2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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「働き方改革」を後押しする「ロボット」という話題性でメディアの注目を集め、さらに本格的な普及期へと移行しつつあるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)。PC上の手作業をソフトウエアで肩代わりするテクノロジーの実態について理解が進んだ現在、RPAの特性を踏まえて、業務の現場で効果的に活用する企業も徐々に増えつつある
こうした中、他社に先駆けて2013年からRPAを調査・研究しているITサービス企業の株式会社日立システムズ(東京都品川区)は、自社でのRPA適用で既に月間3,000時間以上の新しい労働力の創出を実現。また、自社適用だけでなく、顧客企業のRPA導入・運用をサポートする「定型業務自動化支援サービス」においても100社超の実績を誇っている。さる6月4日に都内で開かれた「RPA導入ユーザーが語る業務自動化セミナー」(同社主催)の模様から、豊富な実例を踏まえた「RPA導入成功への道筋」を紹介する。
RPA導入を「自己目的化」させないことが重要
「RPAは本来、業務をよくするために導入するはずだが、入れること自体が目的となってしまうケースも多い。ぜひ導入の目的を再確認してほしい」。RPAの活用を検討する企業の担当者らを前に、日立システムズ スマートソーシング&サービス事業部 RPA・BPO推進プロジェクトの玉井学主任技師はそう呼びかけた。
システム構築などに比べて一見、費用がリーズナブルなことから、「トップダウンでとりあえずRPAを導入したものの、その後の効果的に運用できない」という事態に陥りやすい。プレゼンの中で玉井氏は「RPA導入のメリット」を6つに分類。この中から「RPAに何を求めるのか」という認識を社内で統一しておく必要があるとした。
6つのメリットとは、具体的には
(1) 自動実行でヒューマンエラーを解消できるという「業務品質の向上」
(2)PC上での雑務から解放されることで本来業務に専念できるという「人的資源の有効活用」
(3)人手が回らず放置されていた、本来なすべき業務にロボットを充てるといった「今までできなかったこと」への対応
(4)「人に付いた仕事」を解きほぐし、誰もが分かる形に整理できるという「業務の見える化、属人化対策」
(5)通常期の人員で対処しきれない繁忙期の業務をロボットに代行させ、残業の発生を抑えるという「業務のピークカット」
(6)個人情報など取り扱いに注意を払うデータや、取引記録のような改ざんリスクがあるデータの処理に人を介在させずに済むという「セキュリティ、コンプライアンス」
を指す。ロボット導入に手を挙げた部署で適用可能な業務を探すといった「戦術」レベルの取り組みと並行し、自社が求めるメリットを踏まえた最終的な到達点を設定し、そこに至るまでのステップや社内体制、数値目標などの「戦略」を定めておくことが、一過性に終わらないRPA活用のカギといえそうだ。
ロボット投入で変わる、現場の「仕事」と「職種」
日本におけるRPAは、メガバンクや保険会社といった金融業の間接部門への導入が先鞭をつけた。その後、ユーザーの業種は広がり、併せて勤怠管理のような事業部門の庶務、あるいは点検結果の集計といった生産部門への応用も進んでいる。
もっとも現在、日立システムズ社内、また顧客企業のいずれにおいても、ロボット化の主要なターゲットは間接部門であり、とりわけ「経理・財務」の業務が多いという。付加価値向上に直結した業務へ重点を移す「人的資源の有効活用」、またミスを招きやすい数字のやり取りを自動化し「業務品質の向上」を図りたい各社の狙いが浮き彫りになった形だ。
経理業務での具体的なロボット適用例として、玉井氏は「売掛金の消込処理」「月次決算資料の作成」「連結会計業務」などを列挙。同社とグローウィン・パートナーズ株式会社などのコンサルタント会社の協業により、監査やIRにも配慮した形で経理業務のロボット化・標準化を進めていくサービスを展開していることにも触れた。
ロボット化で大きな効果が得られた例として、同氏は自社の営業事務部門の取り組みについて紹介した。これは従来、外勤の営業担当者が帰社後に行っていた受注作業を見直したもので、見直し当初は営業先から事務処理センターにメールで届くExcelファイルをもとに、センターのスタッフが発注システムに手入力で登録。承認依頼の返信メールも送っていた。
RPAツールの活用などでExcelファイル受信後の作業を自動化した結果、毎月2万件にのぼる登録処理の時間は1件あたり2分短縮。月間670時間相当の人的リソースが創出できたという。
RPAの活用においては「ターゲットとなる作業の担当者が、ロボット化に合わせて働き方をどう見直すか」という問題が常に存在する。この事務処理センターの事例について玉井氏は「受注データを手入力していた担当者は、ロボットの導入後にはそれぞれ営業支援や『ロボット作成』という新たな職種に就いた」と説明。「今回のRPA適用は、それぞれの担当者にとってもキャリアアップの視点から良かったと思う。また、ロボット作成という未来ある新しい仕事を生み出したこともRPA導入の効果だ」と述べ、更に、ドキュメントRPA(AI-OCR)なども適用し、更にRPAの可能性をさらに開拓したいとの意欲を示した。
「全社展開できる仕組み」で「部分最適からスタート」を
この日のセミナーでは、日立システムズが支援している株式会社日立製作所でのRPA導入プロジェクトについて、日立製作所の福士達雄氏(財務統括本部グループ財務戦略本部財務プロセスソリューション部部長)が解説。さらに先進的なRPAユーザーからの情報共有として、30業務で100体以上のロボットが稼働する住友林業情報システム株式会社の成田裕一氏(ICTビジネスサービス部シニアマネージャー)、市東千晴氏が自社の取り組みを紹介した。
住友林業情報システムは2014年にRPAの検討を始めた当初から「自社グループと取引先への導入提案」という新規事業をめざしている。さきの「6つのメリット」にあてはめると、「今までできなかったこと」でロボットを活用するケースに該当する。
実際に現場でロボット導入の提案を行っている市東氏によると、業務内のルーチンワークを人からロボットに移したことで早く・確実に処理できるようになり、引き継ぎ漏れも解消するといった「業務品質の向上」が実現。ロボットの活用によって翌日の準備作業を夜間に自動処理できるほか、1つの業務がより短時間で完了するため、仕事と育児を両立するライフステージで時短勤務を選んでも自己完結できる業務の幅が広がり「人的資源の有効活用」につながっているという。
ロボット化の過程では、全社的に推進する体制づくりと、足下での事例数の上積みのどちらを優先すべきがが問われる局面も出てくる。この点について成田氏は「PoC(概念実証)の議論に時間をかけると実際の業務革新にまで行き着かない。このため、ロボット導入のターゲットとする作業の担当者と1対1で打ち合わせをし、最短1日で実装している」と説明。局所的な「部分最適」からでも、まず導入を優先すべきとの考えを示した。
また、住友林業情報システムにおいては、作業の構成要素となる個々の動作に対応した自動実行のモジュールを準備し、それらの組み合わせ・使い回しで手早くロボットを実装できる仕組みを整備。さらに、それらパーツやロボットの一元的な管理ソリューションも準備中だ。
成田氏は「RPAの効果を高めるには、導入規模を拡大することだ。そのためにはIT部門主導ではなく、ロボットの活用を現場のユーザーに委ねることが近道になる」と述べ、現場での運用を促す狙いから、自由に使っても統制から外れない仕組みを構築していると解説。これからRPA活用を本格化させる企業に対しては「業務内容の変化、ツールの進化は激しい。運用のスケールが大きくなっても見直しや載せ替えが容易な形にしておくことが重要」とアドバイスした。
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