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WinActor導入3社に聞く__RPAの導入目的の本質、運用体制、求められる人材スキル

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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RPA BANK

ホワイトカラー労働者の定型業務をソフトウエアのロボットで代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)。定型的な事務作業を多く抱えている大手金融での導入が発端となり、ここ3年ほどで広まりだしたテクノロジーはいよいよ普及期に入り、ユーザー企業の地域分布や規模、業種は急速な拡大をみせている。そうした現況を伝える事例として、株式会社NTTデータが提供するRPAツール「WinActor/WinDirector」の導入企業などを取材。地域金融機関の遠州信用金庫(浜松市中区)と、大手私鉄などを束ねる近鉄グループホールディングス株式会社(大阪市天王寺区)、さらに同ツールの運用を担うスタッフ向けの研修プログラムを始めた人材サービス会社、ヒューマンリソシア株式会社(東京都新宿区)の狙いにも迫った。

RPA導入の真の狙いは「業務の可視化」と「社員の意識改革」

静岡県浜松市と周辺の25店舗でおよそ350人の職員が地域密着型の金融サービスを提供している遠州信用金庫は、中期経営計画で掲げた「生産性の向上」を図る一環として2017年10月からWinActorを導入。導入後わずか2カ月で▽約30種の個人ローン融資残高を勘定系システムから月次で抽出して営業店別に集計する作業▽賞与額の算定に必要な考課表を作成するために業務評価と獲得実績の各Excelファイルから転記する半期に一度の作業 をロボット化し、作業時間をいずれも10分の1未満に削減した。

システム運用に長年携わりプログラミングも堪能な常務理事の鈴木靖氏による指導で、現場の職員もWinActorの操作に習熟。現在はWEBシステムとグループウエアの連携や、定期的なデータ集計結果のメール配信など、順次ロボット化の対象を拡大している。

他業界に比べて目立つ金融界でのRPA導入について鈴木氏は「まず注目されたメガバンクに続くかたちで、17年度上期には地方銀行、下期にはわれわれ信用金庫で取り組む例が増えた」と解説。職場からの反応も「通常業務の合間に対応していた作業が自動化でき、本来の仕事に集中できるようになった」など、好意的という。

ただ同庫は、RPAを通して定量的な効率化だけを考えているわけではない。「効率化と同等以上に、ロボットへ任せることにより作業手順が可視化されることと、それによって『私しかできない』という仕事をなくせることが重要と考えている。業務をいつでも・誰にでも引き継げるようにしておき、営業も事務も全部できる視野の広い職員を増やしていく」ことにRPA導入の本質的な目的があると鈴木氏は語る。

金融庁が2015年から年1回公表している「金融行政方針」の最新版(17年11月10日公表)では「地銀のビジネスモデルの転換」「フィンテック」「資産形成」が3つの柱とされている。こうした政策面からも金融を取り巻く環境は激変しており、各金融機関はそれらへの早急な対応を求められている。RPAは「職員の意識を一気に変える」(同)、いわば“起爆剤”の役割を期待されているようだ。

止まることのない業務に責務を持つ鉄道会社が導いたRPA推進体制

「取り組みの気運を止めない『ライトな統制』は、ロボットの利点を生かすために欠かせない」。そう述べたのは、18年度からのグループ展開に向けた先行導入に取り組む近鉄情報システム?企画推進部マネージャの伊東剛志氏だ。

伊東氏が所属する近鉄情報システム株式会社と近畿日本鉄道総合研究所は現在、近鉄グループの業務効率化に向けた研究を共同で行っている。そうした体制下、RPAの検討は17年5月にスタート。「まず業務プロセスを可視化し、見つかったムダをなくすためにルールを見直し、それでも解決しない場合に機械化を図るという順序で検討していたため、必ずしも当初からRPAありきのプランではなかった」(伊東氏)という。それでも近鉄グループホールディングスの経理部門で2カ月にわたり実施したトライアルでは、基幹システムから帳票を自動ダウンロードするロボットなど計5体が完成。年間300時間に相当する工数削減効果などが評価され、WinActorの本格導入に向けた準備が決まった。

トライアル段階よりもロボット導入の対象部署を拡充するにあたって共同研究チームは、経理と同様に定型業務が多く、また時期を同じくして業務効率化の取り組みをおこなっていた人事・総務部門を選択。WinActorを操作してロボットをつくる役割は基本的に現場へ委ねながら、グループの情報システム部門である近鉄情報システムが「いつでも技術的な課題を拾って解決できるエスカレーション体制を取った」(伊東氏)という。それに並行して同社は、RPAツールのライセンスやサーバーなどのインフラ環境を整備。ロボットの構築・運用方法をまとめた社内標準ルール「RPAガイドライン」を作成するほか、これに抵触する点がないか、実戦投入前のロボットを審査する機能も担っている。

実地でロボットを用いる部署と、運用上密接な関係にある情報システム部門がどう連携を取るか。RPAを導入するすべての企業が自社の事情に応じ知恵を絞るが、近鉄グループの場合は「情シス」が多めに役割を引き受けたのが特徴といえる。この点について伊東氏は「持株会社である近鉄グループホールディングスの人員配置はかなりタイト。またわれわれは鉄道事業を担う企業体として、止まることのない業務の仕組みを確実に受け継いでいく責務があります。そのためわれわれの場合、現場が活用に前向きなロボットの保守性をチェックし、安全に運用できる環境を整えるのはITのプロフェッショナルの役割だと考えました」と説明。テクノロジーに明るい強みを生かし、グループへの本格導入後はAIやOCRとRPAの連携も積極化させていく方針という。

これからの時代に必要な人材は「業務知識」+「ロボット開発・運用スキル」

「事務業務のうち、およそ8割はRPAで代替え可能な定型作業。派遣事務職に求められるスキルは近い将来大きく変わるでしょう」」と語るのは、ヒューマンリソシアOS事業推進本部本部長の井元道由氏だ。同社は17年11月、WinActorによるロボット作成と運用を学ぶ「シナリオ作成技術者養成研修」を東京・銀座でスタート。NTTデータと共同開発した初級・中級・上級の講座は、2か月先まで「満員御礼」の盛況ぶり。予約も含めると受講者は既に1,000名を超えており、北海道から沖縄まで全国9校に順次拡大中だ。

事務職を専門としてきた派遣社員にとって、それまで処理していた作業をより早く・正確にこなせるロボットは当然脅威となりうる。ただ、仮想的な労働者(デジタルレイバー)であるロボットが実務で本領を発揮するためのポイントを正しく伝えられるのは人間だけだ。シナリオ作成技術者養成研修は、「ロボットとの競争」ではなく、「ロボットを使いこなす派遣事務職」へのステップアップの機会であるとともに、積極的にロボット化を進める企業で不足している運用担当者を養成していく場でもある。

「培ってきた業務知識とともにWinActorを引っ提げて行ける派遣事務職は、これから必要とされる人材。当社としては技術者の養成を通じ、RPAの導入拡大や導入先のトータルな業務改善に貢献できれば」と語る井元氏。デジタルレイバーの興隆がもたらした“事務職派遣のニュータイプ”に、確かな手応えを感じているようだ。

今回、WinActor/WinDirectorを採り入れた3社へのインタビューを通じて、改めて生産労働人口の減少によるビジネスを取り巻く環境が激変しており、生産性改革に取り組まざるを得ない状況であることがはっきりしてきた。しかし、3社に共通していたのは、現在の環境を悲観するものではなく、機会として捉え、現場を含め前向きな姿勢で生産性改革に取り組んでいることであった。こうした意識の変化を促すきっかけをつくるRPAはそれだけでも大きな効能があると言えるのではないだろうか。

良くも悪くも、人間の知能を完全に代替できるロボットは当分の間現れないとみられる中、代替可能なルーチンワークとされる定型業務の領域に的を絞り、ロボット(RPA)を投入することでもたらされる経営へのインパクトは数値面でも実証されつつあり、更なる可能性が広がっている。意識改革・組織改革への機運を、生産性の向上にどうつなげていくか、WinActor/WinDirectorを採り入れた3社それぞれのアプローチは、業界業種を超え明日からの実践に活用可能な取り組みとして多くの示唆に富むと言えるだろう。


左からNTTデータ 課長 中川 拓也氏、遠州信用金庫 常務理事 鈴木 靖氏、近鉄情報システム 企画推進部 マネージャ 伊東 剛志氏、ヒューマンリソシア 本部長 井元 道由氏

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