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ミズノが考えるゴルフクラブ作りの「最適解」KeyConductors

今日のクラブ作りの匠は、3D CAD設計と解析を繰り返し「飛ぶアイアン」を作るために必須な最適化処理ができなければならない。

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 2016年12月1日、製造業向けのCAD(コンピュータ支援設計)、製品ライフサイクル管理(PLM)、サービス管理(SLM)ソリューションを提供するPTCジャパン主催のイベント「PTC Forum Japan2016」が東京・新宿のベルサール新宿グランドで開催された。

 多くのセッションが開催されたなか、本記事ではスポーツウェアやスポーツグッズなどを製造、販売する総合スポーツメーカー「ミズノ」における、ゴルフクラブ作りのプロセスを紹介した講演をレポートしよう。

きっかけはゴルフ部キャプテンだったこと、今では「人間最適化」ができる人に

土井一宏氏
ミズノ グローバルイクイップメントプロダクト部クラブ・ボール開発課技師の土井一宏氏。手に持つのは同氏が設計した最新のゴルフクラブ「ミズノJPX900」。

 登壇したのは、ミズノ グローバルイクイップメントプロダクト部クラブ・ボール開発課 技師の土井一宏氏で、同氏は1999年にミズノに入社。現在まで17年間一貫してゴルフクラブの開発に従事している。ゴルフクラブ設計に携わったのは、高校時代にゴルフ部のキャプテンだったことから、ゴルフができるなら開発もできるだろうということがきっかけだったという。

 CAD設計に関わったのは2002年で、「Pro/ENGINEER」シリーズを「見よう見まねで覚えろ」というところからスタートする。そして2003年、PTCの「Mechanica」に触れる。このころは「よく機能は分からないが、固有値解析のアニメーションを見て楽しんでいた」という。しかし今ではその経験が生き、3D CAD設計、解析を繰り返し「飛ぶアイアン」を作るために必須な「最適化処理」ができる職人という立ち位置になっているという。

 そもそもゴルフとは、18ホールのゴルフ場にて、ゴルフボールを小さなホールに入れるというスポーツだ。そのために、プレイヤーは14本のゴルフクラブを使用する。飛距離を調整するために、プレイヤーは3番〜9番アイアン、ピッチングウェッジといった、ヘッドの形状、角度が異なるゴルフクラブのセットが必要になる。土井氏はそのセットを設計し、正しく飛距離が出るように調整、解析をしている。

 アイアンの開発は、従来であれば開発者が図面に記載したものを「マイスター」がプロトタイプ制作を行い、実際のモノを作ってから試し打ちし、成果を確認するというプロセスが取られていた。しかし現在では、CAD・CAEがフル活用されているだけでなく、その解析処理も行えるようになったという。

最近のゴルフクラブは重心位置などの調整も可能。部品数も増えている
最近のゴルフクラブは重心位置などの調整も可能。部品数も増えている。

 アイアンの開発は大規模ではなく、少ないパーツで設計する傾向があると土井氏は語る。例えば、6番アイアンをまず設計し、ロフト角、ライ角、ヘッド長、ソール幅などの静的スペックを作り、他の番号のアイアンのパラメーターをグラフで見ながら表形式で制作する。ここでは以前のモデルなどと比較しつつ、数値のみを考える作業になるとのことだ。

アイアンヘッドの設計はパラメーターから。ここでは表計算ソフトのグラフ作成がメイン
アイアンヘッドの設計はパラメーターから。ここでは表計算ソフトのグラフ作成がメイン。
次にパラメーターを元にプロトタイプを作成する。フィーチャー数は300程度だという。
次にパラメーターを元にプロトタイプを作成する。フィーチャー数は300程度だという。

 この後の工程は「解析」だ。制作したデータを元にシミュレーターで打球を当て、そのときに聞こえる「音」を解析することで、性能が判断できるという。ミズノ内では飛ぶアイアンの音域がどのようなパラメーターを持つかのノウハウを持っており、波形を見ることでそのアイアン設計が正しいかどうかが分かるという。この試打の「音」がうまくいけば、先に制作したパラメーターに沿って、6番以外のアイアンを作っていくという。この作業にはPTCの「Creo」が使われている。ゴルフクラブをCAEで「音色調整」するというのが、ミズノのアイアンの作り方なのだ。

他のアイアンはパラメーターをテーブルから拾い、それを適用することで制作する
他のアイアンはパラメーターをテーブルから拾い、それを適用することで制作する。
各アイアンの「音色」の設計。パラメーターを調整し、希望の音色になるようにする。とはいえ、外観が大きく変化しないこと、重心が変わらないということが大前提だ
各アイアンの「音色」の設計。パラメーターを調整し、希望の音色になるようにする。とはいえ、外観が大きく変化しないこと、重心が変わらないということが大前提だ。

 土井氏は「パラメーターをほんのちょっと変えただけで、かなり調整ができる。最適化のためのソフトウェアも存在するが、画面のアニメーションを見ながら『Creoのモードの気持ちになりながら』、飛んだ気になる、心地よいという感覚的な打球音になるように調整している」と述べる。CAD/CAE時代においても、「職人芸」がものをいうのかもしれないという言葉だ。

MechanicaとCreoで設計、解析すると何が変わるのか

打球音の周波数と音圧をみながら調整する。この波形のかたちを見るだけで判断が可能になる
打球音の周波数と音圧をみながら調整する。この波形のかたちを見るだけで判断が可能になる。

 このように、ミズノにおけるアイアン設計では「音」を用い、感覚的な調整が行われている。音の変化を確認し、肉厚設計や内部構造を調整するといった最適化が行われているわけだが、この結果、ゴルフクラブ設計に関する知識のないエンジニアでも、波形を見れば判断ができるようになるそうだ。

 「知識がなかったとしても、波形を見て『4000キロHzの音が出てるけど、大丈夫?』というような指摘ができる。その結果を見て、では設計を変えよう、という作業ができるようになった」と土井氏は述べる。

 さらにその後、強度解析に関しても「Advanced Mechanica」を用いて行われているという。ヘッドに衝突したときの反発係数を解析し、適切なたわみがでるか、壊れないかを確認する作業が行われる。ここでもさまざまなパラメーターを調整し、CAE、CAD作業を繰り返す。強度しきい値を保ちつつ、少しでも反発係数が高い「飛ぶアイアン」が作られていく――「大変泥臭い作業」だと土井氏は述べる。

Advanced Mechanica顧客ごとにカスタマイズ (左)強度解析はAdvanced Mechanicaを利用し、材料ごとに設定した応力値を基に行っている。(右)これらのパラメーターと解析能力を基に、顧客ごとにカスタマイズしたクラブを販売が可能になった。

半自動で2D図面を作成、定型作業はマップキーで処理

 これらの解析作業は定型化しており、複数の解析をまとめて起動できるようにしていると土井氏は述べる。「ボタンを押すだけで3つの解析が起動できるようにしている。いったん解析がスタートすれば、30〜40分間は別の作業ができる。マップキーは大好きですね」。

 さらに、2D図面も簡単に展開ができるようになったという。「これまでであれば4〜5時間掛かっていた作業だが、今では90分ほど。3次元データさえ作れば、2D図面作成は簡単」。

 土井氏はあくまで「設計者」であり、解析のプロではないと自らを定義する。「メッシュすら切れない人間でも、使い慣れて、整合性がとれさえすれば実務ができる。新しい設計、よい設計のために現象を数値化することが必要で、その傾向をつかむために解析を行っている」と述べる。「ゴルフクラブを作るために必要なツール利用スキルは、Excel、Creo、Mechanicaの順。新人には『パワーポイントよりも簡単』と言っている」と笑う。

 「私はゴルフが大好きで、ミズノに入社してゴルフを「仕事」にできている。それもCreoなどのツールがあるからこそ」。ミズノの経営理念は「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」――それを支えるのは、職人芸と最新のツールだ。

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