2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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ファスナーのトップメーカーとして知られるYKK。製造や開発部門などが集積し「技術の総本山」と位置づけられる富山県黒部市で、グループ全体の管理業務を担うYKKビジネスサポート株式会社は、ソフトウエアで定型業務を代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のツール「WinActor」*を2017年5月に導入し、設立以来進めてきた業務改善を加速させている。同社が掲げる戦略と、その実現に貢献するロボットの運用について取材した。
ロボット化の検討から1年で「6人に1人」が習得
2003年設立の同社は、YKK株式会社をはじめとする国内約20社のグループ企業から総務・人事・経理部門の管理業務を一元的に受託している。たゆまぬ業務改善の一環として17年初頭から導入検討を始めたRPAは現在、19のロボットが稼働中。従来人手で行ってきた作業について年間600時間相当の効率化を達成したほか、従業員のおよそ6人に1人にあたる20人がWinActorを習得し、ロボット化の対象業務選定や実装を行っている。新たなロボットの作成は部署単位で進めており、現場のスタッフから上がるリクエストの採否を、作成スキルを持つ担当者と上長で判断。各部署の取り組みは、定期的に開かれる全社報告会で確認している。
短期間での円滑な展開について、プロジェクトを統括した経営管理グループ長の石倉由紀氏は「当社にぴったりのアドバイスや成功事例の紹介を受けられたことが大変役立ちました」と語る。同社は今回、プロジェクトのパートナーとして自社と同じ業務受託事業を展開している 株式会社エヌ・ティ・ティ・ビジネスアソシエ西日本(大阪市都島区)を選定。この業界へのRPA導入支援で豊富な実績を持つ同業者にWinActorのトライアルや研修を依頼したことで、業務をロボット化するための“勘どころ”を効率的に押さえ、独力での運用をいち早く確立した。実際、WinActorをマスターした20人のうち半数は、初期に社外研修を受けた従業員らによって社内養成されたメンバーという。
石倉氏はさらに「当社はRPAの導入以前から、受託業務について標準化や文書化の取り組みを続けてきました。誰が見ても分かるよう作業を整理する仕組みが既にあり、それを活用してロボットを採り入れられたことも大きかったと思います」と振り返る。
自社における文書化の取り組みを踏まえたロボット運用の一端を、同グループの湊裕史氏は「業務を最初から最後まで、まるごとロボットに移管できるケースは基本的にないと考えました。そのため、ロボットは工程の一部を代替するものとし、その作業内容や作成方法は業務フロー全体を記述している既存のドキュメントとは別の文書として管理しています」と解説する。双方の文書が関連する箇所は、どちらからでも参照できるよう注記をつけて保管。万一ロボットにトラブルが生じた際は手作業に戻し、これら文書に沿って応急処置や回復ができる仕組みとし、将来の担当者が対処に窮する「ブラックボックス化」を未然に防いでいる。
WinActorの導入前から、同社の業務では表計算ソフトのマクロツールなどが活用されており、RPAをマスターしたのも、多くはそうした技術に通じた従業員だったという。ただ一方で同社内には情報システム部門がなく、ロボットのカスタマイズなどで高度なプログラミングの知識まで求められれば対応が困難になるとの懸念もあった。
そのため、選定にあたっては操作が容易であることを重要視しており「 “プログラミング不要”をアピールする多くのRPAツールの中でも、WinActorは抜きん出ていた」と湊氏は語る。立ち上げにあたって業界知識に通じたパートナーから充実したサポートを受けられたのに加え、現場主導でロボットを導入するのに適したツールを選択したことも、早期に運用を確立できた一因といえそうだ。
現場が漏らす不安に応えた“五か条”
基本仕様での運用が多いERP(基幹業務システム)と、実務で必要なデータ管理とを橋渡しする変換・転記作業を筆頭に、同社では各所に残っている定型作業のロボット化が着々と進行している。
「WinActorで自動実行のシナリオを作成するのはマクロを組むより簡単で、しかもその実行内容は誰が見ても分かりやすいと言うメリットもあります。ただ、WinActorの導入前からマクロで処理している工程は基本的にそのまま残し、ロボットへの置き換えは考えていません」。そう湊氏が語るとおり、同社にとってWinActorの導入は、設立以来の伝統である業務品質向上をさらに進める施策だった。決して唐突な取り組みではなかったが、それでも当初開いた従業員向けの説明会は歓迎ムード一色とまではいかず、業務負担の軽減に期待する声に混じって従業員の不安の声も漏れ伝わってきたという。
石倉氏は「報道などでよく『何人分の業務を自動化』という表現がされることもあり、従業員からは、仕事を奪われるのではないかという反応がありました」と当時を振り返る。その後実演を繰り返す中で「ロボットが決して万能ではなく、共に働く人間が欠かせないという実態も徐々に理解されてきました」(同氏)。同社はさらに、従業員が抱くと想定される種々の疑問点を踏まえ「RPAは人員削減のための道具ではない」「RPAを使えることが新たなビジネスチャンスにつながる」などと宣言した『RPA五か条』を社内に発表。起草した太刀川博社長(取材当時)は「ロボットによる効率化で人にまず余力をもたらし、その力を業務価値の向上に振り向けていくという会社の姿勢を明確化した」と話す。
狙うのは「デジタルレイバー×業務標準化」の全社展開
受託する管理業務の効率的な処理について研究を重ね、ハード・ソフトの両面で標準化への投資も行ってきた同社。石倉氏は「RPAの本格的な戦力化に挑む2018年は、グループ全体への貢献も強く意識しています」と語る。
ものづくりの現場を重視する戦略から、YKKグループは16年までに、それまで東京にあった本社機能の一部を黒部へ移転してきた。これに伴う業務分担の見直しが、今後いよいよ本格化する。このタイミングを生かし、RPAを仮想的な労働者(デジタルレイバー)として一気に全社展開する仕組みまで築ければ、「デジタルレイバー」と「業務標準化」の相乗効果による飛躍的な生産性向上も夢ではなくなる。
「活用が進むにつれ、人間がRPAツールを使うというより、作成したロボットがデジタルレイバーという“同僚”に近づいてくる実感があります。デジタルレイバーの役割を広げる上では様々なシステムへのアクセスが不可欠で、そのためには人間と同じように社員IDやアクセス権限も必要。それらを可能とする制度改正は当社だけでは行えないため、グループ全体で業務分担が見直される今が絶好のチャンスかもしれません」(湊氏)。「今後の展開につなげるためにも、まずは社内で着実に適用範囲を広げていきます。少なくとも今年中に、RPAで4,000時間相当の業務短縮を実現するつもりです」(石倉氏)。これからの展望をそう語った2人の、期待と確信に満ちた表情が印象的だった。
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