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ありがちな失敗に学ぶ、マーケティングオートメーション導入マニュアル

せっかくMAを導入しても、当初想定していたほどの効果を上げられなかったり、業務現場でほとんど活用されなかったりといったケースも少なくない。導入を成功させるために気を付けるべきポイントは何か?

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 これまでにない新たなマーケティング手法を取り入れ、企業の収益向上に大きく貢献することが期待されている「マーケティングオートメーション(MA)」。国内ではまだ普及しているとは言い難い一方で、早くからMAの取り組みに着手している企業もある。

 しかし、その試みの全てが成功しているとは言いがたいようだ。せっかく高額なITツールを導入しても、当初想定していたほどの効果を上げられなかったり、業務現場でほとんど活用されなかったりといったケースも少なくない。では、MAの導入を成功させるために気を付けるべきポイントは何か?

MAで利用するコンテンツはそろっているか?

 MAは企業のマーケティング活動に変革をもたらす画期的なソリューションとして大きな期待を集めているが、他のいかなるITソリューションとも同じく、ITツールを導入すれば全て事足りるというわけにはいかない。ITツールうんぬん以前に、体制作りやビジネスプロセスの改善、社内の根回しといったような「IT以外の要素」が、むしろ導入の成否を大きく左右することが多い。

 確かにMAツールを導入すれば、見込み客に適切なタイミングでメールやホワイトペーパー、Webページといったデジタルコンテンツを自動的に提供し、購買意欲を高めていくための一連の“仕組み”を構築できる。

 しかし、その仕組みに乗せるためのデジタルコンテンツが十分に用意されていないと、せっかく導入したMAの効果も限定された範囲にとどまってしまうかもしれない。従って理想的には、MAの導入前にデジタルコンテンツを使ったマーケティング、いわゆる「コンテンツマーケティング」の取り組みが行われていればベストだ。

 ただし、コンテンツの準備が不十分であっても、後述するように限定された範囲で小さくMAの取り組みを始めて一定の効果を得ることは十分に可能だ。 あるいは、これまで人手に頼っていたコンテンツ配信作業をツールで自動化するだけでも業務効率を大幅に改善できるだろう。

 まずは、自社における デジタルマーケティングの取り組みの成熟度がどの段階にあるか、そしてマーケ ティング業務のどのプロセスにボトルネックや抜け、漏れがあるのかをきちんと 判断した上で、MAツールの導入効果を測るべきだろう。

マーケティングオートメーションの理想形
図1 マーケティングオートメーションの理想形(出典:マルケト)

他部門とのコラボレーションの下準備はできているか?

 MAの導入は通常、システムの直接の使い手となるマーケティング部門の主導によって進められる。しかしMAの取り組み自体は、マーケティング部門だけで行われるものではなく、他部門とのコラボレーションが必須となる。

 例えば、コンテンツの制作やWebサイトの改修を行うたびに、他部門に作業を依頼する必要が出てくるだろう。見込み客にコンテンツを提供するたびに、担当営業との根回しが必要になるかもしれない。こうした他部門とのコラボレーションの下準備を怠ってしまうと、MA製品の導入には成功しても、MAの取り組み自体はなかなかうまく回らないというケースも少なくない。

 マーケティング部門では「キャンペーンをすぐにでも開始したいのに、コンテンツが全然アップロードされていない。担当部署は何をやっているんだ」、かたや情報システム部門などでは「マーケティングは担当外の業務なのに、あれをしろ、これをしろ、すぐにやれと文句ばかり」といったネガティブな感情が生まれてしまうと、巻き返しを図るのは難しい。

ITツールの導入だけで予算を使い果たしてしまった

 予算の確保と案分も、MA導入の成否を分けることがある。「ITツールさえ導入すればMAは実現できる」――こうした考えの下に導入計画を立てると、MA製品の導入が完了した時点でほぼ全ての予算を使い切ってしまうことも考えられる。しかし製品導入の完了は、あくまでもようやくスタートラインに立ったにすぎないのだ。

 適切なコンテンツを適宜制作し、マーケティング施策を設計し、その検証と改善のサイクルを継続的に回してみて初めてMAはその効果を発揮する。こうした活動を回していくための予算が残されていないと、製品を導入したはいいものの結局使われないままに形骸化してしまうことになりかねない。

他部門と共有できる導入効果を提示する

 前項で紹介したように、MA導入の成否は、マーケティング部門が他部門との間でどれだけ事前に合意を形成できるかにかかってくる。そのためには、MAの導入効果を他部門に理解してもらえるよう、早い段階から根回しをしておいた方がいいだろう。これを行わずにMAを導入した後に急に協力を依頼しても「聞いていない」「なぜ勝手に仕事を増やすんだ」といった反発を招きかねない。

 こうした事態を避けるには、マーケティング上の効果だけでなく、他部門からも共感を得やすい全社的な導入効果を前面に打ち出してうまくアピールする必要があるだろう。例えば「売上が上がる」「収益が改善する」といった効果やゴールを示すことができれば、他部門の協力を引き出しやすいだろう。また場合によっては、経営陣からトップダウンでMAの取り組みへの協力を全社に認知させることも必要かもしれない。

営業部門と共有できるKPIを設けておく

 MAの導入を成功させるためには、特に営業部門の協力が不可欠である。しかし営業部門とマーケティング部門は何かと対立しがちだ。「マーケティング部門がせっかく見込み客を営業に紹介しても、ちっとも動いてくれない」「マーケティング部門から紹介された見込み客に営業をかけても、まったく反応が薄い。もっと確度の高い見込み客はいないのか?」

 こうした対立が生じる最大の原因は、営業部門とマーケティング部門がそれぞれ業績を評価する際に用いる指標が異なるためだ。営業の業績は主に売上で決まるが、マーケティング部門の業績は見込み客の数で決まる。この両者のギャップを埋めることも実はMAの重要な役割の1つだ。

MAでは見込み客の確度を「スコアリング」という手法で数値化できる。これを基にマーケティングと営業の間で共通の評価指標を設け、「どのスコアの見込み客なら営業活動の対象になり得るか」という観点から両部門の意思統一が図れる。MA導入時には特にこの合意形成にじっくり時間をかけ、MAに対する営業部門の理解と協力を取り付けておくことが重要だ。

部門横断的なKPIの設定
図2 部門横断的なKPIの設定

まずは小さく始めて大きく育てていく

 いくら事前に他部門の協力を取り付けても、実際にMA導入の効果が出なければ早々に皆離れていってしまうだろう。よく見られる導入失敗パターンが、全社規模でMA導入を大々的に導入したものの、その仕組みがなかなか軌道に乗らず、効果が出ないうちに徐々に他部門や経営陣の協力が得られなくなってしまうというものだ。

 逆に言えば、早い段階で導入効果を示すことができれば、他部門の協力を得やすくなるし、経営陣に対しても投資対効果を説明しやすい。そこで、まずは確実かつ短期間のうちに効果が得られそうな分野に絞り、小さな規模でMAの取り組みを始めることをお勧めする。

 例えば「ある特定のメールキャンペーンの効果だけを、まずは数カ月のスパンで測定し、評価する」といった具合だ。こうして小さな実績を少しずつ積み上げながら、徐々にその適用範囲を広げていくのだ。

見込み客データの名寄せ

 技術面では、特に「見込み客データの持ち方」に注意を払う必要がある。SFAやCRMといった営業支援ツールでは通常、顧客や見込み客のデータを商談や案件ごとに管理する。こうしたデータ管理のやり方は、営業部門にとっては都合がいい半面、マーケティング用途には必ずしも適していない。マーケティング活動は商談ごと、営業部門ごとにばらばらに行うのではなく、会社全体として一貫したメッセージを見込み客に届ける必要があるからだ。

 そのため、同じ見込み客のレコードがデータベース上に複数存在していると、重複するコンテンツや一貫性のないメッセージを送り付けてしまい、結果として企業ブランドを毀損(きそん)する恐れすらある。こうした事態を回避するためには、MAの見込み客データベースを構築する際に、その元となるデータをクレンジングしたり名寄せしたりすることで、重複レコードができないよう留意する必要がある。

顧客データの分断は機会損失
図3 顧客データの分断は機会損失。バラバラにアプローチしていると顧客の潜在的なニーズに気付けない(出典:日本オラクル)

オプトインの範囲は?

 見込み客データベースを構築する際にはオプトイン、つまり「自社からコンタクトを取る許諾を得ているか」にも気を配る必要がある。ここで往々にして問題になるのが「許諾の範囲」の解釈だ。

例えば、イベントや展示会で名刺交換した相手からメールを送る許諾を得て、ある営業部門から定期的にメルマガを送っていたとしよう。この見込み客のデータをMAのデータベースに含める際、メール送信が許諾されているのは初めに接触した営業部門だけだろうか。それとも他の営業部門やマーケティング部門も同時に許諾を得たと解釈できるのだろうか。

 これはMAのデータベース構築時の技術的な課題であるとともに、個人情報保護ポリシーの運用の問題でもある。基本的には相手から許諾を得た個人情報保護規約で定められたオプトインの範囲を厳守すべきである。これをないがしろにしてMA導入後に異なる部門から勝手にコンテンツを送り付けてしまうと、マーケティング効果が得られるどころか、逆に自社の信用を失墜させることにもなりかねない。

IT部門だけで導入を進めない

 これまで挙げてきたように、MA導入の成否を分けるポイントのほとんどが、IT以外の要素で占められている。しかし実際にMA製品を導入するとなると、どうしてもシステム予算を持つIT部門が主導権を握ることが多く、実際にシステムを利用するマーケティング部門や営業部門の意向が反映されにくくなる。その結果、せっかくコストと時間をかけて導入したMAの仕組みも業務現場に浸透せず、やがて使われなくなってしまう。

 こうした結果を招かないためには、MAの導入プロジェクトに必ずユーザー部門や関係部門の意思が反映されるように人員のアサインや意思決定のプロセスに気を配る必要があるだろう。

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