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スパコン並みの処理能力でAI研究開発を加速する「ABCI」とは?5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)

AI技術の最先端研究開発と社会実装を加速するクラウドコンピューティング環境「ABCI」。AI特化の計算パワーの実力とは?

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 今回のテーマは、超高速なAI性能を目指す産業技術総合研究所(産総研)が主導する産官学連携プロジェクト「ABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure)」だ。130〜200ペタAIフロップス(半精度浮動などの深層学習に適した精度での小数点演算性能)で高速なディープラーニングを可能にするクラウドコンピューティング環境が、2018年には研究用途に提供開始される見込みだ。ほぼ全ての設計がオープンにされ、民間企業がコピーしてビジネス活用することも可能というプロジェクトは一体どのようなものか?

「ABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure)」って何?

 ABCIは、2016年に政府が第2次補正予算で195億円をつけた「人工知能に関するグローバル研究拠点整備事業」の一部として構築される、AIに特化したクラウドコンピューティング環境だ。管轄するのは産総研、同人工知能研究センターのメンバーと東京工業大学の松岡 聡教授などによる研究チームで、2018年3月の稼働を目指し、仕様設計を進めている。

 政府が目標としているのは、AI技術の最先端研究開発と社会実装を加速すること。そのために産官学一体の研究拠点を構築するのが、この事業の目的だ。具体的には2020年までにこの研究拠点でロボット、医薬、サービスなどの多様な業界からの参画を得て、のべ50社以上との研究開発を実施、AI技術の社会実装を目指す。

 「日本はAI研究の転換点に気付くのが遅れた」と松岡氏は指摘する。実は、2012年から「第3次AIブーム」が始まっており、その中心的なものがディープラーニング(深層学習)だ。論理プログラミング中心の「第2次AIブーム」以来、停滞していたAI研究の世界に転機をもたらすことになった。

 ディープラーニングが突然脚光を浴びたのは、2012年の物体認識の国際コンペ(Large Scale Visual Recognition Challenge)でのこと。同技術を利用したチームがそれまでの認識技術を利用していた他チームよりもはるかに精度の高い結果を出したのだ。また同年Googleが巨大な計算機資源を利用して、YouTubeの動画から切り出した1000万枚の画像をディープラーニングにより学習することで、画像に写っているのが猫なのか犬なのか人の顔なのかを識別できるニューラルネットワークが作れることを証明した。

 さらにDeepMindが深層学習を用いて、従来は大変困難とされていた人間を超える囲碁のAIプレイヤー「AlphaGo」を作り上げた。これらの出来事をきっかけに、ディープラーニングは先端IT研究の最前線に躍り出た。世界の研究機関や大手企業がこぞってディープラーニングの研究開発に乗り出し、AI研究組織の新設やAI関連企業の買収や統合が急増、AI専業のベンチャーも続々登場した。

 その後のAI関連の技術コンペではディープラーニング利用技術が他を圧するようになり、自動認識の精度は急速に向上していった。そして今では画像認識や物体認識のみならず、音声認識、自然言語(話し言葉、書き言葉)の認識、感情推定、テキストコンテンツの内容認識、センサーなどの計測データ(数値)の分析などあらゆる方面で研究と応用が進んでいる。

 これが「第3次AIブーム」となり、日本でも大手企業とベンチャーがAI技術開発を行うようになった。自動運転技術などに注力するトヨタはアメリカの研究機関とのAI開発提携を行い、2016年には自らシリコンバレーにAI研究開発拠点を設立した。しかし、Google、Microsoft、Amazon、IBMなどグローバルメジャーな企業、あるいは海外AIベンチャーの研究開発・実用化例が華々しく話題になる一方で、日本は特筆すべき成果をまだ挙げていない。

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