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省エネ性能世界第2位、Yahoo!JAPANの独自スパコン「kukai」とは?5分で分かる最新キーワード解説(1/3 ページ)

民間企業ヤフーが自前で作ったスパコン「kukai」が世界省エネランキングで2位になった。225倍の性能を発揮するスパコンの全貌とは?

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 今回は日本の民間企業が自前で作ったスーパーコンピュータ(スパコン)「kukai(クウカイ)」です。ポータルサイト事業の雄、ヤフー(Yahoo! JAPAN)がディープラーニングを活用したサービス強化のために開発したこのスパコンは、世界のスパコン省エネランキング「GREEN 500(2017年6月)」で第2位にランクされた。一体どのようなものか?

kukaiって何?

 kukaiは、Yahoo! JAPANが開発した、ディープラーニング活用に焦点を当てたスパコンのこと。ExaScaler(エクサスケーラー)、HPCシステムズと共同で開発した「kukai」は、これまで同社が持っていたディープラーニング用環境に比べて理論上約225倍の演算処理性能を実現した。それでいて大幅な省エネ化を図り、グローバルな省エネ性能ランキングプロジェクト「GREEN500」で世界第2位を獲得するほどの成果を達成している(2017年6月発表)。

Kukaiの外観
図1 Kukaiの外観(斜め)/Kukaiの外観(正面)

 Yahoo! JAPANは、誰でも知っている国内最大手のポータルサイト事業者だが、システムベンダーでもキャリアでもない民間の1企業だ。国内では「ABCI」や「TSUBAME」など国の肝いりで作られているAI学術研究用のプラットフォームの例はあっても、これまで自社ビジネスに生かすことを目的にディープラーニングに特化したスパコンを自前で開発した例はほぼ聞かない。大きな理由はコスト面での課題が大きいためだ。それをクリアして自前のスパコンを実現させたことは、他の国内企業にも希望を抱かせる出来事といえるだろう。

kukaiの何がすごいのか?

 kukaiに採用された技術で注目したいポイントは次の5点だ。

  • 液浸冷却方式の採用
  • 独自の高密度実装によるGPUの高効率稼働
  • NVIDIAの最新GPU「Tesla P100」を160基搭載
  • ソフトウェアによる独自のチューニング
  • Tensorflow、Caffeなどのオープンソースフレームワークの利用

 これらの技術要素を組み合わせ、Yahoo! JAPANはGREEN500に今回初めてのチャレンジを行った。少しGREEN 500の結果を紹介しておこう。2017年6月の発表では1位から4位まで日本のシステムが独占した。2位となったkukaiの電力効率は1ワット当たりの浮動小数点演算性能が14.046ギガフロップスで、これは1位の東京工業大学の「TSUBAME 3.0」にわずか0.064ギガフロップス及ばないだけである(ギガフロップスとは、1秒当たりに10億回の浮動小数点演算が行えることを指す)。

GREEN 500ランキング
表1 GREEN 500ランキングのトップ10スパコン(出典:GREEN 500)

 トップ10の中で、学術研究用途ではない産業用途のシステムは、kukai以外ではFacebookの独自スパコンとNVIDIAのDGX Saturn V(2016年11月のGreen 500では1位だった)のみだ。このトップ10のうち9システムがNVIDIAの最新GPUであるTesla P100を採用している。

コラム:GREEN500トップ10中の他の日本のシステム

 他の日本のシステムについて補足すると、1位を獲得した東京工業大学のTSUBAME 3.0は水冷方式を採用するシステムだ。

 3位の「産総研AIクラウド」はNECが産総研に納入し、2017年4月から稼働している。こちらは空冷方式で、同方式の中では最高の成績となった。

 4位の「RAIDEN(Riken AIp Deep learning ENvironment)」は、理化学研究所 革新知能統合研究センターが富士通と共同で設置し運用しているシステムである。

 7位の「Gyoukou(暁光)」は 日本のベンチャー企業PEZY Computingの独自チップ「PEZY-SC2」を採用しており、Tesla P100を使わない独自路線だ。kukai開発に携わったエクサスケーラーがこの開発にも参画している。

 8位の「RCF2」は正式には「Research Computation Facility for GOSAT-2」といい、2016年に新日鉄住金ソリューションズが国立環境研究所に納入したシステムだ。

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