あなたの会社に合うのはどれ? マーケティングオートメーションの選び方
企業のマーケティング活動を支援する「MA」。米国では10年以上前から普及しており、その実績を引っ提げて外資系ベンダーが続々と日本市場に参入している。
企業のマーケティング活動を支援するITソリューション「マーケティングオートメーション(MA)」。日本での認知度はまだ高くないが、米国では10年以上前から普及しており、その実績を引っ提げて外資系ベンダーが続々と日本市場に参入している。そこで本稿では、MAの基本について概説するとともに、製品選定ポイントを挙げてみよう。
MAとは一体どのようなソリューションなのか?
MAとはその名の通り、企業のマーケティング活動を自動化(オートメーション)するものだ。とはいえ既存のマーケティング業務の単なる省力化ではない。そういったメリットもあるが、むしろまったく新たなマーケティング手法を取り込むことがMAの主たる目的であり、また実際にMAを導入する企業のほとんどがそうした効果を狙っている。
より具体的にいえば、メールやWeb、SNS、モバイルアプリといったさまざまなデジタルコミュニケーション手段を駆使して見込み客の購買意欲を高めていき、最終的に自社の顧客となってもらうためのさまざまなマーケティング施策をシステムで自動実行する。
例えば、ある見込み客が自社サイト上のカタログPDFを閲覧していたとしよう。これをシステムが検知すると、あらかじめマーケターが定義しておいたシナリオに沿って、より詳細な製品情報や導入事例といった別のコンテンツをメールで自動的に案内する。
このように見込み客に対して適切なタイミングで適切なコンテンツを自動的に提供することで、段階的に購買意欲を高めていき、最終的には自社製品のファンへと育成していく。この一連のマーケティングプロセスを、システムで自動化するのがMAの最大の目的である。
ただしこうした取り組みは、「一度導入すれば後はシステムに任せきり」というわけにはいかない。では、どうしたらいいだろうか?
個々のキャンペーン施策の効果は、随時人間の目によって評価されることで、次の施策の改善へとつながっていく。こうしたPDCAサイクルをスムーズに回していくためにMAが提供するのが、マーケティング施策の効果をさまざまな指標を用いて数値化する機能だ。
MA導入の効果は、マーケティング施策の改善サイクルを迅速に回せるようになることだけではない。自社のマーケティング活動のボトルネックや無駄が可視化され、予算や人員の最適配置へとつなげられるようにもなる。
またマーケティング部門にとっては、自分たちの日々のマーケティング活動の成果が見える化されることで、経営陣や他部門との折衝をスムーズに運びやすくなるという効果も期待できる。
コラム:マーケティングオートメーション、CRMやSFAと何が違う?
MAは、CRMやSFAと混同して捉えられてしまうことも少なくないようだ。CRMやSFAは企業の営業部門が使うシステムであり、MAはマーケティング部門のマーケターが使うシステムだ。
日本企業ではマーケティング専門の部署を設けていることが少ないため、「マーケターが使うシステム」と聞いてもあまりピンと来ないかもしれない。マーケターの仕事は「見込み客の発掘、育成、選別」であり、営業部門はマーケティング部門が選別した見込み客に対して営業活動を行う。
このように、両者の役割は明確に分かれていると同時に密接に関係もしている。従ってMAとCRM、SFAも互いにスムーズに連携できた方がそれぞれの本来の目的を達成しやすいだろう。
今、国内でMAをうたう製品のほとんどが、先に挙げたような「マーケティング施策の設計と自動実行」「見込み客情報の管理」「マーケティング効果の定量化や可視化、分析」といった機能を備えている。しかし、その細かな仕様や使い勝手には、製品ごとに差異がある。ここでは、実際に製品を選定する際のポイントを挙げてみよう。
自社で重視する顧客接点チャネルの充実度は?
MAツールの多くは、Webログ解析ツールやメールマーケティングツール、CRMツールなどから派生、発展してきたものが多い。そのため多くのMAツールが「マルチチャネル対応」をうたうものの、その出自によって「Webチャネルが得意なもの」「メールが得意なもの」「オフラインのイベントやキャンペーンが得意なもの」といったように色分けできる。
従って製品を選定する際には、自社のマーケティング施策で重視する顧客接点チャネルがサポートされているかどうか、その使い勝手はどうかといった点を重点的に確認すべきだ。
オフラインチャネルへの対応はどこまで必要か?
MAの取り組みが旧来のマーケティング手法と大きく異なるのは、Webやメール、SNSといったデジタルの顧客接点をフルに活用し、きめ細かい1 to 1マーケティングをシステムで自動実行できる点にある。しかし、MAが先行する米国とは異なり、日本ではイベントや展示会での名刺集めといったオフラインでのマーケティング施策も依然として大きな比重を占めている。
従って、オンラインだけでなくオフラインのチャネルへの対応度も製品選定のポイントになる可能性が高い。例えば国産ベンダーのシャノンが提供するMAソリューションは、もともとイベント管理ソリューションを得意としてきたこともあり、オフラインイベント対応の充実度を強みとしている。
キャンペーン対象者リストの抽出条件を柔軟に設定できるか?
MA製品の導入を検討する際には、自社のマーケティング施策を設計、実行することを想定して一通りの機能を事前に確認しておきたい。テスト導入時点で現実の業務を想定しておかないと細かな機能の過不足や使い勝手はなかなか見えてこないからだ。
ここで見込み客データベースの中からキャンペーン対象者を抽出する作業を想定してみよう。多くの製品は、あらかじめ典型的な抽出条件を用意しているが、それらが果たして自社の要件に沿うかどうかは実際に確認してみないと分からない。
例えば「肩書」を条件に指定して対象者を抽出する際、日本企業に特有の肩書や、業種や各企業に特化した肩書にどこまで対応しているのかといった点だ。実際に製品を現場で利用する際には、こうした細かな機能の有無が意外と使い勝手を大きく左右することがある。
その製品はB2B向けなのか、それともB2C向けなのか?
ここまで紹介してきたMA製品の役割や機能は、どちらかというとB2Bを前提としたものだが、これがB2Cとなると若干異なるマーケティング手法が使われる。従って一口に「MA製品」といっても、それがどちらのマーケティングを得意としているのかを確認し、自社(もしくは組織)のビジネスモデルに合致したものを選ぶ必要がある。
例えば日本オラクルでは、MA製品のラインアップとしてB2B向けには「Oracle Marketing Automation (Oracle Eloqua)」、B2C向けには「Oracle Cross Channel Orchestration(Oracle Responsys)」を提供する。また、米国のMA専業ベンダーであるマルケトでは、自社製品がB2BとB2Cのどちらにも同じツールで対応できることをうたう。
前項では、主に製品の機能面を中心に選定ポイントを紹介したが、ここからは非機能要件に関する選定ポイントを挙げてみたい。
管理すべき見込み客のデータ量はどのくらい?
B2Cを前提としたMA製品では、B2Bとは比べものにならないほど多くの見込み客をデータベースで管理しなくてはならない。従って、製品の利用料やライセンス費が「管理対象となる見込み客の数」で決まるような場合、コストのことを考えておかないと「高い買い物だった」と後悔するかもしれない。
製品導入を検討する際には、MAで管理することが予想される見込み客の数、そして自社のビジネスモデル(B2CかB2Bか、もしくはその両方必要なのか)を鑑みた上で、掛かるコストをあらかじめ試算しておくことをお勧めする。
クラウドか、オンプレミスか?
今日、ほとんどのMA製品はSaaSのクラウドサービスとして提供されている。クラウドサービスには、初期導入コストや運用コストを低く抑えられる、短時間のうちに利用を始められるといったメリットがある。だが、自社の事情によりクラウドサービスを利用できないケースもあるだろう。
クラウド型MA製品のほとんどが、見込み客のデータベースもクラウド上で管理する。つまり、個人情報を含むデータをクラウド上に置くことがポリシー上許されない企業ではオンプレミスで導入できる製品を検討すべきだろう。
また、同じクラウドサービスでも「国内のデータセンターならOKだが、海外のデータセンターはNG」という場合もあるだろう。あらかじめデータセンターのロケーションを確認した上で導入を検討する必要が出てくる。
自社向けのカスタマイズは本当に必須なのか?
クラウドよりオンプレミスを好む企業の中には、「自社の既存業務に合わせて製品をカスタマイズしたいから」という理由を挙げるところも少なくない。しかし、冒頭でも紹介したように、本来MAは「従来型とは違う、デジタル時代に即した新しいマーケティング手法を取り入れて更に成長する」ために導入するものだ。単に既存のマーケティング業務を効率化したいだけであれば、そもそも「クラウドかオンプレミスか」以前に、MA以外のツールを選んだ方が無難かもしれない。
なお、クラウドサービスとして提供されるMA製品が柔軟性や拡張性に欠けているというわけではない。たとえMA製品そのものに大幅に手を加えるのが難しかったとしても、近年のMA製品は他の製品と柔軟に連携することでシステム全体の機能を拡張できるようになっている。
例えば、多くのMA製品は、データ分析用の製品やクラウドサービスと連携してより高度な分析機能を提供したり、あるいはCRM/SFAと連携して顧客データや商談データとマーケティングデータを掛け合わせた集計や分析ができる機能を備えていたりする。
製品を選定する際、その製品単体だけでなく、こうした連携ソリューションまで視野に入れることができれば、よりシステム活用の幅も広がることだろう。
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