AIが育たない、実用化できない――その致命的な理由:分かったつもり? AI画像認識(2/2 ページ)
AIは誰が育てるの?―−それは導入したあなた自身です。その理由は? さらに、AI画像認識の精度ばかりを気にして、見落としてしまうある重要な事項についてお話します。
ミスジャッジ(5)のちのシステム化の構想なくAI画像認識の導入を決める
AI画像認識は、システムそのものではなく、システムを構成する一要素です。ですから、AI画像認識を「どのシステムにおいて、どういう目的のもとで、どう組み込むか」を最初の段階で計画しておくことが重要です。この計画が明確でないと、せっかく画像認識を完全に行えるようになったとしても、システム導入に至らず徒労になってしまいます。
「画像データ収集の当てなくAI画像認識の導入を決める」というミスジャッジに関連して重要性を述べた「画像の撮影」も、しっかりとした計画を立てるべき項目の一つです。AIに与える画像が適切に撮影できなければシステムとして成立しませんので、プロジェクトの初期段階であっても、概略構想はある程度練っておくべきでしょう。
また、認識結果を何に利用するのかという目的も明確にし、それを、どのように実現するかまでの構想がなければ、有効なシステムに仕上げるのは難しいと言わざるをえません。これは、画像認識後の工程となる部分です。
AIが将棋のプロ棋士を破り、市場で注目を浴びて以降、「AI導入が企業の存続を左右する」との論調も増えてきました。その影響もあってか、AIの処理部分(本稿のテーマで言えば画像認識)だけが過剰に注目される傾向が強まっています。
確かに、AI画像認識の処理は、システムを実現するうえで重要な要素です。ただし、この部分にばかり目がいってしまいシステム作りに失敗するケースを目にします。
例えば、製品出荷の不良品に対する目視確認をAIで自動化する場合、ユーザー企業は、「キズをAIで認識できるかどうか」ばかりを気に掛け、ベンターに対して画像認識の可否評価を依頼します。
初期段階の簡単な評価であれば、ベンダー側も無償で行ってくれるかもしれませんが、現場で撮影した画像の評価までを実施させようとすると、かなりの出費を覚悟しなければなりません。当然ですが、この費用は、「画像認識は困難」という残念な結果が出た場合でも、戻ってくることはありません。
このとき、幸いにも当初目的としていた画像認識が行えることが判明したとしても、その先のアプリケーション開発やメカ装置の導入なども含めて、システム化の行方にはさまざまなハードルが待ち受けています。
さすがに、こうしたシステムの全体構想をユーザー企業だけで行うのは困難でしょうから、何を行いたいかの要件定義や、どの範囲までの認識を、どう実現するかの全体仕様設計の作業は、外部のベンダーに相談するのが適切と言えます。
ちなみに、画像認識を行うベンダーの中には、システム化の全体計画や、AIの発育を含めた相談に対応してくれる企業もありますが、一方で、画像認識部分の技術だけを提供しているところもあります。ですから、ユーザー企業自身が持つ技術も加味しながら、適切なベンターを選択することが望まれます。
AIを活用した優れたシステムを作り上げるには、全体構想段階で費用をかけてでも、システム化のロードマップを明確にしておくべきです。そして、ベンダーとユーザー企業(とりわけ、業務の現場)が可能な限り情報を共有し、互いにアイデアを出し合って協力し、「構想を練る」「試してみる」「ダメであれば改良を繰り返す」という姿勢が強く求められるのです。
AI画像認識は、ディープラーニングの特性上、ベンダー側も「これを行えばこうなる」と見積もるのが非常に困難です。ですから、AI画像認識の仕組みについては、ユーザー企業とベンダーが一体となって「価値あるシステムを生み出し、育てる」という発想が、従来のシステム以上に大きな意味を持つのです。
以上、4回に分けてAI画像認識の導入を検討する製造企業が陥りやすいミスジャッジについて紹介しました。次回以降は、AI画像認識の基礎的な理解を深めていただきながら、その「限界」と「真実」に迫ります。
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