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長期固定金利の住宅ローン【フラット35】で取扱件数トップ、専業金融機関として国内最大の融資額を誇るアルヒ(株)(ARUHI、東京都港区)は1月23日、記入項目を従来比で最大半減させた住宅ローン申込書を導入。早期の完全移行を目標にオペレーションの改善を進めている。
新しい申込処理フローではOCR(光学的文字認識)とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用。添付書類から分かる事項は直接読み取ることで申込書への記入を大幅に減らし、顧客接点のサービス向上と業務効率化を実現している。今回の狙いと導入までの経緯、今後の展望などを取材した。
「総合1位」めざす事業拡大のなかで業務自動化に着手
住宅ローンに特化した金融機関として2000年に設立された同社は、11年に貸出残高が1兆円を突破。14年には2兆円を突破するなど右肩上がりの成長を続け、【フラット35】の取り扱いでは6年連続のトップシェア(10〜15年度の融資件数・同社調べ)を維持している。
住宅ローン総合でみた単年度の融資実行額は現在、大手銀行に続く6位。早期の「総合1位」獲得に向けた取扱件数の拡大と、それに伴う事務処理能力の増強が重要な経営課題となってきた。 今回のプロジェクトを担当した同社システム部の西田哲部長は「資産運用を助言するAIの登場が話題となったのを機に、昨年の夏前から、会社全体として既存業務の自動化を検討し始めました。
当社は全国におよそ150の営業拠点がありますが、自動化プロジェクトの第1弾である申込書の刷新は、ただちに全拠点を対象に展開しています」とスピード感を強調。その理由を「あらゆる業務の中で、まず申込書の処理を自動化するメリットが大きいと分かったため」と説明する。
対外的メリットが早期実現の原動力に
同社が今回導入した住宅ローン審査の申込書では、同時に提出される購入者の住民票や源泉徴収票、購入時の重要事項説明書などで確認可能な情報を記入する必要がなくなった。各書類のスキャンデータからOCRで直接データを抽出し、内容別に分類してARUHI社内の審査システムへ転記・完成させる作業をRPAが自動で行うためで、連帯債務者が必要といった例外的なケースを除くと、従来の申込書でおよそ200あった記入項目は約100項目まで減少。記入にかかる時間も、これまでの「1件あたり1時間前後」が「同10分程度」まで大幅に短縮された。
手書きの住宅ローン申込書が現在もっともよく使われているのは、目的の物件を仲介する不動産業者の店頭や購入者の自宅だ。購入者が提出書類を確認しながら、申込書を仕上げていくが、不動産の営業担当者が記入方法などの不明点をサポートするケースも少なくないという。
西田部長は「大企業を中心に事務作業のペーパーレス化が進んでいるとはいえ、地域密着型の小規模経営も多い不動産業界では、住宅ローンといえば紙ベースの申し込みがまだまだ優勢。また、当社の主力である【フラット35】は制度が決まっており、複数金融機関が扱っている為、家の検索や暮らしのサービスといったアルヒならではの新しい取組みにより差別化を図ってきました。」と解説。その上で「申込書の記入にかかる手間や時間を減らせば『サービス向上』という面から当社を競合と差別化でき、特に申込書記入のサポートをしていただいている不動産営業の担当者にとっては負担の軽減を日々実感いただけるようになります。
今回の取り組みがスピーディーに進められたのは、申込書の見直しが単なる社内業務の効率化にとどまらず、顧客接点におけるサービス向上の一環として位置づけられたのが大きかったと思います」と振り返る。 転記する項目を申込書からほぼ一掃したことで、書き間違いや入力間違いが原因で訂正が生じるリスクも格段に低減させている。
「審査の各プロセスでは情報の整合性を何度も厳しくチェックし、単純な転記ミスでも訂正するまでは先に進められません。もし発覚が遅れれば、取引に関わる多くの方にご迷惑をおかけすることとなりかねず、手続きの入り口である申込書の段階でそうした可能性を極力減らしておくのが有効と考えました」(西田部長)
網羅を狙わず、早期に実用水準をクリア
3月中旬現在、ARUHIの社内全体で新方式の申込処理への移行率は半数弱。不動産会社の各店に残っている従来の申込書が引き続き使われているほか、導入後ほどなく不動産業界の繁忙期である年度末を迎えたこともあて、現場からのフィードバックが本格化するのはこれからだ。
とはいえ、西田部長は「開発段階から懸念していたのは、比較的新しい技術であるRPAよりもむしろOCRの認識率。それさえも既に目標をクリアして実用水準を満たしており、細かいチューニングで精度を上げていく段階に入っています」と自信をみせる。裏移りなどから誤認識が生じないよう紙の厚さから印刷の色使いまで調整を尽くした申込書用紙の認識率が安定しているほか、テストを繰り返した源泉徴収票などの読み取り対応も、実際の申込の大半をカバーできる段階まで終えているためだ。
加えて、業務の自動化を着実に前進させる上では、一度に完璧を求めない姿勢も重要という。「例えば、自治体ごと、さらに窓口交付と自動発行機でも異なる住民票の読み取り対応に関しては、初めからあらゆる様式を網羅しようとは考えませんでした。過去の実績から、住宅需要の多い自治体はある程度絞り込めるので、まずはこのボリュームゾーンで確実に住民票を読み取れるよう最適化。
あとは運用の工夫で補いながら、徐々に改良を進めています」(西田部長) OCRとRPAの導入に携わった率直な感想を聞くと、西田部長は「紙ベースの手続きをしっかり残しながら効率化するのは想像以上に大変でしたが、業界初の試みを無事に実現できてよかったです」と笑顔で返答。
今後については「申込の手続きが社内に移った後の自動化も進めていきます。顧客接点として紙ベースのやり方を残した申込手続きと異なり、社内業務に関しては従来の作業手順を抜本的に見直すことも可能です。そこでAIによる画像認識を採り入れるなど、より思いきった効率化を検討していくことになるでしょう。
ただどのような手法であっても、業務の自動化は単なるコスト削減策だけではなく、顧客サービス向上のために活用すべきもの。そうした当社の姿勢は変わらないと思います」と展望を語った。
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