若者は電話しない、セールスフォースがオムニチャネル機能を強化
若者の電話離れに伴い、企業は顧客対応方法の変革が必要だ。CRMも見直す必要がある。Salesforce Service Cloudは一体どのようなチャネルとつながるのか?
セールスフォース・ドットコム(以下セールスフォース)は2017年2月20日、「Salesforce Service Cloud」の最新リリース「Spring ’17」の説明会を開催した。Webや電子メール、電話に加え、メッセージングも活用してのオムニチャネル対応を前提とした「Einstein Supervisor」と「Salesforce LiveMessage」が目玉機能だ。
セールスフォースでは、SFA製品「Sales Cloud」やマーケティング活動をサポートする「Marketing Cloud」、そして今回機能を追加したコンタクトセンター支援ソリューション「Service Cloud」といった多数のプラットフォームを提供している。
背景にあるのは、「モバイルやソーシャルの普及に伴って顧客の行動が変わる中、企業側の対応部門やシステムは個別最適のまま分断されており、顧客に対応する人に新しい武器を与えられないでいる」(セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアディレクター 御代茂樹氏)という問題意識だ。
セールスフォースではそれを解決するため、全製品を「API Ready」とし、買収して傘下に収めた製品も含め、統合、連係を進めてきた。これによって「対顧客という視点で、裏でも表でもつながっていなくてはならないというコンセプトを実現」(御代氏)し、ひいては得られたデータを一元化して分析しつつ、ビジネスコンテキストと組み合わせ、さまざまなインサイト(洞察)を得られるようにしていく。
「モバイルなどによって顧客の行動が変化する中、新しいコミュニケーションのカタチに対応し、新しいCRMを作ることによって企業が強くなる。単に効率化という切り口でCRMを導入している企業は、今やほとんどない。顧客を深く知り、それを元に新しいサービスを生み出さなければ差別化できず、生き残れないという危機感を抱いている企業は多い」(御代氏)
10年前は影もカタチもなかったチャットやSNSがコミュニケーションの主流に
セールスフォースが提供する製品群の中で、今最も売上が伸びているのがSalesforce Service Cloudだという。2月20日週に提供が開始される最新リリースのSpring ’17は、スマートフォンのアプリやソーシャルネットワークサービス(SNS)で提供されるリアルタイムチャットも含めたオムニチャネル対応が大きな特徴だ。社内SNSの「Chatter」やビデオチャットが可能な「Salesforce SOS」といった対応チャネル拡大の流れを踏襲したものともいえる。
御代氏は、10年前は音声でのやりとり(電話)が中心で、Webチャットやスマートフォンアプリ、SNSによるコミュニケーションはほとんど存在しなかったが、今から2年後にはその比率が逆転するだろうという調査結果を引き合いに出し、「今や、新しい世代の人はコールセンターに電話で問い合わせるということをしなくなっている。SNSやメッセージを使ったやりとりはもはや止めようがなく、その対応が急務になっている」と指摘した。
Salesforce LiveMessageは、こうしたニーズを踏まえて2016年12月15日に発表された機能で、SNSのようなライブメッセージングを使ったコミュニケーションへの対応を強化するものだ。当初からサポートしていたショートメッセージ(SMS)に加え、Spring ’17では新たにFacebookメッセンジャーに対応。2017年半ばにはLiveMessage APIを提供するとともに、「Summer ’17」リリースにおいてLINEもサポートする計画という。
同社マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアマネジャーの畠 慎一郎氏が行ったデモンストレーションでは、企業がFacebookに設けたファンサイトに「見積もりが欲しい」といったメッセージが書き込まれると、Salesforce Service Cloudのコンソールに通知が表示され、そこから担当者がダイレクトに対応できる様子を紹介した。
「Facebookにメッセージが書き込まれた時点でこの内容がCRMと連係する。相手がどの会社のどのようなお客さまかを把握し、過去の問い合わせ履歴を参照しながら対応できる。顧客があらためてフォームに情報を入力する必要はない」(畠氏)
Salesforce LiveMessageは、もとは2016年9月に同社が買収したHey Wireの製品で、既に幾つかの導入事例もある。例えばNCRでは、ショートメッセージを活用してリアルタイムに顧客とやりとりできる環境を整え、顧客満足度とオペレーターの稼働率、双方の向上につなげている。また、若年層をターゲットにした旅行サイトのMe to Weでは、電子メールだけでなくテキストメッセージによる受付を導入したことで、レスポンス率が大幅に向上したそうだ。
もう1つの新機能であるEinstein Supervisorは、オムニチャネルを前提にしたコンタクトセンターの状況を可視化するダッシュボードだ。Webやチャット、メッセージなど、さまざまなチャネル経由で入ってくる問い合わせに、誰がどのように対応しているかをリアルタイムに一覧表示する。対応に当たるエージェントの状況や業務量、平均対応時間も把握でき、タスク割り当ての最適化にも活用可能だ。
なお、この名称にある「Einstein」は、米セールスフォースが開発を進める人工知能技術のプラットフォームだ。今回のEinstein Supervisorでは人工知能機能の搭載は限定的で、従来通りのルールに基づく対応が基本だ。しかし将来的には人工知能の適用範囲を拡大し、入ってきた問い合わせ内容のトリアージ(優先順位付け)や問い合わせ傾向の予測などを実現していく。この動きと並行して、コンポーネント型の新しいユーザーインタフェーイス「Lightning」の搭載も進めていく計画だ。
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