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「2-6-2の法則」と言われても聞いたことがない、と回答する方が多いかもしれない。
別名、「働きアリの法則」とも呼ばれるもので、進化生物学を専門とする北海道大学の長谷川英祐氏が、働きアリの研究をするなかで見出した法則である。働きアリの集団の構成のなかで、「実績・生産性が高く積極性に優れた優秀なグループが2割」「上位にも下位にも属さない平均的なグループが6割」「実績・生産性が低く積極的に行動しないグループが2割」――と、自然に2対6対2という割合になるという法則のことである。この法則はビジネスシーンでも用いられ、「組織は優秀な2割の人材で動かされている」という意味合いで論じられることもある。
ところが、この法則の定義は誤りであり、新たな定義のもとでRPAが組織を活性化させるかもしれないーーと語るのが、2018年3月からRPAを導入したSBペイメントサービス株式会社(旧 ソフトバンク・ペイメント・サービス株式会社) 代表取締役副社長 兼COO 兼CISOの堀田智宣氏である。
同社はソフトバンクグループのなかで決済事業を担っており、業務改革の一環としてRPAを導入。その実践のなかで、RPAが組織の活性化に繋がる可能性をみたという。
本記事では2018年11月14日、BizteX株式会社により開催された「BizteX X-CONFERENCE 〜テクノロジーが変える、経営とワークスタイルの未来」でのセッション、「ソフトバンクグループのCOOが語る!RPAを前提にしたとスピーディな経営・組織づくり」をレポート。講演内で語られた、クラウドRPA「BizteX cobit」の活用により実現した業務効率化の事例と、組織活性化へのヒントを取り上げる。
■記事内目次
- 1. RPAツールの選定にあたり重視した3つのポイント
- 2. RPAをきっかけに生まれる現場の知恵と自信__人事部、法務部の活用事例
- 3. RPAで “優秀な2割”の割合が広がり、組織が活性化される
RPAツールの選定にあたり重視した3つのポイント
SBペイメントサービス社は、ソフトバンク株式会社100%出資によって2004年に設立。グループ企業が関わる決済業務を束ねて処理をすることでスタートし、現在は決済代行企業としてグループ外にも展開。コンビニ決済やクレジットカードなど、さまざまな決済処理サービスを提供している。
毎年25%以上という好調な成長スピードである一方、決済に関連した事業であるがゆえの苦難があるという。それが、常に更新されていく決済テクノロジーへの対応だ。
「システムは金融機関ごとに異なりますが、そのすべてに対応するよう決済システムを実装しなければなりません。設立から15年のなかで、それらのさまざまな決済テクノロジーに対応させようとした結果、社内のシステムも乱立。各システム間をつなぎあわせるため、手作業で行わなければならない作業が膨大になってしまいました」と、発生していた課題について堀田氏は語る。
そのため、システムを全面的にリニューアルするプロジェクトを開始すると同時に、業務改革の一環として2018年よりRPAを導入。発生している手作業について自動化を図った。
RPA導入というミッションにあたり、さまざまなRPAツールのトライアルを行なったと語るのは、システム本部 本部長の宝本卓氏である。RPAツールの選定にあたり、同社が重視したポイントは以下の3つだ。
- Excelを使う業務が多いため、Excelに強いツールであること。
- 誰が何のために使っているかという可視化ができ、管理が容易であること。
- IT技術者でなくとも、現場担当者自らロボットを作成できること。
上記に加え、コスト面などとの予算の兼ね合いから同社が選定したRPAのひとつに「BizteX cobit」があったという。
特に評価しているポイントとして宝本氏は、「Excel使用を前提に開発されているので、マウスで設定を選ぶだけの容易な操作性」「クラウドで動くため、ロボットの動作を可視化した一元管理が可能」「ブラウザ上で操作するわかりやすいUIのため、現場担当者自ら作成できる」という上記の選定基準に対応する3つを挙げた。
RPAをきっかけに生まれる現場の知恵と自信__人事部、法務部の活用事例
同社はまず、バックオフィス業務である人事部や法務部、財務経理部、品質管理部などにRPAを導入。すると「今までやっていた作業時間が短縮された」「他の業務に力を注げるようになった」と多くの喜びの声が届くようになったという。
これらの現場担当者からの「喜びの声」は、BizteX cobitを導入した人事部と法務部の担当者のビデオメッセージで紹介された。
人事部で自動化の対象となった業務は、メールの送信対応だ。人事部では、毎年の採用業務で計6,000通ものメールを送信しなければいけなかった。それらのメール送信には1通あたり1分ほどかかっていたが、その作業をすべて自動化。合計6,000分(100時間)もの短縮に繋がった。
実際にロボットを作成したと語る現場担当者は、「ブラウザから操作するだけ。プログラミングができなくとも、直感的で使いやすい」と笑顔で語った。
続いて紹介されたのが、法務部の事例だ。同部では、担当者が毎朝システムを立上げ、契約データを開き、CSVデータを引用し突合させるまでの一連の作業をすべて手作業で行っていた。これらの作業は一つひとつ時間がかかる上に単純作業であるため、毎朝のモチベーションも上がりにくく、かつ、間違いがあってはいけないというプレッシャーがあったという。これらの一連の作業を、すべてBizteX cobitで自動化。現在では、毎朝10時に自動的にロボットが業務を完了させるという。
現場担当者は、「当たり前と思っていた作業がなくなったのはとても嬉しい。緊張感を必要とする作業ということもあり、自動化するだけでなく心の負担やストレスもなくしてくれた」とにこやかに語った。
これらの“生の声”を踏まえ堀田氏は、BizteX cobitを導入したメリットとして「担当者自身に、『自分で解決できる』という自信がついたことです」と語る。加えて、「誰もが『もっと便利にしたい』と思っているでしょうが、自分でできない場合、そのまま諦めてしまうことが多いものです。自身でロボットを作成し『自分でもできる』と成功体験が生まれたことが、非常に大きなメリットでした」と業務面だけでなく、メンタル面の効果があるとした。
実際に、宝本氏も「今まで『データで欲しい資料があっても、クライアントからは紙でしか提供されない』と諦めていた担当者が、BizteX cobitで処理するためにはデータが必要なことから、クライアントに自ら『RPAの時代にいつまで紙なんですか』と自信を持って言うようになりました」と、業務へ取り組む姿勢にも変化があったと指摘する。
合わせて、RPAの導入に際し、成功だけでなく失敗もあったと宝本氏は語る。「機械がやるから作業に間違いはないと思い込んで、作業結果の確認を行いませんでした。ところが、あとから確認すると、作業内容そのものは確かにミスがないものの、そもそもロボットが参照すべきデータとは違うデータを参照していた、ということがありました」
この事象を調査すると、そもそものデータの参照設定が間違っていたことが判明したという。「『機械も間違えることがある』ということを前提に、そもそものロボット作成を間違えないようにすることが大事だと教えられました」と同氏は笑う。
RPAで “優秀な2割”の割合が広がり、組織が活性化される
このように、同社はRPAから多くのメリットがもたらされたと語ったが、堀田氏は講演の最後に、RPAを導入する最大のメリットを「組織の活性化と組織文化を変えることができることだ」と説いた。
「ビジネスでも用いられる法則に『2-6-2の法則』というものがあります。この法則に基づいて、よく『企業は優秀な2割の人で回っている』と言われますが、私はそれは間違いだと思います。人材全体の割合が「優秀」「平均」「消極的」と三分されるのではなく、どの人にも優秀なところが2割あり、普通の領域が6割、ダメな部分が2割あるものです。
大事なのは、その人が持つ“優秀な2割”の割合を広げていくことです。RPAは、人が持つ“6割の普通”の領域をもっと楽しいものに変えていく可能性があります。そうすれば、必然的に“優秀な2割”の割合も広がっていくことでしょう。」
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