乾電池で10年駆動、日本発の無線規格「Wi-SUN」とは?(1/4 ページ)
地上アナログ放送の停波で空いた920MHz帯を利用する日本発の無線「Wi-SUN」。乾電池で10年間駆動も夢じゃない、驚きの規格を解説する。
今回のテーマは、日本発の世界標準無線通信規格「Wi-SUN」(ワイサン)だ。2013年に東京電力などのスマートメーター(次世代電力量計)への採用が決まった他、2015年1月には家庭内の家電などの電力消費管理を行うHEMS(Home Energy Management System)における家電とHEMSコントローラーの相互通信ネットワークHAN(Home Area Network)の実用化を前進させる世界初の準拠無線機の動作実証が成功した。われわれの生活に一番身近な無線通信規格になりそうなWi-SUNとはどんなものか。
「Wi-SUN」とは?
Wi-SUNは、Wireless Smart Utility Networkの略語で、最大1キロ弱程度の距離で相互通信を行う省電力無線通信規格だ。もともとはガスの自動検針情報の取得を無線経由で行う研究がきっかけだったが、東京電力の電力量計自動検針システムの方が早く採用を決めた。
規格の標準化を主導したのは情報通信研究機構(NICT)で、NICTでは既にWi-SUNを利用した多数の実証実験を行った。NICTが開発したWi-SUN準拠無線機の数例を図1に示す。Wi-SUNの特長は、用途にもよるが乾電池で10年間の駆動が可能という抜群の省電力性と雑音に強い通信品質を持ちながら、他の近距離無線規格が数メートルから数十メートル程度の通信可能距離なのに対し、1キロ弱程度の長距離通信が可能な点だ。このような特長を生かして、スマートメーターやHEMSへの適用が期待され、遠からず各家庭に普及を始めるものと思われる。
図1 Wi-SUNモジュールを搭載した無線機の外観例(左上)温湿度センサー内蔵屋外センサーボックス(右上)乾電池駆動のWi-SUN無線機(左下)USB端子付きWi-SUN無線機(右下)ガスのスマートメーターに取り付けたWi-SUN無線機(出典:NICT)
Wi-SUNはWi-Fiとどう違う?
Wi-SUNは、Wi-Fiと関係がありそうな名前ではある。ともに小電力無線通信仕様の認証を行うアライアンス、またはその認証規格の名称である点は同じだが、他にそれほど共通点はない。
認証とは、製品の規格準拠認証および相互接続性のお墨付きを与えることを意味する。Wi-Fiアライアンスはその前身となる組織が1999年に設立された歴史ある機関で、IEEE 802.11規格に基づく製品の相互接続性を確保するための認証を行う。一方、Wi-SUNアライアンスは2012年設立の新しい機関で、認証するのはIEEE 802.15.4gに基づく製品であり、Wi-Fiが対象とする無線LAN製品ではない。
IEEE802.15.4gは、先行する近距離無線通信規格の「ZigBee」がベースにするIEEE802.15.4の物理層を変更した拡張規格で、変調方式の追加、周波数帯の拡張、データサイズの拡張などを施し、よりスマートメーターに利用しやすくしたものだ。
もともとNICTが国内ガス会社やメーター製造企業と連携してIEEEに提案し、標準化をリードした経緯があり、日本発の国際標準といえる。これに伴い、1つレイヤーが上のMAC層の仕様もIEEE802.15.4eとして標準化された。
Wi-SUN規格は、IEEE802.15.4g規格を最下層(レイヤー1)のプロトコルのベースとすることが決まりごとで、その上のプロトコルをどんな規格にするかは、アプリケーションに応じて決める。このようにして決められたプロトコルのセット(プロトコルスタック)を「Wi-SUNプロファイル」という。
Wi-SUNアライアンスの主要な仕事は、アプリケーションに応じたプロファイルを作成し、認証、相互接続性試験を行うことだ。例えば、後述するECHONET Liteというアプリケーションを利用する場合、図2右端のようなプロファイルを規定した。別のアプリケーションなら、図2に例として示すようにプロファイルを適宜作成して構成することになる。
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