あのPC-9801も作られていた、レノボ・ジャパン修理拠点に潜入:KeyConductors
ThinkPadの一部製品こそ日本製であるものの海外生産のPCというイメージが定着しているレノボ。今回はPC-9801も作っていたNEC群馬事業場の修理の様子を公開。
レノボ・ジャパンは、2016年の夏から群馬県太田市にある「NECパーソナルコンピュータ群馬事業場(以下、NEC PC群馬事業場と表記)」で同社のPC製品とタブレット製品の修理を開始した。それに伴い、レノボ・ジャパンはNEC群馬事業場における修理の様子を公開するとして、その内部を見学できるプレスツアーを開催した。その様子をレポートしていこう。
あの伝説のPCが作られていた、NEC PC群馬事業場とは
まず、今回潜入を果たしたNEC PC群馬事業場について解説しよう。同事業場は群馬県太田市にあり、最寄り駅はJR熊谷駅。とはいってもプレスツアー参加者はそこからツアー専用バスに揺られて約40分ほど移動したので、それほど交通の便がいいとはいえない。それはともかく同事業場は1984年から「NEC群馬」としてNECのPC製品の開発と生産の拠点を担ってきた。あの「PC-9801シリーズ」もここで開発されたという由緒正しい工場なのである。
その後、NECにおけるPCの国内生産拠点が山形県米沢市にある「NEC米沢」に統合されるとともに、NEC群馬は2002年から同社PCの修理や診断サービスをサポートする拠点に転換することとなった。そしてご存じの通り、2011年にNECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンが事業統合を果たすと同時にNEC群馬は「NEC PC群馬事業場」として再始動。2014年6月からはレノボブランドのタブレット製品の修理を開始した。
そして2016年、NEC PC群馬事業場はレノボブランドの全てのPCとタブレット製品を修理する拠点として事業範囲を拡大することとなったのだ。
群馬事業場は修理サポートの「マザーファクトリー」に
事業提携をきっかけとして、NEC PC群馬事業場で自社製品を修理することとしたレノボ・ジャパンだが、同社にとってどんなメリットがあったのか? ということもこの潜入取材で明らかにされたのでまとめよう。
レノボ・ジャパンはもともと、国内におけるPC、タブレット製品の修理サービスを社外委託していた。しかしレノボとNEC PCの協業によって、NEC PC群馬事業場という修理拠点を身内にすることが可能となった。となれば、修理やサポートのノウハウを活用しない手はない。社外委託していた時期は、修理サポートにはそれなりの時間がかかっていたが、NEC PC群馬事業場の持つ修理ノウハウ、そして既に完成している物流システムを活用することで、修理に関して新しい次元に到達すると考えたのだ。
レノボ・ジャパン製品の修理を開始するのに伴い、同事業場では新たな修理履歴管理ITシステムを新たに開発した。もちろん、NEC PC群馬事業場が持つ修理ノウハウを盛り込んだシステムだ。この新システムの導入も効果を見せたのだろう、同事業場での修理実績は、前年比で1.6倍(台数ベース/月)に、保守部品の取り扱いも1.6倍(個数ベース/月)に増大したという。
NECパーソナルコンピュータサービス事業本部統括マネージャーの土屋 晃氏は「群馬事業場はマザーファクトリーを目指し、今後もサポートとサービスに必要な機能を保有していきます」とNEC群馬時代から続くサポート体制、ノウハウ保持を継続していくとした。またレノボ・ジャパンの横田聡一執行役員専務は「NEC PC群馬事業場のノウハウを生かして、Lenovoユーザーへ迅速な修理対応と、品質の高いサービスを提供していきます」と話し、NEC PC群馬事業場へのサポートサービス統合がレノボにとって修理サポート強化につながったとした。さらに、NEC PC群馬事業場で対応した「ThinkPad」シリーズの修理について、重要な事案はレノボ「大和研究所」へフィードバックして今後の修理対応や新規開発に活用していくという。
工場見学に出発
それでは、いよいよ群馬事業場の深部へと潜入してレノボ製品の修理体制を見学していく。
工場内の修理の流れは下のスライドの通り。ざっくり説明すると、ユーザーからコールセンターに問い合わせがあった後、修理が必要と判断されればそれを引き取り、故障診断をした上で再度ユーザーに確認。修理の有償/無償にわかかわらず、ユーザーが修理するかどうかを最終的に判断してから、部品の交換が行われる。修理が完了すると検査の後、清掃・梱包(こんぽう)されて出荷、ユーザーの手元に修理済みの製品が戻るという流れになる。
NEC PC群馬事業場の強みは、工場内に修理部品を在庫しているところ。レノボ製品とNEC製品で共有する部品はないので、倉庫は別々となっている。レノボ向け部品は1万2000種8万3900個、NEC向け部品は3万1000種140万個がそれぞれ保管されている。
NEC製品の部品が多いのは、全国8カ所にあるNEC PCの出張修理拠点や修理可能な認定量販店へ部品を供給するため。レノボ製品に関しては、出張修理用部品は都内の別倉庫から供給されるので、全ての在庫部品が群馬事業場での修理に使われることになる。
壊れた製品1台に対し、担当する人間は1人――正確で迅速な修理につなげる
群馬事業場に搬入された修理品は、レノボ製品とNEC製品で別ラインで修理されることになる。さらに各ブランドで、デスクトップPCとノートPC、タブレットと製品形状によって異なるラインで修理が行われることとなる。ここでのポイントは、1台を1人の担当者が修理するというところだ。1人が担当することで、正確で迅速な修理が可能になるという。そして修理に必要な部品は部品倉庫へ担当者が発注すると、13分未満でその手元に届くシステムとなっているそうだ。修理が完了すれば、検査担当者がチェックした後、清掃・梱包されて直接ユーザーまたは修理を受け付けた販売店へ送られることとなる。
この工程で、短ければ工場内での修理過程が1日で済み、引き取りと受け渡しの搬送時間を勘定に入れても5日で修理が終わる事例が多数あるのだという。今後も、事業場内での修理作業1日の事案を増やすことで、さらに効率の良いい修理サポートを提供していくという。
マザーボード修理の内製化でさらなるサポート向上を
今回の工場見学で、初公開されたのが「マザーボード修理の内製化」だ。従来、NEC PC群馬事業場でも、マザーボードの修理はマザーボード自体を開発・生産している海外のODM企業へ委託していた。海外での修理となるため修理にかかる時間が長くなり、費用も高くなる傾向があった。また、既にマザーボードの生産と提供を終了しているODM企業にとって、修理に対するモチベーションが低くなるのも当然のこと。修理用の部品がないというODM企業の都合で修理できなくなる危機も想定された。
そこでNEC PC群馬事業場は2007年ごろからマザーボード修理の内製化を進め、2011年までには有償・無償を問わず全てのマザーボード修理を内製化した。内製化によって、故障箇所の解析技術、修理技術が向上した上、同一の問題が発生している場合にはその問題に関わる品質改善提案も行われるようになったという。結果として、マザーボード故障に関わる修理時間は4分の1に短縮され、コストも80%低減された。また、マザーボードの修理に関するノウハウが向上し、修理箇所の予測が的確になったことで、保守部品の品そろえも4分の1に圧縮できたという。まさにいいことずくめのマザーボード修理内製化、なのだった。
なお今回の工場見学時点では、マザーボードの内製修理はまだNEC製品のみの対応だが、今後レノボ製品に関しても内製化を進め、2017年には完全内製化を実現する予定だという。
プロと対決、修理速度を競え
工場見学の最後に、プレスツアー参加者と修理のプロフェッショナルとの「修理対決」イベントが実施された。ツアー参加者から選抜された6人が2人組となって、デスクトップPC、ノートPC、タブレットのそれぞれの分解と組み立てに挑戦する。対してプロフェッショナルは1人でそれら3機種の分解と組み立てを行い、どちらが早く終了するかを競う。
さすがに3台組み立てというハンディーは大きかったのか、名人がトップ通過とはならず、記録タイムは肉薄したものの、ツアー参加者の勝利となった。群馬事業場では、新規採用された修理担当スタッフに1カ月ほどのトレーニング期間を設けてその習熟度を増していくのだという。また今後、取り扱う製品が増えた場合でも、敷地的に1.6〜1.8倍ほどの修理サポートをこなす場所の余裕があるという。
ジャパンクオリティーを感じられる修理サポートへ
レノボ製品というと、ThinkPadの一部製品こそ日本製であるものの基本的に海外生産のPCというイメージが定着している。多くのPCが市場にあふれ、これといった大きな性能差が見受けられない昨今では、サポート体制が充実しているということは製品選びの1つの指針になる。レノボ・ジャパンにとって、NEC PC群馬事業所でPCとタブレットの修理を一手に担っている、しかもわずか5営業日での修理が可能である、ということを広くアピールできれば、それは大きなアドバンテージになるだろう。同事業場での今後の展開により期待せざるを得ない見学ツアーだった。
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