「面倒だった隙間の手作業」をカバーする業務支援クラウドとは?:すご腕アナリスト市場予測(3/3 ページ)
既存IT資産の移行先ではなく、これまでカバーできなかった隙間を補完する「業務支援クラウド」が大きな潮流に。その実態に迫る。
業務支援クラウドの利用実態と選択の視点
こうした業務支援クラウドの活用は始まったばかりだ。以下のグラフは年商500億円未満の企業700社に対し、これまで挙げた8分野の業務支援クラウドの利用意向を尋ねた結果である。
項目によって多少の差はあるものの、おおむね1割前後の利用意向であることが分かる。ここで注目すべきなのは、以前から類似のサービスが存在している「交通費精算サービス」や「クレジットカード決済サービス」よりも、士業への委託と関連する「会計処理の簡便化サービス」や、従来は業務として認識されていなかった「社員のモチベーション向上」の利用意向の方が高いという点だ。
つまり、業務支援クラウドに関しては「新しい分野のサービスを活用して、従来と異なる手法でのコスト削減や企業の活性化を図る」という意識が働いていると考えられる。当然、本稿で紹介したもの以外にも業務支援クラウドは多種多様なものが存在し、今後も増えていくと予想される。ユーザー企業としては古い考え方にとらわれず、常に新しい視点で業務支援クラウドを捉える姿勢が大切となってくる。
さらに、以下のグラフは年商500億円未満の企業700社に対し、「業務支援クラウドを利用すると想定した場合の懸念事項」を尋ねた結果である。この結果を見ることにより、業務支援クラウドを利用する際にユーザー企業が留意すべき点を知ることができる。
業務支援サービスは比較的小規模かつ新興のIT企業によって提供されているケースが多い。大手のIT企業が見落としてしまいがちな「既存の業務アプリケーションでカバーされない隙間」を埋めることが業務支援クラウドの大きな特徴でもあるからだ。小規模なIT企業が提供元であることは、手軽で便利なサービスを素早く提供するという点ではプラスに働くが、サービスの信頼性や継続性という点では注意が必要なポイントとなってくる。
SaaSを提供する基盤を手軽に利用できるようになったとはいえ、個々のサービスにおけるセキュリティや障害対策は業務支援クラウドを提供するIT企業側の責務となる。小規模なIT企業の場合、管理や運用を担う人員が十分でないかもしれない。「十分なセキュリティ対策が講じられていない」や「障害時の保証や契約条件が不明確である」といった項目はこうした懸念を反映したものだ。
また、業務支援クラウドには実際に利用してみないと利便性を実感しづらいものが多い。例えば「交通費精算サービス」の場合、手作業で交通費を確認する場合と比べてどれだけ早く処理できるのかについては実際にやってみないと分からないだろう。そのため、一定の期間や数量を設けた上で無償利用が可能なサービスも少なくない。
しかし、小規模なIT企業の場合には「資金面が厳しくなったため、利用者数10人まで無償でしたが今後は全て有償とします」といった方針転換が生じる可能性も否定できない。逆にサービスが成功を収めた場合は「大手のIT企業に買収されてサービス内容が大きく変わってしまう」というケースも考えられる。「無償であったサービスが急に有償になる」「サービスが突然提供されなくなってしまう」「サービス内容や機能が急に変更される」といった項目はこういった懸念に基づくものだ。
従って、ユーザー企業が業務支援クラウドの利用を検討する際には提供元となっているIT企業に関して、
- 規模や体制(サービスを継続して提供するだけの資金や人員がそろっているか)
- 今後の展望(設立者や経営者の目指すゴールは何か)
- 内容の説明(機能だけでなく、障害時や退会時の対応についても記載されているか)
といった点を確認しておくことが大切だ。例えば、「サービスAの設立者は自ら立ち上げた企業を大手に売却する手腕で評価が高い」といった場合、サービスAについても一定数の顧客を集めた後に売却される可能性がある。あるいは「サービスBは機能説明が丁寧だが、退会時にデータを自社で引き取ることができるのかについての記載がない」という場合も注意が必要だ。
既存の業務アプリケーションを導入する際は、開発元や販売元が信頼できるかどうかを入念に確認するはずだ。業務支援クラウドも手軽であるとはいえ、業務を担うという点では同様の慎重さが求められる。新興の小規模なIT企業を避ける必要はないが、「安定したサービスを提供できる企業か」という視点で上位に挙げた3つのポイントを確認してみると良いだろう。
ここまで業務支援クラウドについて調査データを交えながら解説してきた。クラウド活用では「社内設置とクラウドのどちらを選ぶべきか」に注目が集まりがちだが、その一方でこうした新しい変化も起きつつあることを実感いただけたのではないだろうか。本稿がユーザー企業にとって賢いクラウド活用の一助となれば幸いである。
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