グローバル人事格付けはこう決める、カゴメのジョブグレード制度
カゴメでは積極的なグローバル展開を進めるために従業員の働き方を多様化し、世界共通の人事制度を運用する「グローバル人事制度」を策定した。
2016年7月13日〜15日、東京ビッグサイトで開催された「総務・人事・経理ワールド2016 HR EXPO」の特別講演(13日)では、「グローバルで勝ち続けるための人事制度の構築〜人事管理エキスパートから戦略人事プランナーへ〜」と題し、カゴメ執行役員・経営企画本部人事部長の有沢正人氏が登壇した。
世界共通の人事制度を構築したカゴメ
野菜ジュースなどの健康志向飲料で著名なカゴメは、国内だけでなく世界に多数の関連会社を持つ。同グループでは、これからの戦略的展開を見据え、国内・海外を問わず従業員から管理職、CEOを含む人事制度を世界的に共通した基準と方針で行う「グローバル人事制度」構築が課題とされている。同社はこれを断行することをトップのリーダーシップのもとで決断、2013年から具体的な取り組みをスタートさせた。
その中心となる全世界のカゴメグループ人事最高責任者は同社史上初めて外部から選ばれた。それが有沢氏だ。同氏は、かつて銀行、メーカー、外資系保険会社で人事畑の腕を磨いてきた人事・経営のプロフェッショナル。2012年にカゴメに特別顧問として入社、人事最高責任者に就任し、2013年からグローバル人事制度構築を力強く推進している。講演では同氏の三十余年の経験を生かした取り組みのポイントと、各国現地CEOらを巻き込んだ展開の仕方が具体的に紹介された。
トップを動かし、改革を断行することも人事担当者の役割
「グローバル化を進めるには、グローバルな人事制度作りから始めなければ」。それが有沢氏の人事リーダーとしての信念だという。「前職では、人事制度改革案をトップと詰めた上で経営会議に臨んだところ、私の説明に先立ちトップが『この案は耳にタコができるほど議論した。これが通らなければ私は辞職する』と発言、おかげで案が通りました」とエピソードを語った。それほどの決意を示す必要があるほど人事制度改革は困難だが、強い意志さえあれば遂行できるものでもあるということだ。「トップの決断が大事だが、トップを動かすことは人事担当の役割」と強調した。
有沢氏はグローバル人事制度導入の課題として「人事評価」「人材調達・育成」「ダイバーシティー」の3つを示した。これらの課題クリアには、年功序列の是正と職務を基準にした評価、キャリアパスの多様化、女性の管理職登用など多様な人材・価値観の取り込みが特に必要だとし、これについてはトップの強い意志に加え「グローバル人事制度構築経験がある人材」「専門組織の立ち上げ」が必要だとした。
カゴメの人事制度構築プロジェクトはまず第1ステージのフェーズ1として役員・部長を対象にしたグローバルジョブグレーディングを導入、海外でも同時に展開した。これはカゴメの本気度と公平な人事制度への改革を従業員に示し、「上から変えていく」姿勢を明らかにしたものだ。続くフェーズ2では組織委員会を実働化し、課長の評価報酬制度の構築など、ハード部分の構築に取り組んだ。
グローバルジョブグレーディングが全ての施策の基盤
このプロジェクト遂行の中でも重要なのが、グローバルジョブグレーディングであると有沢氏は言う。これが全ての施策の基盤となる。まずは「上からの改革」シナリオにのっとり、管理職向け新等級・評価・報酬制度の構築が始まった。制度改訂のポイントは「年功型から職務型の等級制度への移行」「より業績や評価と連動した報酬制度への改革」「メリハリをつけた明確な処遇の実現」の3つとなる。
その対象範囲は課長・部長・執行役員・取締役以上を含む管理職層である。そのポジションごとのミッションアカウンタビリティと処遇の関係性を可視化し、納得感やモチベーションを向上させながら、ダイバーシティーへの対応力、グローバルに適正人材配置するのが狙いだ。
グローバルジョブグレードは12等級。「知識・経験」「問題解決」「達成責任」の3要素をさらに8項目に分解し、どのような職務規模でマネジメントを実行しているかを評価した。このようなグローバルな共通グレードを設定することで「健全な競争意識を持ってもらうことが大事」だと有沢氏は言う。各国現地CEOにはグレードに基づき共通のCEO報酬ルールを本社人事部が適用する。現地管理職や専門職は、現地の報酬制度を適用することとした。当然デグレードもあり得る。「権限委譲する勇気を持つことも大切」だと有沢氏は付言した。
また役位別の固定報酬と、賞与・ストックオプション(変動報酬)の構成比も変更して、それを公開した。上の役位ほど変動報酬の比率が大きくなるように調整し、部長以上はグレード別の固定報酬+変動報酬、課長職は固定給を一定の月額レンジの中でグレード別に変動するようにした。その月額レンジは5等分し、評価が高い人ほど昇給し、そうでない人は降給する仕組みをつくりメリハリをつけている。さらに昇格・昇給のルールもオープンにしている。加えて管理職賞与については「賞与額=役位とグレード別の賞与基準額×個人成績係数×業績賞与支給係数」という計算式を基本構造とし、上位の職務ほど変動が大きくハイリスク・ハイリターンとなるようにした。賞与には業績や株価が反映可能になるので、「これはお勧め」と有沢氏は言う。
このように、どのような働きで昇格・昇給が行われるか、また職務の評価によって報酬がどう変動するかを明らかにし、また降格・降給もあり得ることを明確に示すことで、海外のCEOや管理職層にも納得してもらえるグローバル統一基準が出来上がった。なお、かつての職務評価は5段階で、評価結果は中くらいに極端に偏っていたという。これを廃した新ジョブグレーディングでは評価は正規分布したそうだ。
一方、一般社員についてはこれからだ。現在、業務職、技能職、総合職の各コースの役割等級が制度化されているが、有沢氏には一般社員に等級をつけて失敗した経験があるという。コースを廃止することも含めて今後検討していく。
今後はソフト面の改革にシフト
第1ステージを終え、人事制度インフラが構築できた現在、カゴメは第2ステージに当たるソフト部分の拡充に取り組みをシフトしていく。フェーズ3として取り組まれるのはアセスメントツールや教育パッケージの開発、採用の仕組みの強化、研修プログラムの開発、コーポレートユニバーシティーや次世代後継者育成等のプログラム開発である。グローバルなタレントマネジメントの仕組みの中で、サクセッションマネジメントや人材育成の加速施策をとり、リーダー育成支援や後継者育成支援、適材適所の登用の仕組みづくりを行っていく。
有沢氏は「インフラができた段階で次はソフト。まずハードとしての人事制度改革がなければ必ず抵抗があります。ロジカルに、どんな未来があるかを従業員に示すことが大事。キャリアパスは人事が用意するのではなく、個人個人が見つけるものです。また、下からの改革は必ず失敗します。まずは経営・管理層の制度から取り掛かることが肝心。人事施策はプレゼンして終わりではありません。トップをいわば共犯にするような覚悟を持って、未来のビジネスのための人事制度構築に取り組んでいただきたい」とアドバイスして講演を終えた。
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