前進か撤退か? BYODがワークスタイル変革に与えるインパクト:すご腕アナリスト市場予測(3/3 ページ)
各社、捉え方が違うBYODをあらためて整理しながら、ワークスタイル変革にBYODが与えるインパクトを考察する。
BYODはワークスタイルをどう変えていくのか
さて、社内規定が合理的に策定できたとして、BYODはどんなワークスタイルを作り出していくだろうか。
IDCでは、企業経営から見た「多様な選択肢を用意し、個人が自らのパフォーマンスを最大限に引き出せる職場環境を実現すること」そして従業員から見た「企業が提供する環境で自らの働き方を創造し、仕事だけでなく自らのライフスタイルとのバランスを考慮し実現すること」を「ニューワークスタイル」と定義している。
ニューワークスタイルを実現するためにはどのように働き方を変えればよいのであろうか。そのヒントは「いつでも」「どこでも」「どのようなデバイスでも」働ける環境を作ること、そして、それを選択できる事とIDCで捉えている。その実現の鍵は、「ITの活用」「人事/労務面での施策」「ファシリティの改善」にある。その全体像を図3に示す。
ITの活用がつくり出すワークスタイル
モバイルデバイスを有効に業務利用できる要素として、仮想デスクトップ、コラボレーションツール、リモートアクセス、モバイル仮想化(パブリックDaaSなど)、オンラインストレージ、各種クラウドサービス、SNS、それらの下層にあるモバイルセキュリティなどがそろい、それぞれがより使いやすくなっているのが今の環境だ。
BYODはもちろんのこと、冒頭で触れたBYOxのそれぞれが実用的なレベルで活用可能になっている。ITベンダーの多くがオンプレミスシステムよりもクラウド化やWebシステム化を積極的に押し進めており、ITの方向性は明らかに従来とは変わっている。
特に注目したいのは、クラウドのプラットフォームとして普及しているAmazon Web ServiceのパブリックDaaSであるAmazon WorkSpacesなどの仮想デスクトップサービスだ。これはクラウドベースのデスクトップを簡単にプロビジョニングして、企業の文書やアプリケーションなど情報資産をPCや各種モバイルデスクからアクセスできるようにしてくれる。
結果として、従来のVDIソリューションよりも低コストにシンクライアント環境が利用できる。どこからでも、どの端末からでも、同じ業務を行うことができる作業環境が手に入ることになり、シンクライアントの適用領域をオフィス内から工場や店舗などに拡大し、しかもモバイルでも利用できる環境が整うことにより、ワークスタイルはさらに柔軟で充実したものになりそうだ。
またハードウェアとソフトウェアのバンドル提供もされており、現在のところはまだソフトウェアの品ぞろえが十分ではないが、今後業務アプリケーションがバンドルされるようになれば、中堅・中小規模の企業にも導入しやすいソリューションになっていきそうだ。
人事/労務制度が変えるワークスタイル
もともとオフィス内でPCを利用するスタイルを前提にして作られてきたこれまでの人事/労務制度は、その制度そのものと、評価および報酬の適正化を抜本的に改革する必要に迫られている。BYODをはじめとする新しいITの活用が、従来の人事/労務の枠組みを超えた柔軟で多様なワークスタイルを可能にしており、それに追随して制度のほうを適正化していかなければ、業務効率化や生産性向上の妨げになってしまうからだ。
例えば在宅勤務、テレワーク、モバイルワーク、育児休暇、介護休暇、ボランティア休暇、フレックス勤務、裁量労働、時短勤務、時間あたりでの勤務評価、成果主義、年棒制、ストックオオプションなど、新しいワークスタイルを生み出すために規定の改変や新規策定が必要な要素は多い。
「ワークスタイルの変革」は流行のキーワードになっているが、それを請け負うコンサルティング会社も多くなり、ITベンダーと協力して、企業に新しいワークスタイルを確立するための提案およびその実行支援を行っている。
一気に大きな変革を行うのはリスクが高いものの、コンサルティング会社の力を借りながら、効果の高い部分から始めて試行錯誤を重ねつつながら徐々にワークスタイルを変えていく方が成功しやすいはずだ。少し前までは自社で手探りで進めていかざるを得なかったことが、現在では外部の力を借りて少ない労力とコストで結果を出せるようになっているところが大きな進歩だ。
ファシリティが変えるワークスタイル
ファシリティの変化も、ITの進化に歩調を合わせ、ワークスタイルの変革に大いに貢献する。技術的には主に無線通信設備とモバイルデバイスの利用がカギになる。フリーアドレスオフィス、オープンスペース、コミュニケーションスペース、あるいは図書館、カフェ、共用スペース、交通機関、店舗などを活用した「ノマド」スタイルのワークスタイルが可能になっている。
単にモバイルデバイスでどこでも仕事ができるというだけでなく、オフィスの設計そのものも、モバイルデバイス利用を意識した工夫が施されている。ある国内企業では、ビル新設に合わせてワークスペースの大胆な新設計を行い、6角形のフロアスペースに回遊廊下を配置し、廊下の内側と外側に執務スペースや研究施設、打ち合わせスペース、コミュニティースペースなどを並べるレイアウトにした例がある。
従業員は回遊廊下に沿って執務や打ち合わせなどのために日常的に移動しながら勤務することになり、専門性が違う従業員同士が出会い、会話して情報交換するなど、従来にないワークスタイルを創出し、生産性に結び付けようとしている。それも、フロアのどこにいても社内の情報リソースが自由に使えるIT環境があってこそだ。
以上、今回はBYODの定義や普及状況を見たうえで、BYODをはじめとするモバイルコンピューティングがどうワークスタイルの変革に関わるかを考えてみた。図3をもう一度見てほしい。ITは従業員や会社に多様なツールやサービスの選択肢をもたらし、制度やファシリティがITの進化を前提に作り替えられることで、多様な従業員のライフスタイルを支えるものにもなる。
ワークライフバランスを保ちながら、より生産性が高く、従業員が働いて楽しい会社にしていくためにも、ITの活用は今後ますます重要になるだろう。なお付言しておくと、ITの進化は職業の価値にも変化をもたらすと思われる。
例えば、コンサルタント、セラピスト、研究者、プロデューサー、クリエイターなど専門性が高い職業はますます機能が強化されていき、事務員、受付、物流、警備員、運転手、通訳などのように認知システムやロボティクスが進むと機械に代替される部分が多くなる職業は機能が他の方向に転化していかざるを得ない。これも1つのワークスタイルの変革の側面だ。
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