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「生産性革命」「人づくり革命」の推進を掲げて昨年11月に発足した第4次安倍内閣。翌月閣議決定した「新しい経済政策パッケージ」では、生産年齢人口の急減に直面している日本社会が「名目GDP600兆円」を達成するための諸施策がまとめられ、その裏付けとなる予算案もこのほど示された。広範な取り組みを通じて現政権が目指す2018年の方向性について、内閣官房 日本経済再生総合事務局の佐野究一郎氏に聞いた。
プロフィール
佐野 究一郎(さの きゅういちろう)
内閣官房 日本経済再生総合事務局 内閣参事官。1994年に東京大学法学部を卒業後、通商産業省(当時)に入省。内閣官房知的財産戦略推進事務局、富山県商工労働部長、大臣官房政策審議室企画官、経済産業省商務情報政策局情報経済課長などを歴任し、2017年7月から現職。
プロフィール
上松 恵理子(うえまつ えりこ):聞き手
武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授。博士(教育学)。現在、東洋大学非常勤講師、「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー、総務省プログラミング教育推進事業会議委員、早稲田大学招聘研究員、国際大学GLOCOM客員研究員なども務める。著書に『小学校にプログラミングがやってきた!超入門編』(三省堂)など。
政府が注力する「生産性革命」と「人づくり革命」とは
―現在政府は、向こう3年間で「生産性革命」と「人づくり革命」に集中して取り組むと宣言しています。これら2つのテーマと経済政策との関係について、まずうかがえますか。
生産性革命は、IoTやロボット、人工知能などの活用で新たな付加価値を創出し、わが国が世界に先がけて革命的な生産性の押し上げを実現しようという取り組みです。先般発表した「新しい経済政策パッケージ」では、2020年度までの3年間を集中投資期間として区切り、政府から企業に対する手厚い支援を行うこととしています。
人づくり革命とは、すなわち人材への投資です。人生100年時代を視野に、質の高い教育が生涯にわたって受けられ、いつでも学び直しできる場を設ける一方、高齢者への給付が中心となっている現状の社会保障制度を、誰もが安心できる「全世代型」へ転換していくという取り組みです。具体的には「待機児童の解消」や「高等教育の無償化」などを盛り込み、財源として19年10月に予定する消費税率引き上げでの増収分を見込んでいます。20年度までに新たな仕組みづくりへの基礎を、過去の制度や慣行にとらわれない形で築いていく計画です。
生産性革命と人づくり革命が両輪となって「成長と分配の好循環」を確立させる。これによりデフレ脱却を確実なものにし、名目GDP600兆円の実現を目指す。力強い成長がもたらす果実を、国民に広く行き渡らせていくというのが政府の方針です。
―生産性を高めるための様々な人材育成などの施策もあるようですね。
そうですね。自動走行を活用した移動革命や、ビッグデータに基づいた予防治療による健康寿命の延伸など、生産性革命の実現においては多くのIT人材が必要です。また、中小企業や小規模事業者を含めた生産性革命の取り組みにおいては社員が新たなスキルを学び直していくことが重要であり、さらに20年度からすべての小学校で始まるプログラミング教育を効果的に実施するための環境構築も求められています。
人手不足が深刻化し、特にITのような成長分野の担い手は特定の業界にとどまらず、幅広い産業から必要とされています。そのため政府としては、税制面での優遇や助成金などを通じて人的投資を支援し、生産性革命と人づくり革命をそろって進めていくことにしています。
世界をリードする「Society5.0」の実現へ
―テクノロジーの活用に関連して「Society 5.0」という言葉も定着しつつありますね。
Society 5.0とは、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くものとして、わが国が目指すべき新たな社会を指す言葉です。2016年に閣議決定した「第5期科学技術基本計画」において初めて提唱されました。
Society5.0では、現実空間のセンサーを介して仮想空間に集まったビッグデータを人工知能が解析し、その結果、ロボットなどを経由して人間にフィードバックする仕組みの確立を目指しています。IoTを活用する点ではドイツが提唱する「Industry4.0」とも共通するためよく対比されますが、製造業を中心にIoTの活用を進めていくIndustry4.0が「産業をどう変えるか」という供給サイドの発想なのに対し、Society5.0は高齢化や地域間格差といった社会課題を解決するツールとしてテクノロジーを位置づけるのが特徴といえます。
―これまで欧州は社会課題解決型の政策を多く打ち出し、日本のモデルにもなってきました。今回は逆ということでしょうか。
そうかもしれません。もともと欧州が得意とする社会課題解決型のコンセプトを打ち出したSociety5.0に対しては、欧州各国からの関心も高まっているところです。
少子高齢化に伴う労働力不足やインフラの長寿命化など、日本が現在直面している社会的課題はいずれも巨大であるばかりでなく、今後諸外国も経験していくものです。つまり、わが国でこうした課題解決に取り組むことは同時に、先行的な市場でいち早くビジネスチャンスをつかむことも意味するのです。
これまでになかった技術やビジネスモデルを、迅速に社会へ採り入れていくためには、必要なルールのあり方も含めて実地で検証を進められる機会が必要です。そのため、検証への参加者や期間を限定する形で、規制がそのまま適用されない環境を設ける「サンドボックス制度」の創設に向けた法整備も予定しています。
―日本が先行し、画期的なテクノロジーの本格導入前に、試行錯誤できる場を設けるということですね。では、生産性を押し上げる技術として、具体的にはどのような分野が期待されていますか。
デジタルトランスフォーメーション、つまり生活のあらゆる側面にITを採り入れて生産性を高めていくという意味では、建設現場をターゲットにした「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の取り組みが始まっています。施工時の効率化に加えて、完成したプラントなどの内部を常時センサーで自動検知し、検査に伴う操業休止の回数を減らすといった効率化にもつなげられそうです。
また、メディアなどでも注目されている自動走行の分野では、効率化による産業競争力の向上はもとより、人手不足の緩和、過疎地域の公共交通機関の維持といった社会的課題への貢献にも期待しています。
クラウドや人工知能、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを活用した事務作業の合理化も、当然ながら重要です。希少化している働き手を、より付加価値の高い成長分野へ集中させるためには、バックオフィス業務を軽減することが欠かせないと考えています。政府としては、生産性革命に向けた企業の投資を制度面で支援する一方、行政機関内部の生産性革命、さらに企業のみなさんへお願いしているさまざまな行政手続の簡素化にも取り組んでいく計画です。
2020年までは生産性向上に注力、中小企業への支援厚く
―RPAの導入支援サービスが、IT導入補助金の対象となった例もあると聞きます。生産性革命、人づくり革命に取り組む企業への支援策について、最後にもう少しお聞かせいただけますか。
小さな店舗にもタブレット端末を用いた簡易なPOSレジが導入され、また個人事業主の方がクラウド会計ソフトで経理業務を省力化するケースも増えています。これらも身近なところで着実に進むフィンテックの一種といえるでしょう。
「新しい経済政策パッケージ」の中では、特に中小企業・小規模事業者の生産性革命を強力に支援していくこととしています。具体的には2018年度の税制改正で、新たなスキル獲得を図る社員研修などを行った企業を対象に法人税を軽減する措置が盛り込まれるほか、向こう3年間で100万社のITツール導入促進を目標に、対応する補助金を17年度補正予算で助成する方針です。自社に適した選択が分かりづらい場合に備えて、各種ITツールの情報を整理して比較検討できるようにするほか、各地の商工会を通じた相談業務などで導入をサポートしていく予定です。
バックオフィス業務の軽減に向けては、例えばスマートフォンで撮ったレシート画像の保存で原本の破棄が認められるなど、徐々に規制緩和が進んでいます。紙の領収書そのものをなくせるよう、経済産業省が中心となって「電子レシート」の規格策定を進めており、こうした動向にも関心を持っていただけたらと思います。
―多くの企業にとって、業務変革を加速させる1年になればよいですね。2018年、ますます改革が進んでいくことを期待しています。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
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