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国内でも注目を浴び始めて一年以上が経過した現在、RPAの導入事例が急速に増加している。RPA導入に際しては、多くの企業がPOC(技術検証)やパイロットから着手しているが、そこではどのような成功や失敗があり、さらには、その先の多部門・グループ内展開や安定的な運用のためには何を検討し、何を用意しておくことが必要なのだろうか──。多くの企業が関心を抱くであろうテーマを掲げたセミナー「事例からみるRPA導入のポイントと今後の展望 効果を最大化する導入・拡大・安定運用のために」が、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社の主催により3月20日に都内で開催された。その模様をレポートする。
国内RPA市場は、多部門展開・全社展開のフェーズへ
最初のセッション「日本国内におけるRPAマーケットの現状とこれから」に登壇したのは、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(以下、EYアドバイザリー) ファイナンス リーダー 兼 RPAアドバイザリー リーダーでパートナーの高見陽一郎氏だ。同氏は、RPA導入に関わってきたコンサルタントの視点から、日本国内におけるRPA導入をめぐる現状と今後の見通しについて考察するとともに、EYアドバイザリーの支援事例からの示唆を踏まえて、これからRPA導入を検する企業が検討しておくべきポイント等について解説した。
まず高見氏は2017年の国内RPA市場を振り返った。昨年は、PoCによりRPAツール導入の具体的なトライアルが進み、また試行した企業の多くが導入に成功したと考えており効果を実感しているという。
「そのため今後に向けてRPA導入の拡張を検討している企業が多い」としたうえで同氏は、次のような見解を示した。「RPAというよりはRDA(ロボティック・デスクトップ・オートメーション)として使用している。本当の意味でのプロセス・オートメーションの世界に行くのは2018年以降、つまりこれからだろう」
これからRPAを導入する企業にとって、RPAプロジェクトにおける要検討要素となるのが、プロジェクト開始前は導入効果の考え方、RPA導入中は多部門展開・全社展開・グループ展開、そしてRPAの本格稼働後には「体制」「ポリシー」「プロセス」からなるRPAガバナンスである。
このうち導入効果の考え方について高見氏は、こう持論を述べた。「よくRPAはROIが高いと言われるが、投資対効果をROIという数字で測ることにこだわりすぎないほうがいいのではないか。それよりも、これだけの工数を削減できるのならば、削減できた分の工数を何に使うのかを考えるべきだろう。他にもRPAの導入が業務見直しのきっかけとなるなど、数字に表れない定性的な効果がかなりあることも念頭に置かなければならない」
また、多部門展開・全社展開に当たっては、ボトムアップだけでは展開力に乏しいため、トップマネジメントのコミットメントとミドルマネジメントの巻き込みがポイントとなる。「つまりRPAの導入プロジェクトと言っても、通常の業務改善プロジェクトと変わらないということ」(高見氏)
そして多部門展開・全社展開するためには、中央管理できる体制も必要になってくることからRPAガバナンスの構築がポイントとなるのである。
最後に高見氏は次のように2018年以降の展望を示してセッションを締めくくった。「現在、RPA適用対象の拡大の段階に入っている企業が増えている。そうなると次に必用になってくるのが社内におけるRPA人材の育成だ。そして今後は他の様々なテクノロジーと組み合わせながら、最終的に人とRPAの協業による「Virtual Workforce」を目指していくこととなるだろう」
ボトムアップ型RPA導入で大切なポイントは、拡張を前提とした設計
続いては、EYアドバイザリーのシニアマネージャー、福地史朗氏が、「EY導入支援事例 大手企業の財務・経理部向けのボトムアップ型導入方法論」というテーマでセッションを行った。セッションでは、同社によるRPA導入支援事例をもとに、RPA導入プロジェクトの現場からマネジメントまで巻き込んだ複層的導入アプローチについて解説がなされた。
事例として紹介されたのは、連結売上高1兆円超、連結小会社300社超、従業員5万人超というある国内大企業の本社経理財務部門におけるPA導入プロジェクトだ。EYアドバイザリーでは、PoCとトレーニングを支援しており、RPA導入はスモールスタートかつボトムアップで、現場の人々と話しながら進めていったという。
プロジェクトの2ヶ月半経過時点では、トレーニング受講者数25人のうち組織ごとにRPA浸透度や習熟度に差が見られた。そこで早めにてこ入れしながら進めて行った結果、半年経過時点では、トレーニング受講者数100名以上の、内製化ロボ業務約50、RPA化に適した業務の業務削減率が75%以上という成果が見られた。
福地氏は、「プロジェクトスケジュールとしては、第一フェーズは我々の知見による支援で、第二フェーズでは基本的にクライアント中心のタスクに移行し、現在はフェーズ3に入っており全社展開に向けて動いている」と説明した。
RPAを導入する対象業務の選定では、通常は開発工数が少なく効果の大きい業務を選定するところ、この企業の要望により開発工数が多く、効果の大きい業務も一部選定したという。
「今回対象業務の選定でわかったのが、敢えて難しいところを対象にすると、うまく行った際に現場の人たちから非常に喜んでもらえるということ。もうロボなしではできないと現場から言われたら成功だと思っている」(福地氏)
ロボットの内製化方針としては、自分たちでどれだけ内製化できるのかを理解してもらったうえで、内製化できる領域を決めていったという。
福地氏は、「予想以上にスムーズにいった。もちろんクライアントの頑張りが大きいが、ロボットを部品化して横展開できたことも効果があった」とコメントする。
この後、人材育成のポイントなどに触れた同氏は、最後にボトムアップ型RPA導入で最も大切なポイントとして、拡張を意識しないと広がらない、後戻りできない状況をつくる、主役を現場に据える、アジャイル的思考を導入する、キーマンはミドルマネジメント、現場への関心は絶やさない、といった要素を挙げた。
「誰かが常に現場に関心を示していかないとRPAの火は自然消滅してしまうので、RPAについて詳しい人が現場にいて常に気軽に質問できるような状況をつくっておくことが望ましい」(福地氏)
RPA推進のポイントは、ミドルマネジメント層の巻き込み
最後のトークセッション「導入プロジェクトの現場から」では、高見氏が司会を務め、パネリストには、 EYアドバイザリーのエグゼクティブディレクター、西村文秀氏、マネージャー、増井孝有氏、シニアコンサルタント、萩野真由氏が登壇。それぞれ別々のRPAプロジェクトを担当しており、実際のプロジェクトをけん引した、あるいは現場でロボット作成に携わったコンサルタントとしての意見が交わされた。
左からEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社 ファイナンス リーダー 兼 RPAアドバイザリー リーダー/パートナー 高見 陽一郎氏、シニアコンサルタント 萩野 真由氏、マネージャー 増井 孝有氏、エグゼクティブディレクター 西村 文秀氏
まずプロジェクトで見えたRPAの効果について増井氏は、7〜8割の業務時間の削減効果が見られたとし、「その分の時間を別の業務に当てるという連鎖が生まれ、企画立案などの人にしかできないところにリソースを集中できるという声が多くなっている」と語った。
また、RPA導入プロジェクトにおいて苦労した点として、金融機関向けに大規模なRPA導入を支援する西村氏は、最初の5ヶ月間の品質面での苦労を挙げた。
「RPAというのは人間の代替となるものなので、業務だけをわかっても、その業務を行う人の使い方の癖や使うアプリの癖のようなところまで踏み込まないとうまくいかないと最初の5ヶ月間の試行錯誤を通じてわかった。その間にRPA独自の導入メソドロジーやフレームワークを構築し、6ヶ月目以降につくったロボットは品質を保てるようになった」と西村氏は振り返った。
これからRPA導入をスタートする企業の担当者に向けて、RPAを円滑に進めるための一番重要なポイントとして萩野氏はこう語った。「現場の目線で言えば、ミドルマネジメント層から現場の業務担当者への訴求が重要になるのでは。PoCや本番導入の開発でも現場の業務担当に時間を割いてもらうことになるし、内製化でも最初からうまく動作するロボットはなかなか難しいが、そこはロボットの効果などについてミドルマネジメントから業務担当者に説明してもらうと開発がしやすいだろう。実際にうまくいくロボットができると皆がすごく感動するし、新しいロボットをつくってみたいという声も自然と上がってくる。成功体験によって広がっていくので、成功体験までの意識やモチベーションをミドルマネジメントが上手に保ち、醸成することが鍵となるだろう」
そして高見氏は、この日のセミナーを振り返り、「RPAと言っても単なるツールなので、最終的に何を達成していくのかであるとか、人をどう変えていくのかといったように、大きな意味でのチェンジマネジメントが重要だと思った」と統括した。
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