2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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デジタルテクノロジーとビジネスを融合させるDX(デジタルトランスフォーメーション)が世界的なトレンドとなる中、調査会社のIDC Japanは2018年8月28日、国内外約2,000社へのアンケート結果を発表。DXで優先する事項(複数回答)として、日本企業では「データの資本化/収益化」が、全体では「製造/サービス開発業務の卓越性」が過半数を占め、それぞれ最多となった。
見逃せないのは、世界全体ではこの2項目に匹敵する関心が「サプライチェーン」や「顧客体験」の改善にも及んだのに対し、それらに対する日本企業の回答は10~15ポイント前後低かった点だ。
同社は日本におけるDXの現状を「オペレーションとの関連性が弱い」と指摘。現場までDXの取り組みが浸透しないまま“掛け声倒れ”に終わる危険を警告している。
企業の全業務を丸ごとデジタル化できるソリューションは、いまだ存在しない。しかし日本においても先進的な企業は、CRM(顧客関係管理)ツールとRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の併用で業務を効率化するなど、現場に根ざしたDXを着実に進めている。
こうしたフロントランナーの実践例が紹介された「第14回RPAクリニック」(株式会社セールスフォース・ドットコム RPA総合プラットフォーム「RPA BANK」共催)の模様を、以下ダイジェストで紹介する。
RPA導入効果の7割を叩き出した「Salesforce連携」の威力・・・荏原製作所の場合
2018年10月23日に都内で開かれた同イベントには、RPA導入企業などから当初予定の倍近い約180人が参加。代表的なCRMツールであるSalesforceとRPAを融合させた業務フロー改革について、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社、株式会社荏原製作所の両社から取り組みが報告された。
このうち、ポンプやゴミ処理施設、半導体製造装置などのメーカーである荏原製作所からは、風水力機械カンパニーの籔内寿樹氏(企画管理技術統括部Executive Director)と、海田直親氏(標準ポンプ事業部営業業務部部長)が登壇。主力製品のポンプで世界シェア首位を目指す一環として「業務の集中集約化」「業務プロセスの標準化」を進めていることが説明された。
籔内氏によると、プロジェクト開始後に社内のキーマンおよそ100人と面談したところ、支店間やスタッフ間で、同じ業務の手順が統一されていない状況が明らかとなった。
これが引き継ぎ漏れを誘発し、社内情報活用の障害になっているとの分析から「Salesforceの一斉導入を通じ『誰に聞いてもすぐ答えられる』ようにすることが、業務効率と顧客満足度を高めていくために不可欠」(同氏)との考えに至ったという。
実際の取り組みについて籔内氏は、全国の拠点から事務処理を集約するのに併せて手順をSalesforceの標準仕様にそろえ、この統一されたプロセスにRPAツール「Blue Prism」を採り入れることで効率化を進めていると解説。
プロジェクト開始から2年足らずで、Salesforceは全国の営業や事務センターの担当者700人をはじめ、集約化した事務部門やコールセンター業務の外部委託先、さらに保守業務を担う協力会社も含めればトータルで1,500人のユーザーに導入され、目下運用の定着を図っているところだとした。
同社におけるRPA導入プロジェクトはSalesforce導入とほぼ同時に始まり、わずか半年で本格稼働まで持ち込む“短期戦”で進められた。担当した海田氏によると「例のない計画でベンダーにも懸念を示されたが、現場へのヒアリングを重ね、必死の思いで実現した」という。
その努力が実り、同社のロボット化は現在、計16業務で正社員10人分にあたる月間1,500時間相当の作業を自動実行するまでに拡大。
Salesforceと連携させた3業務のロボットは特に大きな成果を上げており、全体の7割(同1,000時間強)の効果を創出している。
「RPA×Salesforce」の例として海田氏は「売上情報登録」への応用を解説した。これは、営業職が作成した紙帳票への手書きや押印で売上報告の決裁を取り、その結果を事務スタッフが基幹システムに入力するという従来の手順を、Salesforce上での入力・承認とRPAによる自動データ連携に移行したもの。複数ツールを組み合わせて一連の業務をペーパーレス化したことで、大幅な工数削減がもたらされた。
この例が顕著に示すように、Salesforceの活用は業務の情報をデジタル化する点で、RPA活用に向けた環境整備という意義を併せ持っている。一方RPAは、Salesforce単体で対応困難なデータ連携を担い、CRMで効率化した業務を後工程につなぐ役割を果たしている。
DXを推進する上で切っても切れない関係となりつつある両者の今後の活用について海田氏は「Web受注やマーケティングオートメーション、データに基づいたワークスタイル変革など、Salesforceのさらなる活用によってロボットを活用しやすい環境の拡大が可能」と指摘。「早期に現状プラス10人となる20人分のロボット化を実現し、一層の生産性向上を図りたい」と語った。
月700時間の効率化をもたらしたKPI「自動化率85%」とは・・・So-netカスタマーサポートの場合
この日の事例報告では、ソニーネットワークコミュニケーションズの北迫勇樹氏(カスタマーコミュニケ−ションズ部門 業務設計部 運用課 課長)も登壇。インターネットプロバイダー「So-net」の顧客サポートを担うバックオフィスの生産性向上策として導入した「RPA×Salesforce」のソリューションについて解説した。
So-netユーザーの契約内容変更などを基幹システムに反映している北迫氏の部署では、「サービス」「販路」「手続き内容」の組み合わせで470通りもの業務が存在。
このうち件数ベースの98%、稼働時間ベースの70%を、システム化の費用に見合わない“小粒”な業務が占めている。
さらに「電話」「メール」「スマホアプリ」といった顧客接点ごとに対応する社内システムが異なり、わずかな変更が多方面に影響する業務構造となっていたことから、思い切った施策を打ちづらい状況が続いてきたという。
このため同社は昨年6月以降「小ロット業務の効率化」を目的とするRPAツール・Blue Prismの導入と、「システム構成の簡素化」を狙いとしたSalesforceへの集中化に相次いで着手。
現在Blue Prism をSalesforceと連携させる形で36種類の作業に投入している。ロボットが担う事務は既に月間4,000件に達し、同700時間の工数削減効果が現れている。
Salesforceを用いる業務フローのブラッシュアップとRPAの導入を同時に行ったことで、双方にまたがる業務も一気に改善できたという。
北迫氏は、従来コールセンターからバックオフィスの入力担当者に自由記入のテキストで送られていたシステムへの登録依頼をチェックリストからの選択式に変更し、登録をRPAで全自動化した例を紹介。「文章を介した伝達のぶれが解消し、効率化だけでなく業務品質の安定にもつながった」と述べた。
さらに同社のRPA導入プロジェクトで特徴的なのは、ロボット投入の判断や運用管理に独自の指標「自動化率」を用いている点だ。これは「ロボットに実行させた作業の総件数に占める、正しく処理を完了できた割合」のことで、実際にはロボットを確実に起動させ、かつ接続先サイトの改修などに伴うアクセスエラーを回避することが高い数値につながる。
北迫氏らは「自動化率85%の達成」を目標に全ロボットを毎週チェックし、覚知した不具合はその都度修正。低迷が続くプロセスは再構築も進めてきた。
この結果、自動化率の全体平均は2018年1月の74.4%から4月82.7%、9月86.3%と、順調に改善を続けている。
RPAの導入効果算定で多くの企業が用いる「ロボット化可能な工数の割合」などとは別の評価軸を用いる理由について会場から問われた北迫氏は「ロボットの正常な稼働で作業そのものの工数を減らすだけでなく、エラー対応に人間が割く工数の削減も重視したため」と回答。
今後の展開については「処理に時間を要する作業でロボットの夜間稼働を拡大していく。これからの新規業務はすべてロボット活用を前提とする予定であり、蓄積していく成果の流用で開発期間が短縮できるよう、ロボットの『部品化』を進めていきたい」と述べた。
CRMユーザーをアシストするAI「Salesforce Einstein」の可能性
顧客接点で得られる情報をデジタルデータ化し、早く・正確な処理が可能となった企業は、これらデータに分析や予測を加えて顧客体験の向上に役立てるという、より本業に即したDXに取り組めるようになる。
ここで分析・予測に携わる人間をAI(人工知能)でアシストするソリューションとして、セミナーではセールスフォース・ドットコムの大森浩生氏(マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアマネージャー)が、Salesforceの追加機能「Salesforce Einstein」を紹介。
「確度の高い見込み客から順に接触したい営業、解決率の高い回答を選ぶサポート、広告チャネルごとの閲覧率を見定めたいマーケティングなど、ビジネスのさまざまなシーンで使える予測機能がそろってきた」とアピールした。
大森氏はまた、スマートスピーカーとチャットボットを連動させるソリューション「Einstein Voice Bots」について、実演も交えて解説。ユーザー企業の社内向け・顧客向けの双方で今後Salesforceが投入していくテクノロジーの方向性を明らかにした。
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