ホンダが「ないモノをつくる」と公言するものづくりの秘訣とは:KeyConductors
本田技術研究所の板井義春氏が創始者・本田宗一郎氏の志を受け継いだ同社のものづくりについて熱く語った。
2016年6月21日から23日、東京ビッグサイトで世界最大級の「ものづくり」専門展「日本ものづくりワールド」を開催。設計・製造、機械要素技術、医療機器、3D&バーチャルリアリティーというテーマを掲げた4つの展示会で構成され、世界中から出展社が集まり、多くの来場者で賑わった。
同時開催された「ものづくりワールドセミナー」の基調講演では、日本の製造業の雄である本田技術研究所から、四輪R&Dセンター執行役員を務める板井義春氏が登壇し、「ないモノをつくる 〜ホンダのモノづくりへの取り組み〜」と題して、国内外での開発現場での取り組みや新技術開発などをとりあげ、創始者・本田宗一郎氏の志を受け継いだ同社のものづくりについて熱く語った。
地域に合わせた製造・開発体制でイノベーションを生む
ホンダの原点である本田技術工業は1948年、自転車用の補助エンジンを製造する会社としてスタートした。本田宗一郎氏は「技術で世の中に喜びを提供する」という志を掲げ、技術イノベーションとリサーチを特に尊重していた。
そのイノベーションの1つとして、大気汚染への取り組みがある。
ホンダは、1966年に「AP(Anti Pollution)ラボ」を設立して、希薄燃焼エンジンの開発に挑戦していた。そして、1972年に世界で初めて「米国マスキー法」をクリアするCVCCエンジンの開発に成功し、このエンジンは1973年に発売された初代シビックに搭載された。以降も、ホンダは年々厳しくなるガソリン車用排出基準に対応し、現在では「マイナスエミッション」、周囲の空気よりもきれいな排気ガスを実現するに至っている。
現在の本田技術研究所のイノベーションの源は、全世界に展開された「6極開発体制」にあるという。日本・北米・南米・欧州・中国・アジア大洋州の6地域で同時機種開発を行い、地域の状況・ニーズに合わせた商品開発と製造効率の向上を目指している。
例えばアジア地区では、インドの市場ポテンシャルを高く評価し、ディーゼルエンジン車の経済性を重視したコンパクトカーの開発に注力した。そして、アジア大洋州で初めて現地開発を行った「AMAZE」が生み出された。
「AMAZEの製造では、全84部品を現地サプライヤ−を活用する新たな供給体制を整え、コスト低減を図りました。また開発は地域主導で行われ、現地スタッフが日本人にはないセンスを発揮し、絶対的な責任をもって独自に業務を遂行して、地域のユーザーに応えるデザインを作り上げました」(板井氏)
最先端技術の開発を通じて社会貢献を
ホンダが生み出してきた全ての製品に、世界一・世界初の技術が搭載されているというわけではないが、「1つ1つの技術を組み合わせることで「新しい価値」を提供してきた」と、板井氏は主張する。そうした商品を開発してきた原動力は、既成概念や常識にとらわれない自由な発想が新たな価値を生む、枠の外にこそ新しい感動が存在するという考え、2013年のモーターショーで掲げられた「枠にはまるな」というメッセージに込められているという。
そうした思いを持って、板井氏が開発した商品の1つがSUV「VEZEL」だ。自動車を単なる道具に留めず、少し上質な車に乗りたいという気持ちをリーズナブルな価格で手に入れられる商品を届けたいというのが、VEZEL開発の原点だった。板井氏の思いはユーザーへ確実に届き、2013年末に発売されて以来、2014年、2015年に連続してSUV新車登録販売台数第1位を獲得し、「日本で最も売れているSUV」となっている。世界での販売も好調で、CR-Vと並ぶ二本柱の1つとのことだ。
板井氏は、現在の自動車業界は大きな変革の時期にあると考えており、次世代自動車の開発が急がれていると述べる。現在は、液体燃料と電力を併用できるハイブリッドカーが人気だが、板井氏はこれを「未来への架け橋」と評する。また、「効率改善」と「再生可能エネルギーへの移行」が、次世代自動車の実現に向けた重要なテクノロジーになるとも述べる。
「世界各国の燃費法規は年々強化されており、電動化技術の加速が非常に重要です。電動化と内燃機関の進化の双方を推進することが、エネルギーセキュリティと地球温暖化防止のキーだと考えています。ホンダでも、2030年をめどに電動化比率を3分の2以上にすると宣言しています。今後も、燃料電池や自動運転システムなどの広範囲な技術とインフラ整備に取り組みながら、人の役に立つ商品の開発を通じ、持続可能な社会の実現に貢献していきます」と語り、幕を閉じた。
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