買収による業界再編は? 2017年複合機市場の着地点:すご腕アナリスト市場予測(1/3 ページ)
業界再編の兆しもある複合機市場だが、ベンダー動向を整理しつつ、複合機ビジネスの今を詳しく概観する。複合機の未来はどうなる?
アナリストプロフィール
石田英次(Eiji IShida):IDC Japan イメージング、プリンティング&ドキュメントソリューション グループマネージャー
イメージング、プリンティング&ドキュメントソリューションの調査を統括。マネージドプリントサービス、ドキュメントアウトソーシングサービス、モバイル/クラウドプリント、MFPなどの市場調査を担当し、国内HCP市場の全体動向、市場における新たな変化、エンドユーザーニーズなどを調査、分析している。さまざまなカスタム調査を実施するとともに、Go-To-Market活動を行っている。
皆さんが働く職場には、恐らくプリンタやFAX、スキャナーなどの機能が付いた複合機が1台は設置されていることだろう。ちょっとした資料を印刷したりコピーしたりなど、日々の業務の中で複合機を利用したりするケースはあるはずだ。
しかし、デジタル化の流れの中で紙による出力が減りつつあるのも事実で、印刷ニーズそのものが以前よりも低下している状況にあるのは間違いない。そんな中で、複合機を提供しているベンダー側は、市場に対してどんなアプローチをしているのだろうか。
今回は、そんな複合機の出荷状況やグローバルで見た複合機ベンダーの動向を整理しながら、複合機の今について概観してみたい。複合機ビジネスの先に明るい未来はあるのだろうか。
複合機の出荷実績および予測
PCはもちろん、スマートフォンやタブレットなど各種デバイスのビジネス活用が進んだことで、これまで紙を利用した業務フローが大きくデジタルシフトし、紙そのものを出力する機会が減っている企業は多いことだろう。
これはデバイスの進化だけでなく、無線LANをはじめとしたネットワークへの接続性やクラウドをはじめとした情報基盤の整備なども大きく影響しており、昨今叫ばれているワークスタイル変革の潮流と相まって、紙そのものを利用せずとも業務に支障のない働き方が整いつつあるのが実態だ。
では、紙そのものを業務に利用しなくなったのかといえば、数字の面から見るとそう単純な話ではない。実際には紙そのもののニーズが大きく減っているわけではないのが実態であり、これは、企業においてプリンティングの中核を担う複合機の出荷台数や印刷枚数の推移を見ても明らかだ。
複合機の出荷台数を見てみると、A2/A3対応のレーザータイプのMFP(Multifunction Peripheral:複合機)では2015年の58万台をピークに、2016年からは実績ベースで減少に転じており、2021年までの予測ではほぼ横ばいの状況が続くと予想される。A4対応でも微減傾向にはあるものの、劇的に出荷台数が減っているわけではないのが現状の予測だ。
また、複合機は印刷枚数によって課されることで収益を確保するビジネスモデルとなっていることから、印刷枚数の動向についても同時に押さえておく必要がある。印刷枚数、いわゆるページボリュームで見ると、2015年までの実績では増加傾向にあり、2014年から2015年では0.96%の微増となっている。2017年以降は減少に転じるものの、2020年までの予測でもほぼ横ばいの状況が続く。
この数字からも明らかなように、スマートフォンやタブレットが登場した当時は、スマートデバイスの業務利用によって複合機の需要が大きく減ってくると考えていた方もいたのは事実だが、実際にはさほど大きな影響は起きていないことが分かるだろう。
景気動向と心理に左右されやすい傾向に
ここ数年起こっている出荷台数や印刷枚数の微増傾向には、恐らく景気動向が少なからず影響していると考えられる。ここ数年の間は比較的日本の景気は安定しており、それに伴って業務に必要な紙が多く流通し、爆発的な伸びではないものの増加傾向にあったと考えられる。
景気が良くなると単純に仕事が増え、働く人の数と労働時間が増えれば、業務に関連して印刷物が増加してくることは容易に想像がつくだろう。また、景気が良くなれば「多少プリントアウトするぐらい」という心理的な要素が働き、景気の悪いときに比べて印刷コストに意識が向きにくくなるという側面も否定できない。
逆に景気が悪くなると、経費削減が企業の中で大きな話題となり、印刷代など減らしやすい部分がコストカットの対象になりやすい。結果として印刷そのものが抑制されることになり、紙自体の印刷が減っていくことになるわけだ。
もちろん、デジタル化が進む今の時代にあって、紙が爆発的に増えるプラスの要素は見いだせないことから、全体的にはマーケットはシュリンクしていく傾向にあるのは間違いない。なお、出力に対するコストは、モノクロで1〜2円の間、カラーでは十数円ぐらいが相場となっており、カラーとモノクロでは10倍ほどのコスト差がある。
日本における複合機の特異性
出荷状況に大きな動きのない日本の複合機市場だが、以前は基幹システムと複合機を密接に連携させて業務を作り込んでいた時代もあり、システム刷新の際には複合機の入れ替えも比較的行われていた。
しかし最近は、どんなシステムであっても出力できるようなアプリケーションが増えており、以前に比べてシステム刷新やOS入れ替えなど外的な要因で複合機を入れ替えるということはほとんどなくなった。現状では、5年程度のリース期間を経て定期的に入れ替える企業が圧倒的に多く、全体で見ればその需要は底堅いものがあるのが今の日本の状態だ。
では特別に台数がまとまって動くようなイベントが日本にはないのかといえば、そういうわけでもない。中でも大きいのがコンビニエンスストアでの複合機入れ替えだ。コンビニエンスストアの店舗には複合機が置かれており、さまざまなサービスが利用できるようになっていることはご存じの通りだろう。この複合機の入れ替えは数年おきに発生する大きなイベントとなっており、1年程度の期間をかけて全店舗の複合機を入れ替えるほどの規模になる。
ちなみに、コンビニエンスストアに設置された複合機を利用したサービスも多岐にわたっている。最近では住民票の写しが出力可能な行政サービスを展開するものもあれば、ローカルな競馬新聞など入手が困難な出版物を複合機から印刷できるといったもの、中にはアイドルのブロマイド写真の入手など、さまざまなコンテンツが複合機から取り出せるような仕組みも登場している。コンビニのレジで容易に支払いできるという課金の面でも、新たなビジネスになりつつあるようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.