ある大企業から請け負った仕事をしていたらテロリストに間違われた件:491st Lap
まっとうな企業から正規に請け負った仕事をこなしていただけなのにテロリスト扱いされてしまった、という「ちょっと何言ってるのかよく分からない」事案が発生したそうで、話題になっている。
“とある大企業”とは、最近何かと話題を提供することが多いGoogleのこと。この件を記事として取り上げたのは、イギリスの総合紙『The Guardian』だ。
そして不運にもテロリスト扱いされたのは、英国の某市に住むAhmed Rashid氏(仮名)。後で説明するが、とある理由から「仮名」で同紙に対して自分の身に降りかかったことを告発したのだ。“テロリスト扱い”とはいったいどういうことなのか? そしてどんな仕事をしていたらそんな事態になったのか──?
Rashid氏がGoogleから請け負った仕事は、複数のショッピングモール内の店舗を回って、それぞれの店舗が設置したWi-Fiの電波強度の情報を収集するというもの。Googleマップの精度を向上させるプロジェクトの一環で、GPSの届かない屋内でもWi-Fiの電波を基に位置情報を取得するためのものだったという。
Rashid氏は数人のチームで行動し、各メンバーがスマホやPCを片手にショッピングモールの中を歩き始めた。彼らが具体的に行ったのは、店舗の規模にもよるがその店内に数分間とどまって、スマホやPCにインストールされた特殊なアプリでWi-Fi状況を記録していくというもの。そして彼らはなるべく目立たないように行動していたのだという。Googleから正式に受けた仕事なのだから、もっと堂々としていれば良さそうなものなのだが、実はここに大きな問題があったのだ。
Googleからこの仕事を引き受けたときに結んだ契約に「Googleの業務として施設にて調査をしていることを話してはいけない」という条項があったのだ。モールの関係者や、警備員から声をかけられたとしても、それとなくはぐらかしては調査を続けなければならない。実際にRashid氏たちは何度も呼び止められては「何でもないッスよハハハ」と言った感じでやり過ごしていた。
しかし、Rashid氏の名前からピンと来た人もいるかもしれないが、彼はモロッコ出身の先祖を持つアラブ系イギリス人だった。外見はアラブ人そのもので、その不審な行動により声をかけられることが多かったという。白人の同僚はほぼ声をかけられなかったというから、やはりその外見がある種の偏見につながったのは間違いないだろう。
そしてとうとう、2017年9月26日にRashid氏はロンドン郊外のショッピングモールで警備員から呼び止められ、「テロリストなのでは?」という容疑をかけられ、取り調べを受けることになってしまった。さすがに別室に連れて行かれては「これはGoogleの仕事で……」と説明せざるを得ない。疑いが晴れ、放免されたRashid氏はGoogleに報告を入れた。
するとどうだろう。Googleはその日のうちにRashid氏との契約を解除してしまったのだという。同時に4000ポンド(約58万円)が支払われ、Rashid氏はこの件について口外しないという旨の誓約書にサインさせられたのだとか。確かにRashid氏はGoogleの仕事であることを口外してしまったが、そもそもはGoogleが正当な仕事であることを公表できない状況で作業させていたことに問題があるのではないだろうか? モヤモヤが残ったものの、Rashid氏としてはどうしようもなかった。
しかしRashid氏は、ここ数カ月で起こったGoogleの各種問題(AIの軍事利用、社内セクハラなど)を受けて従業員がストライキやデモなどを実行している姿を見て立ち上がった。あくまで偽名ではあるものの『The Guardian』への告発という行動にをとったのだ。
雇い主だったGoogleは、雇用したRashid氏がテロリストとして疑われたのならば、その立場を守るべきではなかったのだろうか。『The Guardian』がGoogleに尋ねたところ、「間違った行動はとっていない」と回答したのだという。またあくまで「業務を隠す必要はないと指示している」とも言っていて、「Rashid氏らが隠密行動する必要はなかった」という見解だという。だったらなぜ契約解除なのか、という疑問は残る。このところ何かと批判が多いGoogle。今回の件はどういう着地点で解決するのだろうか。
上司X: Googleから請け負った仕事をしていたらテロリスト扱いされてしまった、という話だよ。
ブラックピット: うーん。隠密行動がアダとなりましたかね。
上司X: Rashidさんがアラブ系だったから、余計に不信感を増した、という側面もある。
ブラックピット: そういうの難しいですよねえ。テロに直面している国だとどうしても過敏にならざるを得ないでしょうし。
上司X: まあ怪しい動きをしている怪しい人物がいたら、そりゃ施設のセキュリティ担当は声をかけねばならないだろうからな。
ブラックピット: だからそこで正当な理由を言って何が悪いの? と某G社には問いたいですよ! 知らんぷりは良くないでしょう、さすがに。
上司X: いやもうGoogleって明言しているから「某G社」とか言わなくていいから(笑)。
ブラックピット: そういやそうですね。それにしたって即日クビとか、感じ悪すぎますよ。ただでさえ本人はテロリストの烙印を押されてショックでしょうに。もうGoogleの仕事を受けたくない! なんて思っちゃうかもしれませんよ。
上司X: まあ思うだろうなあ。今回、Rashidさんは声を上げたからこういう件が白日の下にさらされたことになるが、実は闇に葬られたままのこういった話はたくさんありそうな気もするよ。アレやコレといい、Googleはちょっとイメージ回復に気を遣わなきゃならないかもしれないなぁ。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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