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企業のバリューイノベーションを、体系的に産み出すために――ムーギー・キム氏が解説する「ブルー・オーシャン・シフト」

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公益財団法人日本生産性本部が2018年12月19日に発表した「労働生産性の国際比較 2018」によると、日本の時間あたり労働生産性は、OECD加盟36カ国中20位にあたる47.5ドル(4,733円)。主要先進7カ国(G7)中で比較すると、48年連続で最下位を記録し続けている。


出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2018年版」

世界における経済的地位と見合った水準まで達したことが一度もない日本の労働生産性。その改善は、言うまでもなく「より少ない労働時間で」「より多くの付加価値を出す」ことによってもたらされる。

労働時間短縮の切り札として、定型業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の普及が進む一方、利益率向上のためには、過当競争に陥らない事業戦略の構築も欠かせない。

既存市場での熾烈な戦いから脱し、新たな顧客層を切り開き、新たな価値の組み合わせを提供する要諦を説いた世界的ベストセラー「ブルー・オーシャン戦略」(チャンキムINSEAD教授と、レネモボルニュ教授による共著)の続編として、世界中でブルーオーシャン戦略を実際に実行した様々な企業の豊富な実例をもとにした「ブルー・オーシャン・シフト」が昨年、日本でも刊行。同書の巻末特別付録で国内のブルーオーシャン戦略事例を執筆したのが、ブルーオーシャングローバルネットワークのメンバーでもあり、ビジネスメディアでも多数の連載を持つ投資家・著述家のムーギー・キム氏だ。

本稿では、ブルーオーシャン戦略の理論と実践について同氏が最新の知見を披露した「RPA DIGITAL WORLD 2018〜Digital Robot CAMP in お台場」(2018年11月22日開催)でのセッションの模様をダイジェストで紹介する。

■記事内目次

1. 戦略の実行に求められるのは「人間らしさ」への配慮である

2. ブルーオーシャン戦略は「一度実行して終わり」ではない

3. 企業イノベーションを促進する、「効果が証明された体系的なステップ」とは


改革に求められるのは「人間らしさ」である

「ブルー・オーシャン戦略」は44カ国語で累計360万部以上を売り上げる世界的ベストセラーとなった。その後13年を経て、昨年日本でも上梓された新著「ブルー・オーシャン・シフト」は、「ブルー・オーシャン戦略」の「理論」を採り入れ実践した企業について検証し、その成功事例と失敗事例からの教訓をまとめ、成功率を高める具体的ステップを紹介した「実践」の書と位置づけられている。

この日本語版で、INSEAD在学中に、チャン・キム教授に師事したムーギー・キム氏(以下キム氏)は、原著を補うかたちで日本企業3社のケース執筆を担当。国内でのブルーオーシャン戦略の普及に努めている。

セッション冒頭でキム氏は、同書から新たに加わったポイントを「ブルーオーシャン戦略の実行には、戦略論と同じくらい『人間性の尊重を組み入れる』のが重要だということ」と説明。過去にブルーオーシャン戦略で事業改革を試みた企業が、しばしば「社内政治による反対」や、「巻き込まれていない人々からの反発」に遭ったことを踏まえ、人々の心情への配慮について多くの記述が割かれていると解説した。

「個人が尊敬され、受け入れられ、感謝されていると思うことが、戦略を実行する原動力となる。それが戦略を絵で終わらせず、実行に移すためのキーポイントだ」(キム氏)

日本企業がブルーオーシャン戦略を導入する際、キム氏は特に「コンセンサス重視」の文化に留意すべきと指摘。多くの日本人が周囲から必要とされることを強く望む一方、妬みの感情を抱きやすいと説く脳科学者の見解も紹介しながら「戦略立案のあらゆるプロセスで、反対派や、現場で戦略を実行する人も交え、戦略立案チームと実行チームを分けずに、重要なキーパーソンを全て巻き込み一緒に行うべきだ」と強調した。

同氏はさらに、日本企業は今後「戦略上の課題を上から教えるのではなく、従業員自ら発見できるようにすることだ」とも発言。それらの理由として、東アジアに多い年功序列・上意下達型の組織が従業員の仕事への熱意を大きく削いでいること、そして若手の「ミレニアル世代」が少子化時代における自身の希少価値を自覚しており、ITリテラシーでは年長者に勝っており、「上から昔ながらのやりかたを押し付けられたくない」と思っているため、体系的なツールを用いて、「自己発見を助けるアプローチが有効だ」と指摘した。

コンセンサスを重視する日本企業が成長戦略を描く上で重要なポイント

  • 戦略を立てる人と実行する人が一緒になること
  • 問題点や解決策を上から押し付けるのではなく、効果が証明されている体系的なツールを用いて、従業員自ら発見できるようにすること

ブルーオーシャン戦略は「一度実行して終わり」ではない

この十余年で「ブルーオーシャン/レッドオーシャン」という分類が読者以外にまで知られるようになった結果、ブルーオーシャン戦略には多くの誤解も生じているという。セッションでキム氏はそれらを列挙し、正確な理解を促した。

たとえば、ブルーオーシャン戦略に対しては「忠実に守れば企業間競争から永久に解放されることをうたう理論」との誤解が一部であり、これを前提に「実際には、ブルーオーシャンの成功例として挙げられたビジネスにも競合が現れている」と批判が寄せられるという。

この点についてキム氏は「イノベーションから時間が経てば、追従者が出てくるのは当たり前だ」と指摘。ブルーオーシャンは一度切り開けば、魅力的であればあるほど競合が参入してくるのだから、新たな顧客層を取り組み、提供価値の組み合わせを取り込めるよう「境界線を引き直し続けること」こそがブルーオーシャン戦略を実践するうえで重要だと再確認した。

ブルーオーシャンを探り当てる「体系的なツール」とは

ブルーオーシャン戦略の実践を説く「ブルー・オーシャン・シフト」は、ブルーオーシャン戦略を成功裏に実行するための、5段階の具体的なステップを紹介している。キム氏はこれらのステップごとの体系的なツールを紹介しながら、既存の顧客層に同じ価値軸を提供しレッドオーシャン化するのではなく、非顧客層を取り込むために、新たな価値の組み合わせを提供するための体系的なプロセスを論じた。

提供価値の組み合わせの検討という意味では、自社と競合企業が顧客に提供している価値をマッピングして比較した、「戦略キャンバス」

また、既存顧客のペインポイントを整理する「買い手の効用マップ」

現在自社の顧客でない人が抱く不満・拒絶・無関心について考察する「非顧客分析」

そして、既存の産業や商品カテゴリー、提供する機能の範囲といった「想像上の境界線」を引き直す「シックス・パス分析」のコンセプトを解説し、具体的事例として同氏は、経済ニュースのウェブメディア「NewsPicks」を例に説明。

戦略キャンバスに関しては、事実の速報など既存メディアが圧倒的に強い分野をNewsPicksが避け、逆に専門家による解説コメントを受け付けるなど既存メディアとは異なる価値の組み合わせを提供していることを図表から確認し「あらゆる面で競合に勝とうとせず、実際に顧客が重視している価値の提供のため、実は顧客が重視していない価値の提供にかけていたコストを見直してメリハリをつけることが重要になる」とアドバイスした。

また非顧客分析に関しては、NewsPicksが、ネットの書き込みは荒れるという「不満」に対して「実名制」や「特定ユーザーの非表示機能」を、定期購読料が高いという「拒絶」に対して「学割プラン」を、経済ニュースにまだ「無関心」な学生に対して「就活特集」を、それぞれ展開していると解説。既存顧客ではなく、非顧客層を取り込むアプローチの具体例を解説した。

時折質問を投げかけながらセッション会場を縦横に動き、ブルーオーシャン・シフトの本質を熱く、そして間断なく説いたキム氏。詰めかけた約120人の聴講者を触発する圧倒的なエネルギーは、この場をきっかけとする新たな価値の誕生を大いに予感させた。

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