2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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企業の営業、マーケティング、顧客サービス、業務部門に向けたビジネスプロセス管理(BPM) や顧客管理(CRM) などのアプリケーションを提供し、グローバルで3,000社以上のユーザーを持つ米国ペガシステムズ社。同社は2016年、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールの開発企業であるOpenSpanを買収。RPAツールのサプライヤーとしての顔も併せ持つこととなった。活用シーンが明確なBPMとCRMの世界で定評ある同社が、より汎用的なソフトウエアであるRPAをラインアップに加えた狙いは何か。また、新たな製品群のもとで今後いかなるメッセージを市場に発していくのか。ペガシステムズ株式会社(東京都千代田区)の渡辺宣彦社長と、RPAを担当する金井盛隆氏に聞いた。
OpenSpan買収がもたらした変化とは
―エンタープライズITの世界でペガと言えば、CRM、そして継続的な業務プロセス改善のツールであるBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)のイメージが強いようです。
渡辺: 現在、当社は自社製品にBPMという言葉を使っておらず、代わりに「DPA(デジタル・プロセス・オートメーション)」のソリューションと定義しています。BPMから大きく進化したDPAの特徴としては、ほぼプログラミング不要で開発可能な点や、より直感的なユーザーインターフェース、人工知能の活用による劇的な機能向上が挙げられます。
われわれのDPAのソリューションは、業務を機能単位ではなく個別の案件単位で管理する「ケースマネジメント」のコンセプトを基本としています。顧客対応の開始から完了まで(エンドツーエンド)の流れとリアルタイムの進捗を可視化するツールや、さまざまな作業の自動処理ツールをそろえ、ユーザー企業に対して、これら諸機能を開発・運用するための統合的なプラットフォームを、クラウドサービスまたはオンプレミスでの構築という形で提供しています。
―そうした統合的なプラットフォームの中で、OpenSpan買収で得られたRPAの技術はどのように位置づけられているのですか。
金井: われわれのRPAツール「Pega Robotic Automation」は、製品群の統合的なプラットフォームの中で拡張機能として提供されています。RPAに対するユーザーの関心を踏まえ、今年からはペガの基本ライセンスの範囲に含め、プラットフォームにおける「標準機能」として提供を始めたところです。ペガのロボットは、瞬時に膨大な情報を参照しなければならないカスタマーサポート部門などで、デスクトップ上で人が行う操作を簡素化するRDA(ロボティック・デスクトップ・オートメーション)として利用することもできます。
あらゆる業務を貫く形でケースマネジメントを実現できるのは他社にはないペガ独自の強みですが、BPMやCRMの分野で培ってきた諸機能をRPAと組み合わせたことで機能間の融合が進み、より隙のない、効果的なソリューションを実現しています。具体的には、BPMとRPAをシームレスに組み合わせたことで、従業員とロボットの動き、そして業務の流れを一元的に管理可能な環境を提供できるようになりました。また、CRMに応用されたRPAは、カスタマーサービスの担当者がPC上で行う作業の負担を大幅に減らしています。
さらにOpenSpanが展開していた業務分析ツールも、ペガのプラットフォームに統合されています。「Pega Workforce Intelligence」は、1,000人規模の従業員とロボットが協業する環境下で、各自の業務アプリケーションの操作状況や目標への到達度をリアルタイムで収集・分析・可視化できます。これにより、業務プロセス改革の継続的な取り組みが容易になりました。
渡辺: 定型業務の効率化が図れるRPAを、その他の諸機能とも統合されたペガのプラットフォームの一要素として活用いただくのが最も効果的だというのが、われわれのスタンスです。もっとも実際にはPega Robotic Automation単体での導入例もあり、それをきっかけにケースマネジメントへの関心を持っていただくという例も少なくありません。
―ペガが強みとしてきた諸機能の融合にロボットが活用されているとのことですが、RPAツールとしてみたときの特長は、どのようなものでしょうか。
金井: RPAという視点からみたときも、ペガのプラットフォームを通じてDPAやCRMと一体的に扱える点がやはり重要です。国内でも実際に、エンドツーエンドでのケースマネジメントといった大がかりな業務プロセス改革を当初から予定し、そうした発展に適した当社のRPAツールを採用いただく例が出てきています。
RPAツール単体としてみたときのわれわれの特長は「自動化の作業方法」です。多くのRPAツールは、画面に現れるままの動きを再現しますが、われわれのツールは、それらの背後にあるPC内部の動き、具体的には「OS上の特定のプログラムが実行される動作」に直接作用して作業を再現しています。この方式のメリットは、自動実行のスピードが最大およそ100倍と圧倒的に速いこと。しかも「自動実行」と「画面上の表示」が相互に影響を及ぼさないため、ロボットが稼働中のPCで人間が別の作業をしてもよく、さらにロボットを実装した時の画面と縦横比や解像度が異なる環境でも問題なく動作します。さらには、自動化対象のアプリ画面を表示させずに、プロセスだけが稼働している状態であっても、問題なく作業が再現できてしまいます。
業務プロセス改革の成否を握るのは経営層の関わり
―ペガシステムズが伝統的に強みを持つ金融業界を筆頭に、国内でもDPAやRPAの導入実績を重ねています。運用を軌道に乗せたユーザーは、どういった点を工夫しているのでしょうか。
渡辺: 成功しているユーザーに共通するのは、まず「業務プロセス改革の主導権を、経営層がしっかり握っている」という点です。改革を実現する一手段としてDPAやRPAを選び、これらの活用推進や運用の統括、標準化を進める体制づくりも併せて行う場合が多いです。当然われわれとしても導入支援サービスの一環として、そうした体制づくりをサポートしています。
10年ほど前、業務の現場で用いる簡単な自動処理プログラムをユーザー自身で組むEUC(エンドユーザーコンピューティング)の取り組みが注目されました。RPAツールは、EUCで用いられたマクロ機能やスクリプト言語よりも操作がさらに容易で、ツールのエンドユーザーが自ら実装するハードルも低くなっています。これはつまり、EUCで問題になった「部分最適化による不整合」「ブラックボックス化」といったリスクがRPAにおいて一層懸念されることを意味します。
―より多くの従業員が手軽に活用できるぶん、あらかじめ使い方を整理しておくことが大切ということですね。
渡辺: はい。ですから、DPAやRPAの導入効果を最大化するためには「ユーザー企業が何もかも現場に委ねてしまうのではなく、組織的に統制を敷くことが重要」というのが当社の考えです。具体的にどのような体制を組むかは各社の実情に応じ、さまざまな形態がありうるでしょう。いくつか例を挙げると、トップ直属で組織横断的にチームメンバーを集めるケースや、情報システム部門に新部署を設けるケース、「デジタル企画」などを担う調査部門が実働部隊に発展するケースなどが考えられます。
業務プロセス改革の本質は「よりよい顧客体験の提供」
―ペガのソリューションで企業がロボットを導入する場合、効率化のターゲットとなる業務を担ってきた人の働き方は、どのように変わるでしょうか。
渡辺: 私たちは、ペガのプラットフォームで用いられるロボットを「アテンド(随行)型」と呼んでいます。これはつまり、既存の業務をそっくり引き取って自動処理してしまうのではなく、デスクトップ上で人間が行ってきた作業の一部を肩代わりして作業負荷を減らすのが目的のロボットだということです。
例えば企業のコールセンターでは、業務上必要となる情報の参照や記録、転記などのためにオペレーターが70種類ものアプリケーションを駆使している場合があります。顧客対応と同時並行でこれらの作業を行うため多方面に意識を向ける必要があり、しかもお客様をお待たせする時間が長くなりがちです。そうしたアプリケーションの作業をロボットが自動化・簡素化できれば、オペレーターは「画面操作」よりもずっと重要な「顧客対応」に専念でき、待ち時間の減少とあいまって顧客満足度は大きく向上します。
RPAを導入した後の働き方については、「作業者だった人間が、ロボットを部下に持つ管理者になる」といったモデルも示されているようですが、われわれの製品ではロボットの稼働状況を管理するのもロボットの仕事。人間がロボットを管理するための仕事を強いて挙げるなら「処理の優先順位を指定しておくこと」くらいです。それよりもむしろ、アテンド型のロボットを活用して「よりよい顧客体験の提供」というビジネスの本質に人間の思考を集中させていくのが、われわれが考える新たな働き方のイメージです。
―最後に、国内での今後の事業展開についてお聞かせください。
渡辺: 2018年のペガジャパンの取り組みとして言えば、DPAとも密接に関連するCRMソリューションに、もっと注力していきたいと考えています。
業務プロセスの改革は本来、一時の流行にとらわれることなく継続的に取り組むべきものです。RPAを含むわれわれの製品群も、ユーザーの長期にわたる取り組みを支えていくコンセプトで展開されています。業務効率化ツールとして、とりわけRPAが注目されている昨今ですが、そうした中においても「統合プラットフォームのもとでエンドツーエンドの業務プロセス改革を目指す」というペガの方向性はブレずに発信を続けていくつもりです。
数あるソリューションの中から最終的に当社のものをお選びいただけるか。そこで問われるのは個々のツールの性能的な違いよりもむしろ、企業としての姿勢であるような気がします。当社としては引き続き、本質的な部分から業務プロセス改革を目指すユーザーとともに、社内人材のトレーニングなども含めた「コ・プロダクション(共創)」の関係を築いていきたいと考えています。
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