像ブロックの輪郭が見えてしまう現象を経験した人も多いだろう。これがブロック歪だ。H.264/AVCではブロック歪除去のためのフィルタが導入され、ある程度ブロックの輪郭が分かりにくい画像再現ができるようになったが、その副作用で画像がボケてしまった。
HEVCではこのボケを抑制するフィルタが新たに導入され、鮮明な画像再現が可能になった。図2に見る「品質改善処理」がこのブロック歪除去とボケ抑制フィルタであり、ノイズが少ない画像から上述の予測を行い、予測性能が改善した。
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