2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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公益財団法人日本生産性本部が「10年後の世界・アジアを見据えた日本全体のグランドデザインを策定する」ことを目的に2011年5月に発足した民間の会議体「日本創成会議」が2014年に発表した資料によると、少子高齢化と労働人口の減少は、大都市圏より地方の方が深刻な問題となっている。具体的には、2040年までに全国約1800市町村のうち約半数にあたる896自治体が消滅すると見込まれている。これは、いわゆる「消滅可能性都市」と呼ばれる問題であり、現在ではそのスピードは予測より早いと言われている。
目を背けてはいけないこうした課題を、どのように解決していけるのか。その手段のひとつであり、限られた人的資源を補完してくれる新たな労働資源として「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」を活用が注目されている。NTTドコモもまた、そのRPA事業への参入を開始した企業のひとつだ。この春からRPAツール「WinActor」の取り扱いを開始した同社は、都心部のみならず、地方の企業や団体の人的資源の不足に伴うさまざまな課題に対しても、スマートフォンやタブレットをはじめとしたさまざまなテクノロジーを組み合わせた総合的なソリューションの提供をめざしている。
今回は、NTTドコモ 取締役常務執行役員 法人ビジネス本部長 古川浩司氏に、NTTドコモが考える地方への支援の取り組みと、今後RPA事業を通じてその付加価値をいかに飛躍させていくのか展望を聞いた。
人的資源が不足する地方に必要なのは「人+テクノロジー」
─前回のインタビューでは現場視点でのRPAの参入や導入の経緯をお聞きしましたが、その際に「地方に目を向けないと、本当の意味での日本における働き方改革は実現できない」というお話がありました。地方の実態はどのようなものなのでしょうか。また、RPAをはじめとするテクノロジーの活用についてはどうでしょうか。
まず私どもは、全国に通信サービスを提供しているという特性上、津々浦々に営業チャネルを持っています。だからこそ地方の実情を目の当たりにする機会もあるのですが、やはり現実問題として、人口減少に伴いすでに経済活動を遂行する機能維持が困難となっている自治体や企業も存在します。そのようなところでは、人的資源だけに頼るのではなく、RPAのようなテクノロジーと人的資源を組み合わせた仕組みを検討しなければならなくなっています。その熱量としても、地方の自治体、企業の方がRPAをはじめとするテクノロジーの活用に積極的だという実感があります。われわれ法人ビジネス本部としても早急に支援しなければならないと考えています。
─都心部よりも、地方の自治体や企業の方が、働き方の見直しについて切実になっているということですね。具体的には、どのような支援に取り組まれているのでしょうか。
前提として、法人ビジネス本部のミッションは、地方が抱える課題「少子高齢化」、「労働人口問題」への支援だけに留まりません。たとえば地方創生であるとか、農業や教育といった方面の問題解決にも支援領域を広げてきた経緯があります。地方が抱える社会課題解決のためにわれわれが最初に取り組んだのは、生産者の65%が65歳以上であり、産業として危機に瀕している農業のICT化でした。このように、法人ビジネス本部の従来的な活動のなかで、お客様のよきパートナーとして機能し得るよう、地方の自治体や企業と共に歩んできた、という歴史があります。その意味では、地方にある問題への取り組みは今に始まったことではないとも言えます。
その歩みとともに築き上げた全国の営業チャネルを基盤に、働き方改革のテーマでは「働き方の多様化」と「作業の効率化」の2つの視点で取組んでいます。たとえば「働き方の多様化」では、テレワークやシェアオフィスを活用することが効果的であるため、スマートフォンやタブレットといったモバイルツールが極めて有効です。そうしたデバイスをただ、普通に使うだけでなく、シェアオフィスを運営する不動産会社などの企業と連携して、パッケージ化したソリューションをご提案しています。
「作業の効率化」においては、この度提供を開始したRPAツール や、昨年から提供を開始した「AIインフォテイメントサービス®」などがあります。この「AIインフォテイメントサービス®」は、NTTドコモのAI技術である「自然対話技術」「行動先読み技術」「高度情報検索技術」と、ゼンリン社が提供するカーナビ向け地図やゼンリンデータコムの検索エンジンを組み合わせたものです。これらの機能がカーナビに搭載されることで、運転中のドライバーを効率的にサポートすることが可能になります。
─テクノロジーの進化に伴い場所の選択肢も増え、デスクワーク以外の働き方も効率化されていくのですね。働き方改革との親和性が高いことがよくわかりました。
はい。NTTドコモは、日本の地方が抱える課題に対して、モバイルでどのようすれば解決へと寄与できるか、という考え方からアプローチしています。それがNTTドコモの中期戦略である「+d」(プラスディー)です。これはパートナーと弊社の強みを組み合わせて新たな価値を共に創造する取り組みで、2020年とその後の未来に向けた中期戦略「beyond宣言」※1にも繋がるものです。
「+d」の取り組みと合わせてRPAツール「WinActor」を活用することで、私たちが提供するソリューションの質をさらに高めることができ、働き方改革を飛躍させることが可能となります。さらにAIと連携することで、より柔軟な対応を測ることができます。
─確かにツール単体を導入するだけでは、ともすれば「RPAで事務作業を効率化」という端的な目標設計で終わりかねないですね。各種デバイスとの連携やAIの活用により、さらなる働き方改革やデジタライゼーションに結びつく、ということですね。
はい。NTTドコモは基本的にネットワークの通信キャリアという位置づけではありますが、今後は通信以外の付加価値をいかに組み立てるか?が重要となります。手前味噌ではありますが、弊社は博士課程を修了した専門性の高い研究職の社員も多く在籍しており、研究開発の能力もトップクラスだと自負しています。法人ビジネス本部は、そのような知見も生かして総合的なコンサルティングを提供していきます。
運送業、農業でも始まるRPA活用
─すでにRPAを導入(導入構想含む)されているのはどのような業種なのでしょうか。
関心を寄せていただいている企業は業種、業態から規模も幅広いのですが、事例のひとつには、運送業界の働き方改革にRPAを活用した取り組み構想があります。
運送業界は他業界と比較してIT化が遅れており、まだ手書きの書類作成やFAXなどが残っていることの多い業界です。たとえば先ほど述べた「AIインフォテイメントサービス®」によって、従来手作業で記入されていた業務報告などが、口頭で発言するだけで音声認識からドキュメント化まで完了します。さらには、カーナビのGPSの情報まで取り込んで日報データまで作り上げます。ドライバーの方にとっては、AIの「自然対話技術」による音声での質問に口頭で回答するだけなので、非常に安全かつ自然な形でデータの作成が完了します。
これまでは紙で業務報告書が提出され、事務スタッフが目視確認でデータの突合業務を行っていました。その、「AIインフォテイメントサービス®」の活用を通じてデジタル化され、その後の入力作業もRPAを活用することによって、圧倒的な業務の効率化を実現しています。
このようなソリューションは農業でも可能です。たとえば、農家の方とJAとの受発注のやりとりには、現在もFAXが使われています。そのFAXでやり取りして事務員が手入力している書類をOCR(Optical Character Recognition、光学的文字認識)で読み込む、あるいはFAXの代わりにタブレットを活用することで、デジタル化されたデータの入力をRPAが代行し、業務を自動化することで、コストの削減や省略化につながります。
そのほかにも、農家の方は大雨などの災害があったとき、自分の田畑が心配で様子を見に行き、そこで被害に遭うということが多々あります。しかし田畑にわざわざ行かなくとも、デバイスで確認ができればそういった被害も発生しません。今後も農業の分野においては、先ほど述べたOCRやタブレットとRPAを組み合わせた作業効率化の支援や、こうした田畑の遠隔管理を可能にする支援など、デジタルによるソリューションに力を入れていきたいと考えています。
「RPA×テクノロジー」で地方ビジネスの再設計をめざすドコモ
─RPAで自動化するだけでなく、現場のあらゆるアナログ作業からデジタル化していく解決策は、地方創生に長らく取り組んできた歩みがあるからこその視点ですね。そのほかに、NTTドコモならではという強みはどのようなものがあるのでしょうか。
NTTドコモ単独のみでなく、さまざまな企業と連携、コラボしていくという取り組みを始めています。2018年1月からは、5G(第5世代移動通信方式)の新サービス創出に向けて協力企業を募る「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」をスタートさせました。発表してからわずか半年で、1,500を超える企業の方にご参加いただいています。
このように、NTTドコモのアセットにさまざまな企業が持つアセットも組み合わせていくことを考えています。先ほど申し上げた「+d」という考え方は、「どこかに辿り着いたら終わり」というわけではありません。「+d」の可能性は無限大です。RPAの活用用途についてもさまざまな協業パートナーとともにその可能性を拡げていきたいと考えています。
─アイディア次第で可能性はどんどん広がりますね。そういった着想の幅を広げるために、どのような取り組みを行われているのでしょうか。
「トップガン」という営業方針を打ち立てています。これは、営業と共にR&Dの研究開発者もお客様の元へ赴くというもので、現場の生の課題や問題意識を研究開発者自らがうかがうことによって、現場の生のニーズに最適な技術をマッチングさせ、新たなサービスやソリューションを生み出していくという取り組みです。担当者自らが現場に赴くことにより、全国のさまざまな業界、業種の課題や知見が集約されていきます。そうした知見はアイディアの元になるため、社内のカルチャーとしても、そうしたヒントを見つけていくという文化が根付いていますね。
今後、RPAのサービスをご提供していく中でも、そうした新たなアイディアがどんどん生まれていくと思います。先ほど申し上げた「ドコモ 5Gオープンパートナープログラム」も、現在はまだ、たくさんの企業と知恵を出しあうという実験的な段階ですが、来年の今頃には考えもつかなかったような事例を発表できると思います。
─今後も新たなソリューションが生み出されていくのが楽しみです。本日はありがとうございました。
※1「2020 beyond宣言」5G時代に向けた6つの宣言。マーケットリーダー宣言、スタイル革新宣言、安心快適サポート宣言、産業創出宣言、ソリューション協創宣言、パートナー商流拡大宣言がある。
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