5歳の子供に負ける? AI画像認識のワナ:分かったつもり? AI画像認識
AIならば何でもできる、取りあえず画像を学習させよう――そう思い込んではいませんか。AI画像認識は魔法のつえでも完全無欠のエキスパートでもありません。今回は、その勘違いが生むリスクについて説明します。
監修:中尾雅俊
パナソニック ソリューションテクノロジー AI・アナリティクス部ソリューション推進課 主事
2017年にNVIDIAとの協業を担当したことを皮切りに、AI・データ分析中心の業務を推進。初期投資や導入リスクが大きい、「人工知能の現場導入で失敗させない」活動としてセミナー講演など多数実施。受講者からは、「AIがよく理解できた」「そんなノウハウを話しても良いの」と心配されるほど。最近の趣味は実用を兼ねたDIYや果樹菜園など。
監修:矢嶋 博
パナソニック ソリューションテクノロジー 産業IoTSI部ソリューション推進課 係長
製造業向け「AI画像認識ソリューション」のSEとして、営業支援やPoC推進を担当。ソフトウェア開発からITインフラ構築まで、これまでの幅広い経験を生かし、AI画像認識システムの提案から導入、AI学習トレーニングまでを手掛けている。趣味の風景や家族写真撮影に加え、学習用画像収集をライフワークにしている。
ディープラーニング技術の登場により、急速に発展するAI画像認識。ただしそれは、「魔法のつえ」でもなければ、完全無欠のエキスパートでもありません。正しく生み育て、適切なシーンに適用しなければ人工の「頭脳」は「何も知らない」「できない」まま生涯を終えてしまいます。本連載では、そうしたAI画像認識を製造現場に適用する上での留意点や手法を12回に分けて解説します。
最初のテーマとして、AI画像認識の導入時に起こりがちなトラブルを踏まえながら、企業が陥りやすいミスジャッジを取り上げます。取り上げるミスジャッジは全部で5つ。それを知ることは、AI画像認識の利活用を考える上での一助になるはずです。
ポイントは「正しく生み育て、適切なシーンに適用すること」
AI画像認識は研究開発の段階を経て、さまざまなシーンでの活用が進んでいます。しかしながら、「過度の期待」や「誤った認識」を持ったまま製造現場への適用を進めると、トラブルが発生し、せっかくのプロジェクトが台無しになることが少なくありません。画像認識の「頭脳(AI)」を正しく生み(設計し)、育て(学習させ)て、適切なシーンに適用(推論)するためには、まずは「AI画像認識の特性と現在地」を知っておくことが何よりも重要です。
結論から先に言えば、製造企業が陥りやすい5つのミスジャッジは次のように整理できます。
よくあるミスジャッジ | |
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ミスジャッジ(1) | AIなら何でもできると思い込む |
ミスジャッジ(2) | AI画像認識で人件費が削減できると思い込む |
ミスジャッジ(3) | 画像データ収集の当てなくAI画像認識の導入を決める |
ミスジャッジ(4) | 頭脳の発育を外部ベンダー任せにする |
ミスジャッジ(5) | のちのシステム化の構想なくAI画像認識の導入を決める |
今回は、このうちの「AIなら何でもできると思い込む」というミスジャッジについて少し具体的に紹介し、残り4つのミスジャッジについては次回以降で詳しく説明します。
ミスジャッジ(1)AIなら何でもできると思い込む
AIを「魔法のつえ」「完全無欠のエキスパート」のように捉えてしまうと、できないことの多さに頭を抱えることになるでしょう。例えば、AI画像認識が話題となって以降、多く方がこう考えるようになりました。
「取りあえず物体の画像を数多く学習させれば、AIがどんな判断もしてくれる──」
ただし実際には、そう簡単な数だけの話ではありません。画像認識のAIは、認識対象物の判別に必要な正しい情報(画像データ)を適切にインプットしない限り、正しく認識できるようにはなりません。
例えば、1本の鉛筆をAIに認識させるために、白い紙の上に置いた鉛筆の画像データばかりを与えていると、赤い紙の上に置いた鉛筆は恐らく認識できません。それは、AIが「鉛筆というモノは、白い背景の上に置かれた細長いモノ」と学習してしまうためです(対象物の特徴ではないのに、たまたま与えた画像の特徴を過度に学習してしまうこの現象を過学習と言います)。
また、右向きに置いた画像ばかり与えてもダメですし、光が当たって影ができているものも与えなければなりません。これは、人の子どもがいろいろな経験を経て、社会で活躍できるようになるのと同じです。そのため、判別の精度を一定の水準に持っていくためには、さまざまな条件で撮影した画像が必要となり、結果、想定をはるかに上回る量の画像を要することもよくあります。
そして、「人が簡単に判別できることが、AIにとって難しいことは多々ある」という点も意識しておく必要があります。
例えば、クリーニング店では、洗濯前に衣類に特別な汚れがないか目視で確認しているでしょう。その際、食べこぼしがあるかもしれません。
人が目視で確認するのなら、5歳の子どもでも、食べこぼしを見て「汚れているね」と教えてくれるでしょう。ところが、AIにとっては、それが「汚れ」か「模様」か、あるいは単なる「影」なのかを判断するのは非常にハードルの高い認識なのです。
ですから、AI画像認識に関して、“小さな子どもでもできること”=“AIなら当然できる”といった先入観や過度の期待があると活用の方向性を見誤ったり、「こんなこともできないのか」と激しく落たんしたりすることになります。
その意味でも、AI画像認識ができること、できないこと、あるいはAIにとって得意なこと、不得意なことを正しく理解しておくことが大切です。
次回は、2つ目のミスジャッジである「AI画像認識で人件費が削減できると思い込む」について説明します。
企業紹介:パナソニック ソリューションテクノロジー
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