どれだけ簡単になった? 請求書をe-文書法対応スキャナで保存してみた
電子帳簿保存法の改正で、税務関係書類のスキャナ保存の規制が緩和された。現場のスキャニング作業はどれだけ簡単になるのだろうか?
電子帳簿保存法が2015年9月30日に改正され、スキャナ保存の要件が緩和された。同法では、紙で作成された領収書や請求書、見積書等の「税務関係書類」について、真実性や可視性を確保するための一定の要件を満たす場合に限り、スキャナによる保存(スキャナを利用して作成された電磁的記録による保存)を認めている。
2015年の規制緩和では認められなかったが、「スマホで領収書を撮影してデータ化」も解禁が近いといわれる。さらなる規制緩和が行われれば、紙の領収書や請求書をどんどんスキャナで電子文書化したいと思う企業も増えるはず。対応するソリューションも今後1〜2年の間に次々と登場してくるだろう。
とはいえ、入口となるのは領収書等をスキャンする部分だ。本稿ではドキュメントスキャナの中でいち早く「e文書モード」を搭載した製品の使い勝手を紹介したい。また、2016年秋のスマホ解禁に向けての動きも取り上げよう。
要件を満たしたスキャナの設定
2015年秋のスキャナ保存の要件緩和では、個人の実印に相当する電子署名が不要となり、「電子化できる契約書や領収書は額面が3万円まで」という金額規制が撤廃された。間違えてはならないのは、スキャナに求められる仕様に変更はないという点と、今回の改正ではスマホ撮影は解禁されなかったという点だ。
まずは、スキャナの要件を確認していこう。契約書や領収書、請求書、納品書といった資金や物の流れに直結・連動する書類は、国税関係書類の中でも「重要書類」としてフルカラーでのスキャンが求められる。また、解像度や階調、スキャン対象物の大きさ情報なども保持しなければならない。
- 4ポイントの文字が読めること
- 解像度は200dpi以上であること
- 赤、緑、青の各色でそれぞれ256階調以上であること
- スキャナ機器は「原稿台と一体となっている」こと
ところで、解像度や階調といったスキャナの設定を保存することはたやすいが、領収書や請求書など紙の書類の大きさに関する情報はどのように保持するのだろうか。ここでポイントとなるのが、「原稿台と一体となっている」というハードウェアの規定だ。スキャナの読み取りセンサーと原稿までの距離が常に一定であれば、ファイルのピクセルサイズとdpiから元書類の大きさが逆算できるというわけだ。
ちなみに、この規定自体が2005年に制定されたもの。当時から存在していたハンディ型スキャナを排除するための規定だったという。当然、スマホの登場やそのカメラの進化などは考慮されていない。
なお、データ化したファイルの保存形式は特に定められていない。JPGやTIFFなどの一般的なフォーマットでも構わないが、電子化した文書のその後の活用を考えるとPDFでスキャンするのがよいだろう。また、「重要書類」以外(資金や物の流れに直結・連動しない書類)は「一般書類」として、グレースケールでの読み取りが解禁される。
ScanSnapの「e-文書モード」を試す
今後、各社から税務関係書類のスキャナ保存の要件を満たすモードを搭載するドキュメントスキャナがリリースされるだろう。既に国内シェア1位のPFUは現行の全機種で対応モードの搭載を完了している。実際に請求書をスキャンする作業がどのような形になるのか、さわりの部分だけを紹介しよう。
やることは普段のスキャンとほとんど変わらない。事前に専用マネジャーソフトから「e-文書モード」を選択しておくという操作が1つ加わるだけだ。ユーザー側が電子帳簿保存法のスキャナ保存要件を満たすようにパラメータを設定する必要はない。むしろ、機械に任せて何もせず、原稿台にスキャンする請求書をセットして、スキャン開始ボタンを押すだけだ。
この後の工程として、スキャンデータを文書管理システム側に流してタイムスタンプ付与やファイリングサーバへの保存などが発生するが、スキャン作業そのものは拍子抜けするほどあっさりと終わる。
修正ペンでの金額改ざんの形跡がはっきりと分かる
通常の読み取り設定と「e-文書モード」では何が違うのか。2つを見比べてみれば一目瞭然だ。通常設定では、白い紙は白く、黒い文字はくっきりと見えるように補正される。しかし、「e-文書モード」の方は全体的に色味が濃くなり、白地もグレーに見える。これは金額などが改ざんされた形跡がないことを示すための仕様だ。紙の領収書に汚れや折り目があれば、それがそのまま電子データからでも分かるようになってなければならないのだ。
コラム:スキャン画像に「指」が写り込んでも問題なし
ところで、製本した契約書などをドキュメントスキャナでスキャンするのは手間がかかる。その場合は、オーバーヘッド型スキャナを使うと便利だ。ただし、そのほとんどは「一体化した原稿台」を備えておらず、スキャンしたい書類を机の上にじか置きする。そのまま使うとスキャナ要件の適合外となってしまうので、メーカーから後付けできる原稿台が提供されているかどうかを確認してから導入したい。
ちなみにこのタイプのスキャナでは、台形自動補正機能や原稿のページを押さえている指などを範囲選択して消してしまう機能が備わっているものが多い。
機械的に行われる前者は修正に当たらないが、スキャン作業者が任意に設定できる後者の機能を使うと「改ざん」とみなされる(前述のように「e-文書モード」にしておけば、そもそもこの機能が使えなくなる)。
なお国税庁では、「余白の部分を押さえていれば、契約書データに指が写っていても問題ない」としている。念のため、申請時に確認しておこう。
スマホでの領収書撮影、どのような形で解禁される?
2015年末に出てくるであろう平成28年度税制改正の大綱で、スマホやデジタルカメラで撮影した領収書の電子文書化は、機能限定的になるとはいえ解禁されそうだ。企業ユーザーからの強い要望もあり、経済産業省から財務省に提出された要望書にも、はっきりとスマホ解禁を希望する旨が明記されていた。
既にスマホのカメラで領収書を撮影して経費精算を終わらせてしまうクラウドサービスは存在する(ただし、現行法の下では領収書原本を保管するためのファイリング作業は残ったままだ)。利用ユーザーの声を集めた。
野村證券の場合
全国に支店を展開する野村證券では、本社に集められるタクシーの領収書だけで年間15万枚以上になる。また、外回りの従業員が経費精算のためだけにオフィスに戻り、領収書をのり貼りする工数が発生する。各支社から本社に領収書原本を輸送したり保管したりするためのコストは年間5億円以上といい、紙の領収書の保管だけで毎月60個の段ボール箱が必要だ。
富士ソフトの場合
富士ソフトでは、2014年8〜9月の間に約1840件の領収書を伴う経費精算があった。このうち、約90%が額面3万円未満だった。スマホでの電子化が認められて紙の保管が不要になれば、倉庫費用などを含めて年間で約800万円の直接的なコスト削減となり、経理担当者が月末に行う確認作業や、整理・管理作業の人件費まで考慮すれば年間1000万円のコスト削減効果が期待できる。
スマホ撮影による領収書データ化の懸念点
一方で、スマホ撮影による懸念点も多く、この部分をどのようにつぶしていくのかが現在の検討事項だ。
まず指摘されたのが「領収書の使いまわし」をどのように防ぐのか。例えば、同じタクシーに乗り合わせた複数人がそれぞれ領収書を撮影して経費精算するケースが考えられる。同じ企業に属する従業員であれば、「同じ日」「同じ時間」「同じ金額」などをキーとしてシステム側ではじくこともできそうだ。だが、取引先と同乗した場合はすり抜ける可能性が高い。
これに対しては「領収書には経費精算申請者による手書きの署名を入れたらどうか」という提案がされているそうだ。
次に「領収書の大きさ情報」をどのように確保するのか。領収書とそれを撮影しようとするスマホの距離は専用の撮影台などを使わない限り一定にならないので、紙の領収書の大きさデータを計算できない。
そこで対策として出てきたのが「目盛りを印刷した専用の台紙の上に領収書を置いて撮影する方法」「比較対象物として社員証などを定めて同時に写りこませる方法」など。この解決策はまだ決まっていない。
一方で、スマホカメラの解像度や画素数の問題はクリアになりつつある。A4サイズ(210×297ミリ)やA4レターサイズ(216.9×279.4ミリ)を撮影する場合に、大きさ情報を記録するための目盛り部分も含めて計算すると、200dpiを確保するために必要なカメラの画素数は464万画素以上であればよい。市販されているスマホのカメラ画素数はほとんどが500万画素以上であるため問題はなさそうだ。
スマホ解禁がどのような形で行われるのかはまだ分からないが、1つの目安となるのは2015年末に出てくるであろう平成28年度税制改正の大綱の与党案だ。ここにスマホ解禁が記載されていれば可能性がグッと高まってくるだろう。
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