耳で認証、ヘルスケアや屋内ナビも実現する「ヒアラブル」技術とは?:5分で分かる最新キーワード解説(3/4 ページ)
耳に特化したパーソナルデバイスを利用する「ヒアラブル」技術が登場した。デバイスから語りかける執事のような世界が実現するか。
本人認証システムとして
NECが長岡技術科学大学の協力によって開発、2016年に発表した新技術が「耳音響認証」だ。これはヒアラブルデバイスが発する1秒程度の音(多重音)が聴覚器官内で反響するのを同デバイス搭載のマイクで捉え、その特徴をもとに本人認証を行う技術である。指紋認証が指紋の特徴点の記録と認証要求者の指紋パターンを照合して認証するように、個人別の反響音の特徴を保管し、認証の都度の反響音との照合を行う仕組みになっている(図3)。
認証のプロセスをNEC製作のヒアラブルデバイス試作機で体験させてもらったが、スマートフォン経由のクラウドサービスへのユーザー登録操作はピーという音を聞くだけで済み、その後のログイン時の認証はピー音がした次の瞬間に完了した。筆者は端末の「登録」ボタンと「ログイン」ボタンをタッチしたのみ。登録や認証の作業は全てサーバ側から行われる完全なパッシブ認証になっている。ユーザーID/パスワード入力、あるいは指紋や静脈認証方式に比べて、ユーザーにとってなんとも手軽な方法である。
NECによると、実際は可聴域を超える超音波でも利用可能、音楽を聴きながらでも大丈夫ということなので、認証プロセスに入ったかどうかもユーザーに気付かせずに認証することも可能だろう。
気になるのは認証精度だが、他人受入率は0.01%(1万分の1)で、NECの専門家は十分に実用レベルという。本人拒否率は3%ということだが、繰り返して認証を行ってもユーザーにほとんど負担がかからないことから、大きな問題はないと思われる。また、耳の腫れや耳垢などは認証精度にほとんど影響せず、中耳炎などの疾患がある場合を除けば、本人認証に支障はないそうだ。なお、耳の中の構造やその反響音を外部から知ることはまず不可能。その意味では秘匿性が高い。また認証の都度、毎回音源を変えることも可能なので、ワンタイムパスワードのようにも利用可能という。
地磁気による屋内位置情報推定システムとして
ヒアラブルデバイス搭載の地磁気センサーを利用すると、GPS信号が届かない屋内でも現在地の測位が可能になる。これは建物内の鉄製構造材が微弱に帯びている磁気を利用する測位方法だ。磁気はそれぞれの構造材により異なるパターンを示すため、屋内の磁気パターンをフロア図面上にマッピングし、ユーザーが身に着けるデバイス搭載の地磁気センサーのデータと照合すれば、現在マップ上のどこにいるのかが推定できる。
例えば、屋外でGPSで正確な位置を測定し、その後屋内への移動にはPDR(歩行者自律航法)による相対的位置変化で測位、屋内での移動には地磁気による位置推定を行うというような利用法もできるだろう。地磁気測定には一般的なスマートフォンが利用可能とのことで、ビーコンや無線LANなどのように特別な装置設置の必要もなく、低コストに屋内ナビゲーションなどのサービスに生かせそうだ。
ちなみに、NECでは、事前調査した屋内位置情報と地磁気分布情報をもとに、ディープラーニングにより各フロアの地磁気特徴を抽出する技術を開発、屋内のヒアラブルデバイス利用者の位置を誤差2メートル以内で検知できることを確認している。
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