タンパク質でデジタル信号を処理する「タンパク質光スイッチ」とは?:5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)
遠赤色光を利用して光変換と蛍発生を行うタンパク質を応用し、研究が進む「タンパク質光スイッチ」の全貌を解説する。
バイオエネルギーの産出にも期待
さらに、バイオエネルギー源としての活用も期待できる。光合成は、赤色光と青色光を吸収するクロロフィルにより行われるため、例えば、緑色光と遠赤色光とで変換する光スイッチを開発できれば、光合成の生産性をあまり損ねることなく光で光合成生物を制御できる。
図6に見るように、緑色光を照射して窒素源を取り込むことで生物を増殖させ、量が増えたところで遠赤色光を照射して、窒素源の取り込みを阻害し、グリコーゲン(糖)や油脂を生産するようなシステムが考えられる。これにより、エタノールなどのように燃料として使いやすいエネルギー源が、効率的に生産できるようになる可能性がある。
なお、2014年のノーベル化学賞を受賞したシュテファン・ヘル氏による光学顕微鏡の「超解像技術」には、2種類のレーザーを利用して蛍光分子を励起したり基底状態に戻したりする仕組みが使われていた。光スイッチングを行うタンパク質はその蛍光分子を作るのにも応用できそうだ。
また、光を当てると色が変わるガラスなどの装飾用途、「食べられる」タンパク質でもあるため、蛍光を発するケーキ(既にウェディングケーキに応用されている)や、光で色が変わるお菓子などへの応用など、エンターティンメント要素の強い食品への応用も可能かもしれない。
関連するキーワード
光スイッチ
IT分野では、光ファイバーからの信号を電気信号に変換せずに、複数の光ファイバー経路に割り振ることを指すことが多い。プリズムを利用するメカニカル方式(機械式)と微細なマイクロミラーを組み込んだMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式とがある。
しかし、超高速な光スイッチを実現するためには、光の強さの三乗に比例する非線形工学効果を持つような素材(三次非線形光学材料)が必要と考えられ、材料研究が進められている。
「タンパク質光スイッチ」との関連は?
今回紹介したタンパク質光スイッチは、生物の体内での光センサー機能やスイッチング機能、蛍光発生といった生化学分野での研究によるもので、上記のIT分野でのアプローチとは異なる。高速ルーティングや光コンピュータへの応用可能性は未知数だ。それよりも本文で紹介しているような応用用途を主とした活用が期待される。
シアノバクテリア
植物と同様に酸素発生型の光合成を行うバクテリア。シアノバクテリオクロムと呼ばれる光センサー群が光の感知に重要な役割を果たしている。
「タンパク質光スイッチ」との関連は?
シアノバクテリア研究の中から、光を吸収する多様な色素が発見された。その中で長波長の光を吸収するビリベルジンという色素を結合するシアノバクテリオクロムはこれまで見つかっていなかった。今回、成川氏らの研究チームはアカリオクロリスという一般的なクロロフィルではなく長波長の光を吸収する特殊なクロロフィルをもつシアノバクテリアの一種に着目し、遠赤色光を吸収するシアノバクテリオクロムを世界で初めて発見した。
バイオエネルギー
光合成により炭水化物を生成して増殖する植物やバクテリアなどを起源とするエネルギーのこと。バイオエネルギーを生む生物資源を「バイオマス」という。
「タンパク質光スイッチ」との関連は?
太陽光の青・赤成分と、遠赤色光との間で光スイッチングを行うタンパク質を生物に導入すれば、太陽光下ではそのエネルギーを自らの栄養に変えて増殖し、遠赤色光下ではエタノールなどの燃料に容易に変換できる糖などを産出するようなエコシステムが考えられる。
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