内閣府とJAXAがプロジェクトX始動、宇宙時代に企業は何ができるか(2/2 ページ)
データが財産となった現代においては、宇宙に関係のない企業が、宇宙からのデータを解析し、新しい視点から付加価値を付けるというビジネスモデルを展開しつつある。本稿では、その事例を紹介する。
衛星を持っていなくても宇宙からのビッグデータを生かせる
しかし、宇宙からのデータは何に活用できるのか。人工衛星を所有していない企業には、どのようなビジネスの可能性があるのか。JAXAの有川氏は、人工衛星を使って得たデータを解析し、付加価値を生むというビジネスの事例を紹介した。
人工衛星を使って取得するデータと言っても、さまざまなものがある。人工衛星に専用の測定器を搭載し、地球を観測することを衛星リモートセンシングと呼ぶが、これによって、地上の様子や温度、地形の変化、大気の様子を知ることができる。
例えば、気象庁が公開する気象観測衛星のデータからは、大気の様子を知ることが可能だ。図2の右上の図は雨が降っている様子を立体的に表した図だ。右下の図は地上の水蒸気の分布を現しており、これによって降水確率の精度を高めることができる。
こうしたデータには思わぬ活用法が眠っている。「ここで面白いものをピックアップしたい」と話した有川氏は、宇宙のデータをさまざまな事業に活用する例を紹介した。例えば、アクセルスペースは、100キロ級の人工衛星を50機ほど打ち上げ、1日1回以上同じ場所を観測して得たデータを林業や農業に生かすことを提案している。実現すれば、農業では衛星画像のデータによって、作付面積や生育の状況を確認したり、画像分析から得られたデータを収穫適期の把握や水、肥料の管理などに活用できる。林業においても衛星画像を、違法伐採の早期発見や、森林の樹種判断といった管理に役立てられる。
また、自前の人工衛星を持たずに、JAXAやNASAの人工衛星が公開するデータを用いて、情報サービスを展開する企業も存在する。ウミトロンは、JAXA、NASA、スペースXの人工衛星による地球観測データを活用して水産養殖の生産効率化やコスト削減を支援している。これは、人工衛星から得た海面温度とプランクトン分布のデータを使い、養殖のエサの量やタイミングを最適化したり、赤潮発生を事前に予測したりするサービスだ。JAXAやNASAでは、長らく人工衛星による海洋データの調査を行っており、海面温度や水位の情報を公開している。ウミトロンはそのデータを活用してサービスを展開する。
米Orbital Insightは、米DigitalGlobe、欧Airbusなど複数社と提携して取得した衛星画像をAIによって自動解析し、そこから得たデータを提供するビジネスを行う。例えば、百貨店の駐車場に止まっている車の数から売り上げを推定したり、油貯蔵タンクの浮き屋根の高さに基づいて石油在庫を予想したりする(図3)。
「今や、IoTやビッグデータを使った解析が、宇宙産業においても行われている」とスカパーJSATの橋本氏は語った。
内閣府とJAXAがアイデア求む「プロジェクトX」始動
「宇宙に関係のない人ほど予想外のアイデアを持っている」(畑田氏)。内閣府は民間企業を呼び込むきっかけとして、宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-BOOSTER2017」を打ち出し、JAXA、ANAホールディングス、三井物産、大林組およびスカパーJSATと協力体制を築いてアイデアを募っている。
S-BOOSTER2017の書類審査に通過すると、専門家のメンタリングやJAXAの技術的なバックアップなどの支援が受けられる。例えば、ビジネスモデルとしてどう成り立つのかといったことを専門家がアドバイスしたり、JAXAが真空での実験や人工衛星のデータ解析方法を技術的にバックアップしたりする。
「われわれ『宇宙村』の人間は人工衛星を作りたくて仕方がない。民間にどのようなデータが求められているのかが分かれば、そのニーズをくみ上げて、人工衛星で解決できることがあるかもしれない」と話すのはJAXAの有川氏。S-BOOSTER2017のような起爆剤となるイベントを通して、中小企業を含む民間の企業が、国の機関や専門家の援助を受ける機会を生み出すことが、同イベントの狙いだ。
S-BOOSTERは、6月16日から応募を開始し、約1カ月間アイデアを募集する。一次審査通過者に対して8月上旬から9月にメンタリング合宿を行い、最終プレゼンテーションを経て、受賞者を決定する。最終選抜の受賞者に対しては、受賞者の希望と審査の結果に応じて、事業化支援も行う。大賞には300万円の賞金を授与する予定だ。
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