2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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総合商社の双日株式会社(東京都千代田区)は、さる5月に向こう3年間の中期経営計画を発表。その中で「デジタル革命」に伴う事業環境変化への対応を掲げ、専任組織の設置をはじめとする取り組みを着実に進めている。
こうした諸施策における1つの柱と位置づけられているのが、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用を通じた生産性向上だ。国内外に400社超の関連会社と、約1万8,000人の従業員を擁する双日グループは、新たな時代に導くテクノロジーをいかに業務へ採り入れようとしているのか。RPA導入の先頭に立つチームメンバーを取材した。
「プロパーの業務知識」「専門家の知見」を融合させた“混成チーム”
現在、双日グループはマネジメント層と現場がそろってRPAに関心を寄せている状況だという。その背景について「大幅な社員の増員を見込みづらい中、社内の人的リソースを強化していくために欠かせないのが業務の効率化。その一手段として、PC上での定型業務をソフトウエアで代替するRPAは、短期間で顕著な効果が得られる。そのため、誰にとってもメリットが分かりやすい」と解説するのは、この4月に新設された双日ビジネスイノベーション推進室の八田吉蔵室長だ。
同社が初めてRPAと接点を持ったのは2017年初頭のことだ。まず社内の経理・財務・IT等による数人の有志チームが、個別のPC上で動作する簡易なRPAツール(RDA=ロボティック・デスクトップ・オートメーション)で4カ月間の検証を実施。その結果を関係会社を含めた社内説明会で公表したところ、予想以上の大きな反響があった。このため、グループ全体でのRPA利用を視野に、サーバー上で動作して一元的な統制下で運用できる本格的なRPAツールの導入に向けた正式なプロジェクトとして検討・検証が続けられた。
検証開始から1年余を経た現在では、サーバー型で開発したロボットのうち約10種類が実用水準に到達。一部は本番運用に移行しており、輸出入時の決済に用いるL/C(信用状)の会計システムへの登録作業では、ロボット導入によって1通あたりの処理時間が30分の1以下に短縮した。
最新テクノロジーを活用した事業開発や営業支援、業務効率化を進める専門部署と位置づけられたビジネスイノベーション推進室は、双日社内のRPA活用においても主導的な役割を担う。同室のメンバー15人のうち、RPA担当は6人。プロパーのほか、グループのIT専門商社である日商エレクトロニクス株式会社(日商エレ、東京都千代田区)からRPA専門のスタッフも迎えている。“混成チーム”で業務知識と技術的な知見の融合を図り、導入の計画から実装、運用までを一手に引き受けているのが特徴だ。
高まるロボットへの期待。同社グループ対象の説明会に250人が殺到した
食品から航空機まで、商社が扱う多種多様な商品の取引では、国内外のメーカー・銀行・運送業者などが複雑に関係している。その結果、商社の業務上必要となる情報はさまざまな様式と体裁でやりとりされ、データの整理や社内システムとの連携には、これまで多くの人手が割かれてきた。
「私自身が担当していた経理業務の中で『何とかもっと効率的にできないか』という疑問を抱いており、『同じ思いの人が他部署や関連会社にも多くいるはず』と確信していた」。有志数人でRPA勉強会を開いた経験も持つ、ビジネスイノベーション推進室の石井俊樹氏は、全社的な普及を意識しだしたきっかけをそう振り返る。
石井氏らの問題意識とトップダウンによる業務効率化、さらに双日グループ各社へRPAの提案を始めていた日商エレの動きが重なり、2017年夏には双日の本社にて、同社および関連会社を対象としたRPA説明会が企画された。集まったのは、想定をはるかに超える250人。当初2回開催で確保した会場に収まらずキャンセル待ちが発生、急きょ追加開催を決めるほどの人気ぶりだった。
「双日と関連会社から半々の参加だったのは狙いどおり。この場で寄せられたリクエストをもとにロボット化のターゲットを検討してきたほか、社内では全部署の部長に会って要望の集約をお願いしている」と石井氏。実装を担当する日商エレのデジタルレイバーコンサルタント・西澤智司氏は「ロボット作成の前段階として、作業内容を仕様書にまとめるところまでは導入部署にお願いしている。ただ『間違いがないか確認する』など人間同士の引き継ぎに近い内容も多く、それらを具体化して整理するサポートもわれわれが行っている」と説明する。
ロボット活用のさらなる拡大に向けたスピード感について、同じく日商エレから参加しているデジタルレイバーコンサルタントの三浦王介氏は「すべてオーダーメードだった当初に比べ、現在は開発済みのロボットを他部署に横展開できるケースも増えている。このため、導入のペースは今後加速していく見通し」と話す。
「仕事がいつの間にか片付く」“表に出さない”実装の仕組みとは
RPAの導入検討開始以来、いくつかのRPAツールでテストを重ねた双日だが、最終的に採用したのは、サーバー型RPAツールとして世界各国での導入実績も多い「BluePrism」だった。
開発成果を再利用しやすく、セキュリティー上重要な作業履歴が詳細に残るなどエンタープライズ向けの充実した機能が、全社的なRPAの普及を進める方針にマッチしたのが決め手となった。
中でも特筆すべきなのは、その運用方法だ。自動実行する工程を一元的に示すRPAツールの管理画面は、ベンダー各社が直感的な操作性を競っているが、双日の導入現場でBluePrismを活用する従業員は現在のところ、それらをクリックすることはおろか、目にする機会さえない。というのも、決められたフォルダにデータファイルを置いておきさえすれば、所定の時刻に必要な処理が“ひとりでに”行われる仕組みになっているためだ。
RPAツールの存在そのものを、ロボットの開発運用に深く関わるメンバー以外には意識させない。そうした手法の利点について、日商エレからの派遣エンジニアである秦しおり氏は「ロボットの保守運用に関する現場の負担を『エラー発生時の自動送信メールへの警戒』だけに限定できる点。複数のロボットの作業スケジュールを完全に管理できることから、少ないライセンス数で効率的に処理できるのも強み」と指摘する。
もっとも、このような運用は「現場主導での継続的な業務改善を促す」というRPA本来の意義と矛盾しかねない面を併せ持つ。石井氏は「現在の運用が唯一の方法ではない」とコメント。西澤氏も「BluePrismの設定を変えれば、現場での能動的な操作は当然可能。業務整理の考え方が社内に十分浸透した段階でツール側の対応能力を増強し、管理画面を開放するのも一案だ」と今後の展望を示す。
「AI-OCR×RPA」が貿易事務を刷新する
RPA、そしてAIは、ビジネスイノベーション推進室が活用対象に掲げる2大テクノロジーだ。両者を分けるのは、処理する情報が「定型的」か「不定形的」かの違いだが、性質が異なる双方の組み合わせで劇的な生産性向上が見込める用途も現れている。OCR(光学文字認識)を用いたアナログ情報のデジタルデータ化関連の領域だ。
双日社内では目下、通関業務のオンラインシステム「NACCS」への入力業務を効率化する試みとして、スキャン画像からAI-OCRが読み取り、項目別に整理したデータをRPAが自動で転記するソリューションの開発が進行中。早期の実用化を見込んでいる。
さまざまな様式の紙資料が混在することから、NACCSへの登録は従来、元データがデジタルの場合も含めて、全件を手入力してきたという。石井氏は「AI-OCRとRPAの併用で、それらを丸ごと自動化できる公算が高まった。本社の各事業部門で運用が軌道に乗れば、国内各拠点や海外での活用も見えてくる」と期待。三浦氏は「1件あたりの処理時間は3分の1未満となり、対象となる作業の絶対数も多い。貿易事務の効率化に相当なインパクトがあるのでは」と自信をのぞかせる。
当面の目標である業務効率化の先に、テクノロジーを使った事業拡大のミッションも背負うビジネスイノベーション推進室。AIのような“派手さ”はないRPAも、そうした“攻め”のツールとなりうるのか、最後に見解を尋ねた。
「定型業務からの解放で、より高付加価値な業務へのシフトが確実に進む」(三浦氏)
「“退屈な定型業務がない会社”というアピールが、今後の人材獲得競争でも武器になる」(秦氏)
「取引先のRPA導入を支援できるノウハウは、営業面での差別化要素」(石井氏)
「商社が携わることの多い新会社の立ち上げ時に、初めからRPAを活用した業務設計ができるのは強み」(西澤氏)
「チーム」が出した答は明白。RPAのポテンシャルを確信した者同士の固い結束を感じさせた。
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