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急伸して頂点に達した後の急落と、底を打ってからの緩やかな上昇。世に出た新技術がたどる期待度の変遷を「ハイプ・サイクル」としてモデル化した市場調査会社のガートナーは、日本におけるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が近くハイプ・サイクルのピークに達すると予測している。話題が先行した段階を終え、より具体的な成果が問われていく新たな年の始まりに、あらためて確かめたいのが国内RPA市場の現況と、運用の確立に向けた“勘どころ”だ。共著「RPAの威力〜ロボットと共に生きる働き方改革〜」を昨年11月に上梓、同月30日の「RPA SUMMIT 2017 IN OSAKA」で登壇したアビームコンサルティング株式会社執行役員・安部慶喜氏による講演から、日本のRPAの「いま」を概観する。
大手から中堅以下へ広がる関心
アビームコンサルティングで顧客企業へのRPA導入を支援する専門チームの統括責任者を務め、コンサルタント・技術者合わせて150人にのぼるチームを束ねる安部氏。講演では冒頭、同社と「一般社団法人日本RPA協会」の加盟企業を調査対象としたRPAへの問い合わせ件数および導入実績のデータを発表し、2017年1月から9月までの間に問い合わせが5,261件、導入が361件に達したことを明らかにした。
ユーザーの属性については「メディアに登場した初期のRPAユーザーが銀行や生保といった金融業で、そのイメージを持つ方もいるだろうが、現在は問い合わせでも実際の導入企業でもメーカーのほうが多くなっている」(安部氏)。とりわけ問い合わせ総数に占めるメーカーの割合は、6割超と圧倒的だ。業種別にみると、メーカーでは「電子機器・精密機械」、金融関連では「保険」「銀行」、サービス業では「人材サービス」「コンサルティング」での導入が目立っている。
またRPA導入の動向を企業規模別でみると、先陣を切った大企業から中堅以下の企業への拡大基調が顕著という。2017年1〜6月と、7〜9月との比較で、RPAへの問い合わせをした従業員1,000人未満の企業の割合は13ポイント増加し(7〜9月合計の60%)、過半数を突破。その背景を安部氏は「特に中小企業は団塊世代の大量退職への対応が急務で、新しい人を採用して成長を待つよりは、ロボットを活用して人のやる仕事を減らす方向にシフトしている。また、会社を大きくするタイミングでロボットを採り入れ、獲得可能な人員に制限されることなく拡大を図るケースもみられる」と解説した。
ホワイトカラー労働者がPC上で行ってきた定型業務をソフトウエアのロボットで代替するRPAは、導入から短期間で大きな効果が得られることをメリットに掲げている。その実態について安部氏は「ロボット化の対象業務決定から設計開発、テスト、本番運用に至るまでを4週間以内で実現した企業が77%を占め、しかも導入企業の96%が5割以上の業務工数削減を達成している。驚く方もいるだろうが、導入企業にとっては当たり前の数字だ」と調査結果を列挙。対象業務の難度にかかわらず、短い期間で高い効果が得られていると強調した。
安部氏はその上で、RPAの導入・運用にあたって問題が生じがちなポイントを「導入意義の整理」「対象業務の選定」「製品の選定」「トライアル導入の結果評価」「本格導入時の運用ルール策定」に分類。これら「5つの壁」への対処法を、順次解説した。
RPA導入時にぶつかる「5つの壁」とは
「5つの壁」のうち、RPAの導入意義を示す上での課題について安部氏は「既存の基幹システムは古くなれば更新が欠かせない一方、なくても業務が回っているRPAについては『(代替のターゲットである)単純作業にも教育的効果がある』といった声が上がる」と述べ、現状追認的な“抵抗勢力”をいかに説得するかがポイントになると指摘。「重要なのは、RPAが単なる業務効率化の手段に留まらない点だ。RPAの導入とは、単純作業から解放した自社の人的資源を最大限活用するという人手不足対策であり、現場が本当にやるべきことに集中するための方策でもある。さらに業務データの高速・リアルタイムな処理で迅速な意志決定を可能にするなど、新たな価値ももたらすのがロボット化だ」と述べ、経営戦略への貢献が多面的に期待できる利点を説いた。
ロボットへ代替させる対象業務の選定方法について同氏は「既にRPAが導入されている現場は財務経理から人事、法務、営業、経営企画、マーケティングまで幅広い。導入部署を決める前に人間がやらなくてもよい業務を洗い出し、そこからロボットでできることを整理すべきだ」と視点を提示。ターゲットとなりうる具体的な業務は「社内システム間連携」「Webからの情報収集」「社外システム接続」「同一性チェック」「数値集計」「社内アプリ操作」の6分野に大別できるとした。また導入する製品の選定に際しては、自社のシステム環境や開発・保守体制に適合するか確認するとともに、想定する活用イメージと突き合わせる形で「デスクトップ型またはサーバー型」「従量課金型または固定課金型」からふさわしいものを選ぶべきとした。
業務へのRPAの適合性を実地で確認するトライアル導入については「机上の検証からなるべく早く移行すべきで、試行の中から課題の有無を確かめていく姿勢が重要」(安部氏)。その過程でセキュリティ関連の運用方針を定める必要性が顕在化してくるといい、特に「基幹システムとロボットが連携するときにどのようなユーザー名とパスワードを入力するか、あるいはファイルサーバーへのアクセス権限をどう設定するかといった問題が出てくる」(同)。RPAの活用で先行する企業の中では、RPAを仮想的な労働者(デジタルレイバー)として全部署で人事登録し、それぞれの担務に応じたアクセス権限を付与、さらに管理者となる“上司”も定めた例があるという。
また安部氏は、RPAのトライアル導入から本格導入に向けて運用ルールを策定していく中では、システムや取引に関する既存の社内規定がカバーできない領域で新たな仕組みをつくるという認識が重要なことも強調。業務改革のツールである一方、ITシステムへの頻繁なアクセスも伴うRPAの運用を確立するためには「業務部門とIT部門との密な連携」が不可欠として、連携のありかたについてIT部門の関与度が異なる2つのモデルを示した。
加えて同氏は、RPAの運用を推進する組織体制についても言及。もっとも一般的な「全社横断型組織」を設けた場合に、この組織が主導権を握る度合いを3タイプに分類し、導入計画から導入作業、運用・保守のプロセスを誰が・どのように分担するかについて解説した。
デジタルレイバーが可能にする高速な事業展開
講演の後半で安部氏は、RPA活用の将来像についても言及。既にRPAはOCR(光学文字認識)やAIとのシームレスな連携や、センサーからの情報を集約してIoTのソリューションを構成するといった先端領域への応用が加速しているとした上で、従来のツールにないRPAならではの可能性を「デジタルレイバープラットフォーム」という概念で説明した。
それによると、デジタルレイバープラットフォームとは、企業のあらゆる部署が、業務の必要に応じ、クラウドやオンプレで提供される、あらゆるデジタル技術を現場へ柔軟に投入できる体制を意味する。デジタルレイバーはITシステムと人間を取り持つ形で機能し、両者間の煩雑なデータ伝達を引き受けることとなる。そのためシステムと人間は、それぞれが担う業務を独自に進化させられるのが、このプラットフォーム最大の特徴だ。
いくつかの事例も交えながらデジタルレイバープラットフォームについて解説した安部氏は「人間は人間の業務をやりやすいように変わればよいし、システムはシステムとして最適化された状態をつくればよい。システムが業務に合わせるのではなく、業務がシステムに合わせるのでもなく、RPAが両方最適化された状態でマッチする。両者の間の仕事を、すべてRPAがやる時代が来た」と述べ、RPAが業務改革にもたらすインパクトを繰り返し強調した。
「事業のライフサイクルは年々短期化しており、次の事業へのシフトをどんどんやっていかないといけない時代に入っている。事務業務の世界でこうした素早い変化に対応するためにこそ、RPAによるデジタルレイバープラットフォームが必要だ」と呼びかけた安部氏。ハイプ・サイクルが示唆する“幻滅”を打ち砕くような充実のセッションを、確信に満ちた表情で締めくくった。
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