リクルートが脱Excelで成約率を4倍に拡大、kintoneによるパートナーとのコラボDBの作り方
リクルートが手掛けるモバイルPOSレジアプリ「AirREGI」、販売パートナーと受発注の管理をExcelで行っていたが、脱Excelを決意。その後同社がパートナーと作り上げたコラボDB、その驚くべき成果とは。
2017年5月19日、東京の六本木ヒルズアカデミーにてkintone hive東京2017が開催された。サイボウズが提供するビジネスアプリ作成プラットフォーム「kintone」を活用して業務改善を成し遂げた多くの企業が登壇。リクルートライフスタイルネットビジネス本部データマネジメントGの奥山晃次氏とサインウェーブの鈴木佑介氏が、リクルートが手掛けるモバイルPOSレジアプリ「AirREGI」におけるkintone活用について語った。
リクルートが手掛けるモバイルPOSレジアプリ「AirREGI」
今回登壇したリクルートライフスタイルの奥山氏が語ったのは、同社が提供するモバイルPOSのアプリケーションである「AirREGI」を販売するパートナーモデルの中でkintoneを活用した事例。この事例は、リクルートの社員だけでなく、販売パートナーやメーカーなど、それぞれの外部パートナーと情報を緊密に連携することで、「カスタマー体験を作り出す」という取り組みにチャンレンジしたものだという。
リクルートライフスタイルは、2014年にリクルートより分社化してできた企業。「じゃらん」や「ホットペッパー」などのメディアを運営している。同社では2013年にモバイルPOSレジアプリ「AirREGI」をリリースし、現在では決済サービスを含め周辺サービスを数多く提供するまでに成長しており、2017年3月時点でアカウント数は1027.9万に上る。2016年4月には大手量販店と協業し、モバイルPOSを販売するAirREGIサービスカウンターを設置、ビジネスをさらに拡大させている。現在は店舗もほぼ全国を網羅するまでに広がっている状況だ。
kintoneによって実現したかったコラボレーションと接客のPDCA
そんな同社がkintoneを使って実現したかったことが、「コラボレーション」「いつでもどこでも気配りのある接客」だった。具体的には、データ活用によってパートナーとシームレスに情報連携し、接客のPDCAを実施することで顧客に最適な利用体験を提供することを目指したと力説する。その実現に向けて行ったのが、脱Excelによって受注・接客・問い合わせなどに関するコラボDBを構築すること、データドリブンなマネジメントPDCAを実践すること、ユーザーライクなkintoneによって入力負荷を軽減すること、そしてエンジニアも上流工程、つまりはシステム要件ではなく業務要件から入ってコミットしていくことだった。
実際に活用したのは、販売パートナー、リクルート、そしてサプライ/サービスパートナーで、この3社の中でビジネススキームを構築していった。「もともとkitnoneを使う前は全てExcelで情報共有していました。恐らくkintoneを使わなければこのスキームには到達できなかったでしょう」(奥山氏)
得られた成果として、販売先での成約率は約4倍に向上した。それだけでなく、3社間での申し込みデータ連携をスムーズにしたことでリードタイムの短縮を実現、また、メーカーに対して機器を発注するといった発注業務は約10分の1に効率化、さらに販売パートナーから上がってくる申し込みデータの不備チェックについても業務効率を高めることに成功したと奥山氏は説明する。
kintoneでコラボDBを作成したことで得られた成果
ここで、さらに具体的にその成果を披露した奥山氏。まず、従来Excelで行ってきた受注・接客・問合せ作業を、kintoneによってコラボDBに置き換えた成果だ。
受注や接客、問合せについては、質問や問い合わせに対して誰がどのような回答をしたのかが全く分からない状況が続き、それが数千件のレコードとして蓄積されてしまうなど、ユーザーがないがしろにされている状態が続いていたという。Excelで管理していた際は、情報の修正に工数がかかることで作業者が疲弊し、販売パートナーのモチベーション低下を招いていた。これを1コード単位でkintoneに登録する運用に変更し、申し込みならJavaScriptでチェックポイントを自動化、プロセス管理で対応漏れをなくしていった。また、kintone専用に提供されているプラグインの「フォームクリエイター」を活用し、問い合わせフォームを作成、問い合わせのラベル化によってどのような問い合わせが集まっているのかを可視化できるように。問い合わせのDBを販売パートナーの本部に提供することで、販売パートナーの中だけで問い合わせ対応がほぼ完結できるようになったという。
そもそも、AirREGI事業はiPadを使ったPOSレジであるため、プリンタやドロワー、バーコードリーダーなどハードウェアの卸業務も必要になる。しかし、リクルートライフスタイルにとっては、卸売自体が初めての経験だった。「社内に卸のノウハウがないため、業務要件を洗い出し、システム要件に落とし、モックを作成してメーカーや販売パートナーに持ち込みエンハンス。それを2カ月かけて作り上げた」と奥山氏は力説する。
このコラボDBができる前は、接客の情報が詳細に管理されておらず、PDCAが回せない状態だった。そこで店舗日報の項目を改め、フォームクリエイターを使いながら詳細な情報を顧客レコード単位で販売パートナーに入力してもらうことに。「どのタイミングでどういった接客で何の商品を伝えたらどういうリアクションだったのか、細かい情報を販売パートナーに入力してもらおうと考えましたが、最初はなかなか入力してもらえませんでした。それでも、入力率が高い店舗では成約率が2倍、3倍と伸びていき、成功体験が出てきたことで、他の店舗でも入力してもらえるようになったのです」(奥山氏)
徹底的に行った入力負荷軽減
次にユーザーの入力負荷軽減に関して、「リクルートだからできたことかもしれませんが、品質の高いデータの仕組みを作ることにリソース投資を惜しまない、ということに注力しました」と語るのは、システム開発を担当したサインウェーブの鈴木佑介氏だ。実際に品質を保つためには、いろいろな苦労があったと鈴木氏は振り返る。「ユーザーと一緒に要件定義をしていく過程でユーザーのkitnone理解が進み、やれることが現場にも伝わることで要件が大きく膨らみ、結果として保守工数が増大してしまった」(鈴木氏)。
また、kitnoneで定期的な処理を行う場合にいくつか対応方法が考えられるが、時間との制約で運用にてカバーしてもらうことも。さらに、プロセスで一括更新をAPIにて行うことを検討していたが、それが実際にできないことが後から分かり、結局一時的に手運用にて実施せざるを得ないこともあった。さらに、営業部門が勝手に設定を直してしまったことで、メール通知が一気に300件届くといったトラブルも発生したという。
kintoneの特長を生かした仕組みづくり
kintoneの特長をどう生かして活用したのかという点については、「ユーザーインタフェースと権限設定、コミュニケーションの3つ」と鈴木氏は力説する。ラベル、けい線などでのセクション表示を実現するなど直感的なユーザーインタフェースをはじめ、スペースごとに利用機能をまとめ、対象の組織のみが利用可能な状態にするなどアプリの権限設定を有効活用した。また、従来はメールで行ってきたパートナーとのコミュニケーションをやめ、コメント機能に全て集約することで円滑なコミュニケーション基盤を作り上げることに成功した。
他にも、業務の要件定義からエンジニアが伴走することで、食い違いを起こすことなくユーザーフレンドリーなユーザーインタフェースを実現することができた点も大きいと鈴木氏は振り返る。「業務上最適なシステム要件をユーザーとともに設計していくことができて非常に良かった」(鈴木氏)
最後に、kintone導入の目的について会場に語りかけた奥山氏。店舗やオンライン上などユーザーの情報の集め方を顧客のDBとしてきちんと蓄えた上で、営業やサポート部門などユーザーと接点を持つ人たちが適切な情報を提供できるということを目指したと奥山氏はあらためて説明。「ローカルに閉じるExcelではなくコラボレーションを実現できるkintone導入が不可欠だった。ビジネスのゴールがあり、そのゴールに向けて強力にサポートしてくれるkintoneを再度認識するところから設計を始めたのが今回の成功の一番のキーワードです」と熱く語った。
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