この数年で大転換を迫られる企業IT、時系列で分かる「何をいつまでにどうすればよいか」
Windows Server 2008のサポート終了への対応に注目が集まるが、問題はそれだけではない。これから2025年までの数年は企業情報システムの大転換期になる。いつ何がどうなるかを整理した。
この先の数年、企業のIT部門にとっては非常にやりがいのあるイベントがめじろ押しだ。見方によっては事業戦略や企業の将来を支える基盤づくりに貢献する選択も可能だが、半面準備不足の状態では非常に厄介な問題を抱えることになりねないリスクもある。
本稿では、この数年で企業のIT部門に起こるイベントや、それがもたらすリスクとチャンス、準備すべき事柄を網羅的に紹介する。
イベントめじろ押しの数年、対応次第では損をする?
冒頭で述べたとおり、この数年はやりがいのあるイベントが多数控えている。注意が必要なのは、これらのイベントを準備不足で迎えた場合には大きなロスを生む可能性がある点だ。
これからのイベントを見ると、従来、総務部門が扱ってきたような業務端末の更改も情報システム部門が扱ってきた業務アプリケーション環境も混在することが分かるだろう。これらの見直しは、従来個々の部門が都度で対応してきたものだ。
しかし、こんにちのIT環境を設計するには複合的なソリューションによる最適化が欠かせない。例えば、いまやPCの置き換え一つをとっても、セキュリティ対策などを全体として設計する必要がある。仮にVDI(仮想デスクトップインフラ)を導入するならば基盤をどこに置くか、ネットワーク帯域の確保をどうするかも考える必要がある。Office 365を導入するならば、端末管理や労務管理系の業務も包含できるかもしれない。この場合は労務人事系の業務効率化と組み合わせた導入が必要になる。
この点に考慮なく、個別最適で都度のイベントに取り組むと、全体としてはムダや非効率が生まれやすくなる。コストや工数、運用利便性の面でよりよい結果を得るには、先回りしてIT環境改革の先導を切る方がよい。本稿からは数回にわたり、準備のための情報を提供していく。
時系列で見るこれからの数年で起こること、まとめ
まずはここから先数年で起こる変化がどのようなものかを整理しておこう。
Windows 7やOffice 10のサポート終了については、既に何度か紹介している通りだ。影響がある企業が多いこともあり、情報も比較的得やすいだろう。
一方で、JavaアプリケーションやSAP ERPなどの業務アプリケーションについても、リリースサイクルやサポート形態が大きく変わる可能性があるので注視する必要がある。SAP ECC 6.0については、少なくとも2025年まではサポートが確約されているが、それ以降についてはまだ明らかな情報が出ていないのが現状だ。
仮に2025年までにアップグレードを行う場合には、基盤のデータベースアーキテクチャを含め変更点が多くなる可能性があるため、調査だけでも早急に実施しておくべきだろう。
それにしても、なぜこれからの数年の間に大きなIT周りの環境見直しが必要な問題が続くのだろうか。
ベンダー側の思惑とユーザー側の都合
ソフトウェアやサービスプロバイダからすると、売り切り、構築費用や保守メンテナンス提供型のビジネスから転換する思惑は幾つかある。
例えば、ソフトウェアのリリースサイクルを短縮し古いバージョンのサポートを短期間で打ち切る方針に変更することで、サポートに掛かるコストを削減できる。もちろんケアすべきバージョンを限定することで新しい技術を取り入れやすくなることも利点だ。
こうした「ベンダー都合」を、ユーザー側の混乱や負担を増やさずに展開するには、配布ソフトウェアの管理権限をベンダーが掌握できるクラウドサービスであった方が好ましい。アップデートやバグフィックス、あるいはこうしたメンテナンスを意図的に停止しているシステムがどこにあってどう稼働しているかを把握できるからだ。
業務部門のITユーザーにも意識の変化
ベンダー側の都合に振り回されるのは本質的ではない。だが、巨大アプリケーションを独自に構築し、あらゆるセキュリティホールに迅速に対応してバグフィックスを行い続けるだけの人員を各企業が確保するのは不可能に近い。特にあらゆる業務でITツールを利用するような現代的な業務環境では管理対象も膨大になる。
例えば顧客情報基盤などの重要なシステムは社内に「きちんと分かる」人員を置く考えの企業は多い。一方で「<AWS移行事例>バンダイナムコグループの基幹業務クラウド移行はこうして実現した」のように、生産性の高い業務に集中するには、生産性の低い業務はなるべくクラウドサービスを利用したり自動化ツールを利用したりして、自社のリソースを使わない方針を採る企業が増えている。
多くのソフトウェアやサービスが従来と契約方法や商品提供方法を変える背景として最も影響が大きかったのは、クラウドやデータセンターにおけるITシステム運用の方法論が一般化した点にあるだろう。
従量課金が可能なIT基盤が一般化したことで、さまざまなシステムのコストを定量的に評価できるようになった。おおよその比率で配賦してきたコストについて、「使った部門が使った分だけの費用負担を行う」という文化が、情報システム部門よりもむしろユーザー部門の間で一般化しつつある。
全体の運用コストが各利用者の「利用料」単価に直結するようになったことから、IT部門はサービスとしてコスト削減努力を直接的に要求され、常に外部サービスとの価格競争にさらされることになった。
一部は結果としてシャドーITを助長する結果となったが、これをIT部門に取り戻し、ガバナンスを強化するためにも、企業IT部門はより質の高いサービスを低コストで提供する必要がでてきた。これには外部のサービス事業者と同じような品質とスピードが必要であり、場合によってはクラウドサービスとのゲートウェイとして機能することも必要になる。
こうなった場合に、情報システム部門に求められるのは速度と費用、柔軟さが中心となる。ある事業を始めるとして、サービスのプロトタイプ開発もローンチもクラウドサービスで実行した方がよほど早い。
企業ITの本格的なクラウド化の転換点
ユーザーの意識の変化、ITソリューションベンダーの方針転換を受け、企業のIT選定者は何を心得るべきだろうか。
もっとも重要なのは、「システム刷新プロジェクトにコミットできる人的リソースの確保」だ。これには、いまある業務をどこまでそぎ落とせるかが重要になる。 ところが、多くのIT部門では過去に都度の予算でこまごまと構築してきたシステムが個別最適な状態のまま運用されており、生産性の高い業務に人的リソースを割く準備ができていない。
そこで、まずは部門を超えた共通基盤づくりと既存業務をどこまで効率化できるかが大きなテーマになる。このとき考えておきたいのは、IT基盤運用の効率化だけでなく、周辺部門のIT環境を含む最適化をどこまで「突っ込んで」実施できるかという点だ。セクショナリズムが強い組織では、部門の壁を越えた最適化は調整力が問われるため、なるべく上位の意思決定者を巻き込んだ検討が望ましいだろう。
組み合わせと技術の流用、多くの提案に耳を傾けて最適解を
システム更改やクラウド移行を検討する際には、複合的な機能を持つツール類を生かした業務全体のスリム化も検討したい。
例えば過去に紹介した記事「なぜ70超の店舗ネット環境をたった1人で運用できるのか」では全国の拠点(店舗)のネットワーク管理を担当者1人、ゆくゆくは1人以下にまで削減できることを示した。この時の事例では、既にファシリティの1つとしてネットワーク設備を展開、遠隔からの集中管理による一元的な運用を実現している。効率化に加えて、生産性を高める施策にチャレンジしている点にも注目したい。全国共通で展開した基盤を生かして各拠点の日々の活動を共通指標で可視化したり、顧客動線分析を行ったりといった発展的なアイデアも盛り込んだ計画を検討できれば、情報システムの枠組みを超えて事業貢献につながる提案も不可能ではない。
細かくセグメントされた業務ごとの最適化は効率が悪いことが多いが、さまざまなソリューションが周辺領域の課題解決のための機能提供に積極的なことも見逃せない。例えば勤怠管理であれば、古くはタイムカードがあるし、タイムカードを代用するWebアプリケーションもあるが、これを例えばグループウェアのいち機能で代用することも考えられる。他にもデスクワークがメインでVDIのような仕組みを使っているならば、仮想デスクトップの稼働時間で計測することも不可能ではない。総務や人事部門の課題解決も包含できるというわけだ。
このように複数部門が管轄してきた業務を統合し、新しい技術を生かして自動化したり運用を統合したりできれば、この数年で起こるイベントを「ただのサポート終了対応」ではなく、効果的なIT施策を提示するためのチャンスと見ることもできる。幸い、多くのITベンダーやクラウドサービスプロバイダーは、これを商機と見て複合的な提案を行っている。できるだけ多くの提案を見て、技術と発想の組み合わせアイデアを獲得してほしい。
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