クラウド化が進展中、無線LAN最新動向:すご腕アナリスト市場予測(1/5 ページ)
企業買収が進み、異業種も参入するなど無線LAN業界は激変の時を迎えている。無線LAN業界の今をアナリストが徹底分析する。
アナリストプロフィール
草野賢一(Kenichi Kusano):IDC Japan コミュニケーションズ グループマネージャー
国内ルーター、イーサネットスイッチ、無線LAN機器、ADC(アプリケーションデリバリーコントローラー)、SDN、NFVなど国内ネットワーク機器市場の調査を担当。ベンダー調査に加え、ユーザー調査やチャネル調査にも携わり、それらの調査結果をベースに、国内ネットワーク機器市場の動向を検証、市場動向の分析および予測を提供する他、さまざまなカスタム調査を実施している。IDC Japan入社前は、エンジニアとしてユーザー企業のネットワークの設計、構築を担当。商品企画にも携わる。
無線LANが一般オフィスに入り込んで久しいが、特にこの5年間で幅広い企業層で試験的な導入の時期を過ぎ、本格的な普及が始まっている。従業員が利用する無線LANデバイスはモバイルPC一辺倒の時代から、スマートフォン、タブレット、さらにプリンタや複合機などの周辺機器と次々に追加され、今後はIoTデバイスも増加すると考えられる。
AP(アクセスポイント)数もそれに応じて設置台数が増える一方、無線LAN機器ベンダーの買収による異業種ベンダーの参入や、最大3.5Gbpsも見込める高速規格(IEEE 802.11ac wave2)製品の登場など、ベンダー側にもさまざまな変化が訪れている。また2014年ごろからクラウド上で無線LAN管理を行うサービスも登場し、今後の行方も気になるところだ。今回はこうした最新の無線LAN動向を紹介していく。
「第3のプラットフォーム」に適応するクラウド管理型無線LANソリューション
現在のITの発展を特徴付けているのが「モバイル」「ソーシャル」「ビッグデータ」「クラウド」技術と関連ツールの進歩だろう。IDCはこれら4要素によって構成されるプラットフォームを「第3のプラットフォーム」と呼び、これに適応することが今後の10〜20年の企業競争力を左右すると考えている。そのインフラであるネットワークはまさに今、変化を迫られている領域だ。中でも顕著な変化が見られるのが無線LAN環境である。
無線LANは現在、試験的な導入の段階はとうに過ぎて、特にこの5年でさまざまな規模の企業で本格的な導入が行われている。利用するデバイスはPC、スマートフォン、タブレットなど従業員が直接利用する情報端末にとどまらず、プリンタや複合機、ネットワークカメラ、医療用機器などへも広がりを見せ、利用エリアも特定オフィススペースから全フロア規模に拡張、フリーアドレスオフィスなどでは有線LANを敷設しないケースまで見られるようになってきた。企業内のAPの数も増大の一途をたどっている。
そこで問題となっているのが、無線LANシステムの運用管理コストと人的な負担だ。従来はスタンドアロンで利用する少数のAPを管理していればよかったのだが、利用者が増え、利用エリアも増える中で、数十〜百を超えるAPを運用するようになると、個別APを直接人間が管理するのは不可能になる。またセキュリティにも配慮する必要があり、部門任せのAP設置と運用では限界が見えてきた。幾つもの拠点を構える企業ではなおさらだ。
一般的には、AP10台を超えると管理負荷が高くなるといわれている。無線LANコントローラーは小規模用ならAP20台までといった拡張性が限られるが廉価な機種もあり、予算が許す場合には、小規模であっても無線LANコントローラーで運用管理の負担を減らす選択があり得る。
国内無線LANソリューションの現状
まず、国内企業向け無線LAN機器市場の概要を見てみよう。IDCが行った国内企業向け無線LAN機器市場調査(2015年5月公表)によると、2014年の企業向け無線LAN機器の国内売上額は約227億円、うち「独立型AP」(スタンドアロンで運用されるAP)は、約82億円、「無線LANコントローラーと従属型AP」(集中管理型)は約145億円だった。
予測としては、2019年に全体が約263億円(年間平均成長率3.0%)、独立型APが約67億円(年間平均成長率−4.0%)、無線LANコントローラーと従属型APの合計が約196億円(年間平均成長率6.2%)となると見込んでいる(図1)。
企業向け無線LAN機器市場の伸び率の傾きは2016年をピークにして緩やかになると予測しており、2014〜2019年の企業向け無線LAN機器市場全体の年間平均成長率はマイナス0.4%を見込んでいる。高い成長を続けてきた無線LAN市場に、金額ベースでは落ち着きが見えるが、実は内容が違っているようだ。
図1で注意したいのは、青い棒の部分、つまり集中管理型無線LANの部分だ。一見、あまり変わりがないようにも見えるのだが、実際の伸び率はこちらが6.2%、独立型はマイナス4.0%になっている。独立型APは徐々にシェアを減らしていくだろう。
金額ベースではあまりよく見えてこないが、独立型APがコントローラー従属型のAPに置き換わり、高価ではあるが大規模利用ではコスト効果が高い無線LANコントローラーの導入が進んでいると考えると、実際の企業の動きと整合するようだ。既に企業に無線LANは浸透し、今後は大規模化する無線LAN環境の運用管理が課題になるだろう。
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