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少子高齢化、そして「第4次産業革命」と称される巨大な構造変化を前に、政府は産業政策の見直しを急ピッチで進めている。現政権は戦後最大となるGDP600兆円の達成を掲げ、その成否を占うキーワードである「生産性向上」と「働き方改革」は、常にセットで論じられている。こうした状況の中、ホワイトカラー労働者の定型業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は国の政策とどう関係し、いかなる活用を期待されているのか。7月27日に開催された「RPA SUMMIT 2017」で登壇した、経済産業省の佐々木啓介政策審議室長による講演の要旨を紹介する。
サービス産業の生産性向上が急務
「日本経済の構造をマクロ的に、業種別のGDPからみると、自動車・エレクトロニクス・ITといった“ものづくり”が牽引してきた歴史的な経緯がある。製造業が引き続き、産業の屋台骨として重要な役割を果たしていくことに変わりはないが、現在のGDP構成比はおよそ20%。その一方で、サービス産業のGDPは構成比で70%超の380兆円。国富のざっくり4分の3を稼ぎ、なお拡大傾向が続く状況だ」。講演の冒頭でそう語った佐々木室長は、7月5日付で現職に就任。前職は「商務情報政策局サービス政策課長」で、経済活動の主流を占めるに至ったサービス産業の高付加価値化・生産性向上を図る諸政策に携わってきた。
政府の成長戦略として現在掲げられている「名目GDP600兆円」の目標との関連で、佐々木室長は「2013年のGDPは480兆円だったので、差し引き120兆円の付加価値を創出することになる。構成比で配分すると、サービス産業で90兆円の成長が必要だ」と整理。その達成に向けた懸案として、サービス産業に属する多くの業種において生産性が全産業平均を下回っている点を挙げ、特に雇用者数の多い業種(卸売・小売・医療・介護・宿泊・飲食など)の改善が急務とした。その上で佐々木室長は「規模の小さい企業が多い業種は、とりわけ生産性が低い。平均以上の水準を実現している製造業などをさらに伸ばすとともに、産業全体としてどう生産性を引き上げていくのかが大きな課題になっている」と述べた。
RPA活用に期待が寄せられる背景
GDPと従事者数の両面で国内産業の“主流派”となったサービス産業において、生産性向上の余地が大きいことを示した佐々木室長は、経産省が目下重点的に取り組んでいる「健康寿命の延伸」「移動革命の実現」「フィンテック」などの政策分野を紹介。製造業の代表格である自動車産業が、移動を提供するサービスへの変容も見据えてビジネスモデルの再構築を進める現状や、社会問題化している再配達の非効率性などを例に挙げながら、ビッグデータやAIなどの活用を通じて産業の高度化を図っていく政府のビジョンを示した。
こうした国の政策にRPAが寄与しうるポイントについて、佐々木室長は「フロントオフィスとバックオフィスの好循環を生む、カギの1つとなるのがRPAではないか」と指摘。「AIやIoTの活用で高い生産性を上げている企業は、コストという“分母”を小さくするだけでなく、売上増・利益増といった“分子”を大きくする取り組みも、密接なメビウスの輪のようなかたちで同時達成している」とも述べ、RPAによる定型業務の自動化で人的なリソースが生まれることへの強い期待を示した。
人手不足のピンチをチャンスに変える思考転換
否定的に受け止められることもある「自動化に伴う人的な余剰」に対し、産業政策を司る担当者がこれほど好意的な背景には、全国的な労働力不足の深刻化がある。
完全失業率2.8%(2017年6月)、有効求人倍率1.51倍(同)といったいくつかの指標を示し、「私自身も昨年来、経営者と話をするたびに『まず人がいないんだ』という切実な声をいただいている」と明かした佐々木室長は「いまや大企業も中小企業も人手不足。職種別でみても現場のオペレーションにとどまらず、創意工夫で新しいことを生み出す立場の経営層が“右腕”を欲している状況だ」と分析。「もしマクロで人手が余っている環境だったならば、現場から『自分の仕事がなくなる』という不安が出かねないが、今は違う。RPA導入を機に、200人で行っていた業務を20人で行うようになった保険会社でも、180人は職を失ったわけではなく、むしろ新しい分野、人間でなければできない業務に転換して組織全体のパフォーマンスを上げていると聞く。こうした取り組みを進めていただき、社会全体としての生産性を向上させていきたい」と述べ、労働力減少のピンチを思い切った業務改革というチャンスに変えるよう呼びかけた。
「2020年のオリンピック・パラリンピック開催まで3年を切ったが、大会そのものの成功だけでなく、その後につなげる契機とすることが大切。これから人生100年時代を迎えるにあたって、世の中はどうあるべきか。衣・食・住を根っこから見直す必要がある」と説いた佐々木室長は「そのためにもRPAの活用で人間がよりクリエイティビティの高い業務に移り、新たな付加価値を生み出していくことが重要だ。28年度補正予算に計上したRPA、IT、IoT、AIなどの活用支援事業が好評で、既に7,500件の導入が決まっている。こうした制度も活用いただきながら、経産省としてもRPAの普及にしっかり取り組んでいきたい」と所信を述べ、講演を締めくくった。
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