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「R」「P」「A」に隠された“3原則”――第四銀行のRPA(後編)

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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RPA BANK

経営改革に必要な人的リソースの創出を目的に、定型業務をソフトウエアで代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用に取り組む地方銀行の株式会社第四銀行(新潟市中央区)。ロボットの導入経緯と、ロボットが行内にもたらした変化を探った前回に続き、後編では実際の運用と、それを支えるチームのあり方に焦点を当てる。

RPA推進の肝は「ロボットの社内営業」にある

周知のとおりRPAは「ロボットによる定型業務の自動化(Robotic Process Automation)」の略称だ。もっとも、第四銀行でRPAプロジェクトの中核を担う上席調査役の本間豊氏(事務統括部業務革新室)によると、この3文字にはロボット活用を進めるための大原則が隠されている。すなわち、RPAの成功は「関係性(Relationship)」「継続(Proceed)」「機敏さ(Agility)」でもたらされるというのだ。


事務統括部 業務革新室 上席調査役 本間豊氏

「行内でロボット化を推進するわれわれが、ターゲットとなる現場のスタッフ、ロボットの開発を行うチームスタッフ、またRPA以外の業務改革を進めるチームスタッフとの間で信頼関係を築くことがまず重要。その上で、現場に時間を取らせて嫌われるのも覚悟の上でヒアリングを続け、効率化へのニーズを正しくつかむことが大切だ。さらに、集めた声はなるべく早く改善に反映しなくてはならない。ロボットにこだわらず、他のテクノロジーや手段で効率化することも常に念頭に置くべき」(本間氏)

導入検討から1年半でロボットの量産体制を確立するまでに至った第四銀行。自行の実情に照らしてRPAを“再定義”した結果、ロボットによる効率化を進める業務革新室のスタンスは、あたかも「ロボットの社内営業」のようになっているという。本間氏は「客先に足繁く通って事業の内容と課題をつかみ、どうすれば役に立てるかを考えるのが銀行員の仕事。行内でロボットを普及させる取り組みも、やっていることは同じ」と語る。

いったん評価と信頼を勝ち得れば、そこから一気に支持が広まるのも社外での営業と共通するようだ。同室審議役の宮路拓也氏は「RPAの『オートメーション』という語感から『まるごと仕事がなくなる』と心配されがちだが、それは過大評価(笑)。『使える場面は限定的だが、ロボットという新しい部下が来て、上手く使えば現場はラクになる』という真の姿が理解できると使いたくなるようだ」と分析。副部長の深海憲一氏は「担当業務で作業工数の削減を体感したスタッフから『入れてよかった』と感謝され、『似ているこの業務もロボットで』と追加の希望が寄せられている。RPAに懐疑的だった周囲からも徐々に活用案が挙がりだし、いい循環ができてきた」と手応えを語る。


事務統括部 業務革新室 副部長 深海 憲一氏

ロボット開発・運用のための「RPA開発室」

34業務で130体が稼働し、さらに毎月およそ10体以上のペースで増加を続ける同行のロボット。その維持拡大は、複数の部署・企業にまたがるおよそ10人のチームによって進められている。RPA関連のプロジェクトを統括する業務革新室からは宮路氏ら3人が参加してロボット化の対象業務や仕様を決めているほか、IT部門からも3人が加わって既存の社内システムとの連携を図っている。個別のロボットの実装と運用管理は、グループのシステム開発会社である第四コンピューターサービス株式会社に委託。エンジニア3人が常駐している。

チームのメンバーが勢ぞろいする週1回のミーティングには、同行における業務のデジタル化全般を統括している「総合企画部デジタルバンキング推進室」の担当者も参加。全体像を共有した上で、今後解決すべき課題の整理や方針の決定などを行っている。また、個別具体的なロボットの開発運用に関しては、業務革新室とRPA開発室のメンバーが毎朝集まって進捗と状況を確認しているという。


(左奥から)事務統括部 業務革新室 審議役 宮路拓也氏、同 副部長 深海憲一氏、同 上席調査役 本間豊氏 (左手前から)第四コンピューターサービス株式会社 伊東麻希子氏、小池裕子氏、西方博氏

開発運用の実作業を行っている本店内の「RPA開発室」をのぞくと、開発用のPCが並ぶそばに配置された2面のホワイトボードには、進行中のプロジェクトに関する状況が細かい字でびっしり書き込まれている。エンジニアの1人、小池裕子氏は「これまで経験してきたシステム開発に比べ、RPAは仕事の成果がユーザーのリアクションとしてすぐ分かるのがよいところ」と笑顔を見せる。

RPA開発室の壁には1日単位のタイムテーブルが貼りだされ、当日稼働するロボットの種類と、分刻みの稼働時間がカラフルな帯で示されている。深海氏は「多くの現場は、現状の仕事の進め方を大きく変えずに済むよう『ロボットの作業は夜間にしてもらい、仕上がったものをもとに翌朝から次工程に移りたい』と要望する。ただ、すべての希望には応えきれないため、ロボットが処理する前の工程について時間をずらしてもらうなどの調整もしている」と舞台裏を明かす。

内製化のノウハウをグループ内へ展開

このように同行がロボットの稼働スケジュールを細かく管理しているのは、選択したRPAツールとロボットの運用形態によるところが大きい。

RPAツールは、簡易で安価な「デスクトップ型(RDA)」と、より高性能で相応のコストを要する「サーバー型」に大別できる。同行が採用したRPAは「サーバー型」だが、サーバーで一元管理しながら個別PCでロボットを稼働させるRDA的な運用も併用できる。

このうち、サーバー稼働では同時実行できるロボット数に上限がある。また、個別PCで稼働するロボットの同時実行は基本的に無制限だが、動かすロボットに対応する数のPCが必要になってしまう。

限られた予算の中、少量・多品種のターゲット業務を集めてロボットに置き換えていく戦略の中で、サーバー稼働ロボットと個別PC稼働ロボットを使い分けながら、稼働スケジュールを集中管理することで、ロボット統制の強化とロボット運用の生産性向上を狙っている。

このような運用形態を採用した点について宮路氏は、行内でグループウエア「Notes」を導入した際の経験を踏まえたと説明。詳細を次のように語る。

「Notes導入の際は、行内での周知・利用を推進し、業務部門の目線で各種機能を開発するため、IT部門と業務部門の間に『行内ネットワーク推進室』という組織を設けた。推進室の担当者が各部へのヒアリングを行い、機能を開発するスタイルで着実に行内に浸透させることができた。この経験が今回、RPA推進のチームづくりにも生かされている。」

「一方、実務に通じたユーザー自身がエクセルやアクセス等を使って業務に活用するという『EUC(エンドユーザーコンピューティング)』も目的の一つであったが、そうした運用には課題もあった。特に前任者が残していったエクセルのファイルやアクセスのDBを後任者が引き継ぐ際のメンテナンスでは苦労が絶えなかった。『異動がつきものの銀行において、ユーザー任せのEUCは困難』との教訓から、当行はRPAに関して、専門チームが一元的に統制する方法をあえて選んでいる」

過去の蓄積と、この1年半で得た知見により、同行におけるRPAの活用は「営業店からの本部あて報告の集計・登録」「システム化が見送られていた事務集中部門の情報照会・登録などのルーチンワーク」「システム間の簡易なデータ連携」のおおむね3類型に重点が絞られつつあるという。ロボットの「部品化」と、「ひな形」を充実させたことで開発速度は加速しており、向こう1年では50体以上の追加が見込まれている。

「関連会社へのRPAの展開は第四コンピューターサービス株式会社が中心になって取り組んでおり、すでに第四ジェーシービーカード株式会社では3業務でロボットが稼働しているほか、その他の関連会社でも導入に向けた取組みが行われている。今後、経営統合も視野に入れ、グループ全体へのRPAの浸透も図っていきたい」と宮路氏。地域に根ざす“最古”の銀行は、働く人とロボットが共生する“最新”のワークスタイルに、いっそう磨きをかけていくようだ。

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