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「RPAをお祭り騒ぎにはしない」三菱東京UFJ、RPAへの全力投球

RPA活用の国内での先駆者として知られているのが三菱東京UFJ銀行に導入のいきさつと活用ノウハウを聞いた。企業規模問わず参考にしたいRPA活用の極意や、序盤では「RPAとマクロとの決定的な違い」も紹介しよう。

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 働き方改革の一助になるとして熱い視線を集めているRPA(Robotic Process Automation)。そのRPA活用の国内での先駆者として知られているのが三菱東京UFJ銀行だ。「RPAを一時のお祭り騒ぎにしては意味がない」の言葉にもあらわれた確固たる意志を持って、全力投球の改革を見せる。

 本稿では、同社のRPA導入のいきさつと、そこから得られた活用ノウハウなどについて、三菱東京UFJ銀行デジタル企画部 上席調査役の西田良映氏に話を聞いた。同氏が語った、企業規模問わず参考にしたいRPA活用の極意や「RPAとマクロとの決定的な違い」も紹介しよう。

マクロとの違いが、RPAの本質

 ところで、「RPAとマクロプログラムを決定的に分かつものは何か」という疑問に答えられるだろうか。西田氏は、その違いこそがRPAについての議論で見失いがちな「本質」だと強調する。

 「RPAというのは“Robotic Process Automation”という名が示す通り、本質は“Process(業務のフロー)”の自動化であって、単なる“Operation(操作)”の自動化ではありません。そこが、細切れの操作を自動化するマクロプログラムとは決定的に異なる点だと考えます。また、管理機能やエラーなどに対する制御機能によって、プロセスを安定的に実行できるようになったものがRPAだといえるでしょう。こういったRPAの本領を発揮させるためには、まず既存の業務における一連のフローを可視化し、必要に応じて変化させ、どのプロセスならばロボットに任せられるかを検討しなければいけません。この『一連』に目を向けることがポイントになるのです」(西田氏)

西田良映氏
三菱東京UFJ銀行 デジタル企画部 上席調査役 西田良映氏

ブームに先立つ2013年からRPAに着目

 西田氏らがRPAのようなプロセス自動化ロボットに注目し始めたのは2013年ごろ。西田氏は、最初から業務効率化に照準を当てていたわけではなく、デジタルマーケティングの一環として、Web上でさまざまな情報を集めワンストップで提供するサービスに使用したいと考えていた。すなわち、情報を集めて統合するエンジンとしてRPA活用の可能性を探っていたのだ。

 西田氏は、2013年7月にこの分野のリーディングカンパニーの1社である米国Kapow(現Kofax)本社を訪問している。「導入事例などを聞くうちにイノベーションを促すツールになる」と確信したという。

 その後、具体的にRPAが何に活用できるのかを調査するため、さまざまなPoCを実施していった。とりわけ、2014年ごろから全社的に業務改革の意識が高まったことを受け、同年7月に国内外の拠点や事務センターに残る手作業を効率化する施策が立ち上がった。

 同年末には、早くもパイロットプロジェクトが動き出す。検証の対象になったのは、融資事務センターにおける住宅ローン団体信用生命保険申込書の点検業務だ。従来、担当者が紙で1枚ずつ確認していた、保険会社へ提出する書類と住宅ローンの明細との突合作業をRPAで自動化した。その結果、際立った作業時間削減が確認されたという。この成功を受けて、2015年春には同様に効率化が可能な手作業事務にもRPAを展開していった。

RPAを一時のお祭り騒ぎにしては意味がない

 RPAを使った業務改革の機運が高まると同時に、組織強化も図っている。その1つが、2017年5月に発足した、ビジネスアナリストで構成されるデジタル企画部だ。エンジニアなどRPA専門の開発チームが在籍するシステム本部と併せ、同社のデジタルトランスフォーメーションを担うCoE(Center of Excellence)として充実した推進体制を築いたのである。

 とりわけ、業務改革のチームとしてビジネスアナリストを自社内に抱えているという点は特筆すべきだ。彼らは、現場の問題意識を形にして、業務を分析し、RPA化を支援するという上流工程を引き受ける。こうした行程は通常コンサルティング会社に託すことも多く、自社で内製するというのは珍しい。西田氏は、長期的な効果を創出するためには、現場の業務の一連の流れと意義を理解し、恒常的に改革を進められる人材が必要だと話す。

 「RPAはブームになっているが、一時のお祭り騒ぎではなく、恒常的に改革を進めることが大切。そのためにビジネスアナリストを抱えています」(西田氏)

 また、仮に上流工程を他社に任せてしまえば、自動化した業務が仮に変化した際、「影響範囲分からず対応できない」「当初の目的を把握しておらず判断できない」ということも発生する。そうしたリスクを抱えないためにも、専門のチームを内製することにこだわりを持っているのだ。

削減時間の背比べは無意味

 ビジネスアナリストはトップダウンとボトムアップの施策を行い、全社に改革の効果を波及させるよう尽力している。以下で詳しく説明しよう。

 トップダウンのアプローチでは、既存の業務内容や業務フローなどを全面的に見直し、全社で効率化できる業務がどこにあるのかを分析した「マップ」を作成する。このマップに基づいて、プロジェクトを進めていく。一般に、BPR(Business Process Re-engineering)と呼ばれる手法だ。これによって、組織全体を俯瞰し、改革すべき業務を可視化できる。

 一方、ボトムアップのアプローチでは、社内あるいは部署内で「類似した業務プロセス」に対して、RPAをスケールさせる方法をとる。ここで重要なことは、「類似した作業」を対象に、RPAをスケールさせるのではないということ。例えば、「Aさんの朝一でExcelのデータを更新する作業」を自動化したいという依頼が現場から投げられてきた場合、この作業を実行するRPAを作成し、量産したところで、経営的なインパクトとはなり得ない。

 「目先の作業だけを自動化したところで、将来的に業務が変わらなければ意味がありません。『3000人が毎日10分間行う作業を自動化して何万時間も削減した』などという効果の図り方では、削減効果の背比べになるだけです」(西田氏)

 そうではなく「朝一でExcelのデータを更新する作業」をAさんが行っているのであれば、その作業にどのような意味があるのか、BさんやCさんが行う前後の作業と併せて可視化し、最適な箇所にRPAを適用する。こうした方法をとることで、他の類似する業務プロセスにも応用が利き、「面的」に効果が波及する。

 「類似したプロセスに対して、RPAをスケールさせる方法は大きなインパクトをもたらします。実際に、ビジネスアナリストの活動を通して、部署単位、全社単位で効果が広がっているという実感があります」(西田氏)

イノベーションへの理解が現場に浸透

 このように、全社に活用を拡大する中で、RPAソフトウェアの選定にもこだわっている。現時点で採用しているのは、「Kofax Kapow」「ペガ ロボティクス」だ。

 「いずれも、多くの製品の比較検証を行うともに、実際にプロダクトをつくっている人と直接話をした結果、優位性があると判断した製品です。例えば、Webを巡回して特定項目の情報を収集するWeb Crawler型の『Kofax Kapow』は、Webサーバ上で大量のロボットをスケールできるという点で高く評価しています。これによって、Webシステムに関わる業務を自動化する際は、非常に大きい効果を得られます。特に、昨今では各種業務システムのWebシステム化が主流になっていることから、今後も活用範囲は拡大すると期待しています」(西田氏)

 現在、三菱東京UFJ銀行でRPAを適用した業務の数は100種類を超えている。その成果などを受けて、デジタル改革に対する理解も組織全体に浸透しているようだ。

 「デジタル改革には変化が伴いますから、一般的には消極的になりやすいといわれますが、ビジネス企画部は『もっとやってほしい』と各方面からお尻をたたかれている状況です。現場からは、この業務もRPAで自動化できないかといった提案も上がってくるようになり、理解が進んでいるのだと思います」と西田氏は語る。

 同氏によると、RPAの特徴の1つは、他のシステムと比べて現場が効果を実感しすいことにある。

 「ロボットで業務が自動化されると、担当者からは『業務が効率化された』と感謝されます。もちろん、現場がそれまでの仕事のやり方を変えなければいけないのは事実ですが、事前のビジネス分析の過程で具体的に内容を示しているので、特に抵抗もありません」(西田氏)

RPAはデジタルトランスフォーメーション戦略の1つ

 三菱東京UFJ銀行では、RPAの活用をさらに加速させていく構えだ。そのためにも、RPAを補完するBPM(Business Process Management)システムとの連携や、開発体制の一層の強化、ガバナンスの確率などを図っていく。また、RPAだけでなく、その他のデジタルツールを活用し将来的に、デジタルトランスフォーメーションが同社の企業文化として根付くことを目指している。

 「RPAのみならず、未来の銀行のビジネスモデルや顧客サービスを見据え、FinTechやIoT、AI、ビッグデータなどのテクノロジーを使って、組織全体のデジタルトランスフォーメーション戦略を推進することがわれわれのミッションです」と西田氏は語る。

 そうした理念を基に、現在はビジネスアナリストが属するビジネス企画部が推進役となり、リテールや法人業務を担う事業部、事務部門といったあらゆる部門を巻き込みながらRPAその他に関わるさまざまなプロジェクトを進めている。

俯瞰的な視点で改革を推進できる人材が必要

 本稿では、専門チームを発足し、RPAを含め全社的にデジタルトランスフォーメーションに挑む三菱東京UFJ銀行の事例を紹介した。だが、これは決して「規模が大きい企業だからできること」ではない。最後に、企業規模を問わず参考にしたいアドバイスを聞いた。

 「システム部門でもなく現場の事業部門でもないデジタル企画部という組織のある当行は特殊かもしれません。しかし、社内に1人でもいいので、全ての業務を俯瞰し、かつその改善検討を専門の仕事として取り組めるような人材を置くことをお勧めします。そうした特殊な存在が1人でもいれば、日々の業務に追われる現場ではなかなか着手できないような変革も可能となるでしょう。その際には、コンサルタントのサポートも有効な助けとなります。ただしあくまでリードするのは自社の人間であって、外部の人に主導権を渡してしまえば本質的な効果は望めません。ここで、社内にいるプロパーの人間の存在が大きな意義を持つのです」(西田氏)

 同社では、現場が抱えていた非効率な業務を変えていけることがビジネスアナリストのモチベーションの高さにつながっている。西田氏の言葉は力強く、業務やビジネスを変革していこうという熱意にあふれていた。

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