2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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既存の職業のうち半数近くが、20年以内に高い確率でコンピューターに代替されるとの予測が話題となった2013年の論文「雇用の未来」。米国の職業およそ700種類を対象にした“消滅可能性ランキング”で、首位と僅差の8位に挙げられた「Tax Preparers」(税務申告書作成者)は、日本においては税理士業務の一部にあたる。会計実務の世界では、早くから専用ソフトによる効率化が進み、近年においてはAIによる自動処理を採り入れたクラウド会計サービスが小規模企業やフリーランスにまで浸透しつつある。これまでにない局面を迎えている税理士業界において、PC上の定型業務をソフトウエアで代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に着目、人間と協働する仮想的な労働者(デジタルレイバー)と位置づけてサービス変革へ採り入れる税理士も現れている。その1人・銀座税理士法人(東京都中央区)の岩田篤氏から、デジタルレイバーに託する思いを聞いた。
若手税理士の注目を集めるRPA
−まず業務の概要と、RPA採用までの経緯を聞かせてください。
1940年に創業、税理士・アシスタント合わせて20人あまりという中規模の事務所で、私は主に法人顧客の税務に携わっています。所属する税理士は基本的に個人単位で動いており、必要に応じてアシスタントの手を借りる形で各自の業務を進めています。
さきの年末年始に偶然、RPA関連の書籍が目に留まって読んだところ、同書で紹介されていた金融機関などの導入事例から「税理士業務でも役立つ」と確信しました。すぐ決裁を取ってRPAツールの「みんロボ!」をPCへインストールし、2月ごろから実装を始めるようになりました。
−現在、RPAをどのように活用していますか。
従来アシスタントが行っていた作業の一部を任せています。具体的には、依頼主から届いたデータを表計算ソフトに落とし込み、当事務所で使う会計ソフトへ転記する用途などで使っています。個人所得の確定申告を皮切りに、法人の連結決算向けロボットなども作成しており、手作業だったときと比べて30分の1の時間で終わるなど確かな効果が出始めています。
依頼主が使っている会計ソフトによって仕様が異なるため、最初はそれぞれに応じたロボットの設定が必要ですが、一度対応しておけば同じソフトを使う別の依頼主からのデータも処理できるので、処理の効率は徐々に上がっています。
−RPAの機能は表計算ソフトのマクロに近いと言われます。税理士事務所でマクロを使う機会は多いのですか。
私自身の場合、RPAを知ったのを機に関連する知識としてマクロを勉強し始めたところです。事務所内ではマクロの利用は限定的です。税理士業務においては、会計に特化したソフトやクラウドサービスが充実していることもありますが、煩雑な事務作業に関しても「アシスタントにお願いしておけば、多少時間がかかっても仕上げてくれる」という感覚が強かったように思います。
もっともここ数年は、税理士試験の受験者減少もあって、後進の育成が難しい状況になっています。一緒に働く仲間は焦らずじっくり探したい一方、目の前には事務作業が積み上がっていく。正直なところ、ほとんど「藁をもつかむ思い」でRPAに飛びつきました。
−RPAの導入について、事務所内外からどのような反応がありましたか。
事務所内では先輩方も含めてツールの実演を見ていただき、「試してみたい」といった声も出てきています。同年代の税理士はさらに敏感で、私が初めて企画したRPAの勉強会を20人に告知したところ、参加した6人全員が「面白い」と、導入を前向きに検討しています。
人間に「対人業務への特化」「繁閑差の平準化」をもたらすRPA
−AIは税理士業務に対する脅威かもしれませんが、RPAは違うようですね。
ええ。日本の税理士は、税務調査への立ち会いといった「税務代理」と、申告書をはじめとする「税務書類の作成」、さらに税金の計算に関連した「税務相談」の3業務で独占が認められています。「雇用の未来」でAIによる代替が話題となったのは、このうち2番目の領域です。確かに計算と単純作業を繰り返して作れる書類に関しては、いずれAIが自動作成するようになるでしょうし、この点に危機感を持つ税理士は多いと思います。
ですからいま実務を担う税理士は、AIに仕事を持っていかれる前に、自分たちが主導する形で自動化・効率化を進めていくべきだというのが私の考えです。その際に人間と対立せず、むしろ協働する存在となってくれるのがRPAだと思います。
−特にRPAに適した作業や、逆に人間の税理士が担うべき分野がありますか。
作業内容でいうと、例えば大企業の子会社は親会社と自社のシステム間で、連結会計のための転記を繰り返していることがあります。これはまさにRPAの得意分野で、しかも税理士が「記帳代行」として受任してきた業務とも重なりますから、今後税理士事務所が強化していける有望な事業領域かもしれません。
税の種別でいうと、例えば法人税の算出方法は比較的定型性が高く、申告書の作成にRPAを使うのが効率的です。反対に、申告のパターンが複雑で多岐にわたる相続税のような分野は、引き続き税理士が担っていくのがよいかもしれません。
デジタルレイバーへ任せられる仕事から解放されていくことで、未来の税理士は職を失うのではなく、税務相談に代表される「人対人」の業務に専念していくようになると思います。
RPA普及のカギを握る「オープンな情報共有」
−税理士は相談業務へシフトするとしても、事務作業を担うアシスタントは、デジタルレイバーに仕事を奪われてしまいませんか。
確かにデジタルレイバーは、アシスタントが担ってきた既存の作業を代替しますが、現状では処理能力を超えるために受任をお断りすることがあるほどで、デジタルレイバーが加わったためにアシスタントの地位が脅かされることは当分ないと考えています。
また、税理士事務所は年間を通して繁閑差の大きい職場です。繁忙期のアシスタントにかかる負荷を軽減し、業務量を平準化する意味でも、デジタルレイバーはアシスタントの味方になると思います。
−RPAの活用を、今後どのように拡大していく予定でしょうか。
私もまだまだツールの勉強中で、週に1つ新しいロボットをつくることを目標に取り組んでいるところです。
当初はRPAを「門外不出のノウハウ」として、自分だけの強みにすることも考えましたが、今はむしろ積極的にRPAを普及させることで税理士からのフィードバックを増やし、情報共有の質を上げていくアプローチのほうが私自身にとってもプラスになると感じています。所属する税理士会の支部活動などを通じて、税理士業の未来に健全な危機感を持つ若手へのアピールを特に増やしていきたいと思います。
個人経営の税理士からは「通常業務のかたわら、RPAツールの操作を覚えてロボットを実装するのは荷が重い」という声も聞きますが、これはRPAツールそのものが難しいというより、ツールの英語表示が取っつきにくいことや、業界実務に特有の問題がマニュアルで説明されていないことが大きいと思います。日本語化されたRPAツールや、税務に特化したRPAのQ&Aが充実することにも期待しています。
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