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1,600km離れた沖縄と東京。拠点間でのRPA同時運用を実現した全保連のアプローチ

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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RPA BANK

定型的な事務処理をソフトウエアで代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の普及は、国内では東京などの大都市圏で先行した。これは事業所数もさることながら、新たなテクノロジーの導入を支援する体制が、当初は全国を十分カバーできていなかったことも大きな理由だ。

47都道府県の全てで有効求人倍率が1倍を超えて久しい現在、希少な労働力を補完できるツールの活用は全国共通の課題といえる。こうしたなか、家賃保証会社の全保連株式会社は、およそ1,600km離れた沖縄県那覇市と東京・新宿副都心のオフィスでほぼ同時にRPA導入に着手。わずか1年足らずで自社社員によるロボットの内製を軌道に乗せ、着実に業務改善を進めている。その定着の背景に何があったのか、担当者らを取材した。

■記事内目次

  • 社内チームで約30業務をロボット化・3人月相当の余力創出へ
  • 拠点間での管理を実現する2つのルールを徹底
  • RPA導入を阻む「ITリテラシーのばらつき」に対応した教育が肝


全保連株式会社 オペレーション企画部副部長 鑓水正人氏

社内チームで約30業務をロボット化・3人月相当の余力創出へ

賃貸マンションなどの家賃滞納が生じた際に相当額をオーナーに支払い、借主への督促を代行する家賃保証事業で大手の一角を占める同社。本店所在地の那覇には経理や人事部門が、東京には経営部門などがある2本社制で、契約事務などを処理する「カスタマーセンター」も沖縄に置かれている。

「全国18の営業拠点では従来、事務手続きをそれぞれ独自の手順で行っていたことから、品質向上を目的にカスタマーセンターへの集約を進め、集中する事務処理については汎用化できる業務はシステム化することで対応してきました。ところが、システム化の限界もあり、さらなる筋肉質な組織を目指し、新たな効率化の手法を探っていました」。

RPA導入の経緯をこう語るのは、全保連の東京本社で業務改革を担当する鑓水正人氏(オペレーション企画部副部長)だ。

大規模な開発案件を優先せざるを得ない社内IT部門に頼らず、より“小粒”な業務を現場レベルで改善できるツールを求めていた同社は2018年3月、RPAのPoC(概念実証)に着手。

日本語環境に最適化され、想定される用途であるWebからの情報取得やデータ転記などを最も容易にロボット化できると判断したRPAツール「WinActor」の導入を決めた。

社内では現在、コンビニエンスストア経由で収納した保証料金の入金確認作業など19の業務でロボットが稼働中。さらに、取引先ごとに異なる様式の請求書データから共通フォームへの転記や、手作業で登録後の件数確認などを含む27業務にまで導入を増やす計画で、予定通りに進めば月間414時間、約3人月のリソースがロボットで創出される見通しだ。


「コンビニ収納結果の取り込み」業務を RPA化

拠点間での管理を実現する2つのルールを徹底

沖縄と東京の両本社で現在、ほぼ同数ずつロボットを稼働させている同社は、双方の事務スタッフを中心とする計7人がチームを組み、ロボットの新規作成や運用を担っている。

沖縄側のRPA担当者の1人、森井桃子氏(カスタマーセンター主任)は「当社には両本社間を結ぶテレビ会議の設備があり、RPAチームも定期的に情報交換を行っています。双方でつくられたロボットは全て共有フォルダ上で管理しているので、お互いに参考になる部分はどんどん真似をしつつ『負けないように』と励みにもしています」と笑う。

ロボットの導入検討から実装、運用・保守までのプロセスに関しては、両本社で共通の大まかなルールが設けられている。特に「ロボットとその作成履歴をローカルではなく共有環境で管理すること」そして「ロボット化した業務手順を社員個人ではなく導入部署単位で管理すること」を徹底しており、統制から外れたロボットの出現を防いでいるという。

【ロボット運用管理ルール】

  • ロボットとその作成履歴をローカルではなく共有環境で管理
  • ロボット化した業務手順を社員個人ではなく導入部署単位で管理

とはいえ、導入当初から全てが順調だったわけではない。鑓水氏によると、導入効果を出すのを急ぐあまり、まだRPAに対する社内の理解が不十分だった段階で、ある作業の工程の9割を自動化し、ロボットを「効率化」のツールとしてアピール。これが逆効果を招いてしまったのだ。

「『では私たちは要らなくなるのか』と、現場から警戒されてしまった」(鑓水氏)。結果として、作業負担を軽減するツールのはずが、メリットを受けるはずの社員からもあえて無視するような雰囲気まで漂いだしたという。

以来、鑓水氏は「効率化」という言葉を封印し、ロボット化の目的についての説明を「現場が主役となる生産性向上」と改めた。さらに「人間はロボットを使いこなす立場。仕事を奪われたりはしない」「一連の作業から、まず半分程度を単純なロボットに任せるつもりで」と訴え、寄せられる疑問との“キャッチボール”を繰り返したという。

やや遠回りはしたものの、現在ではRPAについての理解も浸透し、ロボット化の要望が相次いでいるという。これは、ロボット化のメリットを社員が実感したことも一因のようだ。

森井氏は「たとえば当社では、前日までの実績を集計して翌日の始業までにデータをそろえておく作業があり、従来は基幹システムへのアクセス集中を避けるために輪番で早朝出社していました。現在、この作業がWinActorとWindowsの標準機能『タスクスケジューラ』の組み合わせで夜間の自動処理に移行した結果、早出の必要はなくなりました」と語る。

RPA導入を阻む「ITリテラシーのばらつき」に対応した教育が肝

ツール選定段階で、日常的なPC操作の延長で取り組めるユーザーインターフェースを評価してWinActorの採用を決めた同社だが、それでも導入当初は自社運用への技術的な不安がぬぐえなかったという。

「ITリテラシーという点で、PCに苦手意識こそなくても『WordやExcelを少しずつ、マクロはよく分からない』という人は相当数を占めるでしょう。当社の平均もその程度です」と語る鑓水氏は「WinActorがどれだけ直感的に使えるといっても、本当に実地で問題なく操作できるのか、また操作はできても活用が広がらないのではないかと、最初は相当不安がありました」と振り返る。

WinActorを取り扱う多くのベンダーの中から、全保連がパートナーに選んだのは、同ツールの研修プログラムも企画運営するヒューマンリソシア株式会社だった。実際に同社から受けたRPA導入支援について鑓水氏は「WinActorの使い方に関する丸1日の講習を、東京だけでなく那覇の会場でも受講できたのは非常に助かりました」と評価する。

初回の講習の後は、ロボットを試作してみての疑問点を講師に相談する週1回・2時間の講習を、東京と沖縄を結んだテレビ会議で2カ月続けるという短期集中型のカリキュラムを設定。これにより、早い段階で実装と運用を“自走”できるレベルまで達することができたという。担当者の努力を支える的確なサポートが実り、急ピッチでのRPAの戦力化を成功させた形だ。

全保連の東京本社で行った今回の取材の終わりには、今後の展開についても尋ねた。この日も沖縄からオンラインで参加した森井氏は「こちらの現場で今もネックとなっているのは、やはり紙文書の入力です」とコメント。スキャン画像からOCR(光学文字認識)経由でRPAの自動処理につなげたいとのリクエストを寄せた。

これを聞き「保管スペースや個人情報保護の面からも、入力待ちの紙文書をオフィスに置くのは避けたいのが本音」と応じた鑓水氏は「AI(人工知能)を応用したOCRの精度向上は目覚ましく、後工程で待っているRPAとの組み合わせをこれから検討していくことになるでしょう」と補足。

さらに「管理ツールの導入や開発運用チームの専任化など、ロボットの運用体制を強化する段階に入ったようにも感じます。もっと現場が軽く・正確に回るための手立てを考えていきたいですね」と、次なるデジタライゼーションのステージを見据えていた。

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