ROIは560%、事務職20人減でも残業ゼロに――昭和リースのRPA導入、現場では何が起きていた?
RPAで「ROI 560%」を実現した昭和リース。バックオフィスの人員を減らしながら、残業もゼロにした同社がBlue Prismのイベントで講演。完全に内製しているプロジェクトの裏側と成功のポイントを語った。
システム導入にROI(投資対効果)の議論は欠かせないが、効果をうまく数値化できずに悩むケースもあるのではないか。最近、注目を集めるRPAは効果を「削減時間」で表す場合が多いが、具体的な金額ベースで計算し、「560%の費用対効果を出した」と公言した企業がある。
総合リース業を営む昭和リースは、バックオフィスの効率化を目指し、年間約2万時間分の作業をRPAに代替させた。ROIにして560%という成果を出しただけでなく、バックオフィスから約20人を営業に異動させた上で、定時退社を実現している。
さらに同社は、4人の従業員でRPAの開発と運用を内製化している。RPAでよくある「開発が難しく、教育コストがかかる」「エラーが発生してRPAが止まる」などの課題もクリアしているという。どのように、導入プロジェクトを進めたのか。
バックオフィスを縮小するため、「事務職」そのものを廃止
昭和リースが、RPAの導入に着手したのは2017年のこと。「リース会社である当社は営業の強化が重要な課題。RPAはその1つの手段だ」と同社 オペレーション企画管理部 部長の藤本裕哉氏は述べる。
営業力強化のため、まずバックオフィス業務専門であった「事務職」という職制を廃止し、誰もが営業になれる環境を整えた。その上で、業務を平準化し、RPAによって効率化することで、徐々に人員を営業側にシフトする計画を立てた。営業の業務についても、「見積もり」や「提案」などステップごとにバラバラだったシステムを統合し、効率化を図ったという。
昭和リースが「Blue Prism」を選んだ理由
同社のRPAの導入プロジェクトは2017年の11月ごろに本格始動した。PoC(概念実証)の段階では、2つの製品を比較した。藤本氏によれば、製品を選ぶ際には「業務システムとのスムーズな連携」「ライセンス体系」「管理の工数」の3つがポイントになるという。
最終的に選んだ「Blue Prism」は、同社が使っていたメインフレームとの相性がよく、ライセンス体系が柔軟であり、サーバ型で集中管理できることが魅力だった。
「主要業務に使うメインフレームは、Blue Prismとさまざまな方式で連携できたが、もう一方の製品はロボットの作業内容が文字化けするなどの問題が起こった」(藤本氏)
同氏は自動化の方式によって、RPAの処理スピードと動作の安定度合いに影響が出るとして「特に画像認識の方式しか適用できない場合は動作が不安定になる」と忠告し、自社システムとRPA製品との相性をあらかじめ検証すべきと話した。
ライセンス体系については「お得だと思った」と藤本氏。「本番環境で同時に動くロボット数に対して課金するため、柔軟に活用できる。当社は同時に5つのロボットを稼働できるよう、5ライセンスを購入しているが、これを100台のPCで稼働させても金額は変わらない」。サーバ型を薦める理由については「RPAの拡大を考えた際に、少人数で各部署のロボットを統合管理できるエンタープライズ型の製品が必要だった」と話した。
RPAの開発を外部の開発会社に委託する企業も少なくないが、同社は、RPAの開発と運用を完全に内製化している。藤本氏は、内製で進めるコツも紹介した。
導入時は、3人が兼務でRPAを開発
世間では、RPAの構築は難しく開発者の育成が困難という意見もあるが、藤本氏によれば「簡単ではないが、やれないことはない」という。
導入時は、藤本氏を含む一般社員3人が通常業務と兼務してRPAの開発と運用にあたった。メンバーにプログラミングのノウハウはないため、まずは、2日間の基礎研修と8時間の追加研修を受けて基礎を学んだ。「基礎だけでは難しいので、実現したい業務イメージをパートナー企業に伝え、対面でサポートしてもらったことがポイントだ」と藤本氏は振り返る。
さらにRPAを増やす際は、うまく稼働しているプロセス(ベストプラクティス)をコピーすることで、安定したシナリオを効率的に作れているという。「Blue Prismは作ったロボットを検証する際に、シナリオの基礎的なミスをすぐに気付ける仕組みになっている」とも話した。
シナリオでは図1のように、作業の手順がフローチャート式に可視化される(図1)。RPAの作業内容が一目で分かるので、RPAを使うための仕様書やマニュアルなども必要ない。
一方、RPAの品質を確保するには相応の取り組みが必要だと忠告し「メインフレームは動作のスピードが速いため、RPAが項目を読み取るための間(ま)の調整や、再処理、部分リピートに関する調整を要する」と話した。
現在は、既存の兼務3人に加え、専任の1人を投入してRPAの開発と運用に臨む。その他に、RPAのアカウントを管理する人員として1人、ライセンスとハードを管理する人員として2人が従事する。運用管理は実質的に専任担当が一手に引き受けているというが、運用のポイントは何か。
RPAのエラー、どう対処する?
一般的に、RPAの導入企業からはロボットを安定的に稼働させることが難しいという運用の課題が上がる。これについて藤本氏は「例外的な業務やロボットの作りなどが原因で、エラーが出ることがある」と説明。同社では、エラーの原因を明確にし、確実に対処する取り組みをしている。
Blue Prismのコントロール画面は、「どのロボットが動いていて、それぞれどのプロセスを実行しているのか」稼働状況を確認できる(図2)。「エラーが発生した際は、コントロール画面の詳細ログを見て、ロボットがデータをどう処理したのか、時間やステップを確認できるので、何が原因でエラーが発生したのかを特定できている」と藤本氏は話す。
その他、管理面では「いつ誰がどのステップを実行したのか」という監査ログも確認している。
効率的に運用する方法としては、スケジュール機能を使って、複数のロボットをどの順番でいつ実行するのかを設定し、人がロボットを動作させなくても完全自動でプロセスが実行されるように調整している(図3)。
その他、週次で進捗会議を設けてPDCAを回していること、パートナーとやりとりできるポータルサイトを構築して、継続的にサポートを得られる環境を整えたことを運用のポイントとして挙げた。
年間約2万時間の作業をRPAで代替
取り組みによって、同社は導入から約1年で、年間2万2531時間の作業時間をRPAに代替した。
従業員1人が1日8時間、年間で約200日働くと仮定すると、1年間で14人が行う作業に相当する。1人当たりの人件費を年間500万円とすると、全体で7000万円を創出できる効果だと同社は算出する。RPAにかかったシステムの費用や人件費と照らし合わせると、約560%の投資対効果が出たという計算になる。
例えば、資産買収に関する約2万件の契約処理については、人手で行うと83人で1カ月間かかるところを、4人の人員が2週間作業すれば完了するようになった。
「バックオフィス全体の人員は、職制転換と配置換えによって、約70人から50人弱にまで減ったものの、RPAを導入したことで従業員は定時に退社できている。フロントの戦力を拡大し、営業の付加価値を高められた。投資対効果としては、数字以上のものを実感している」と藤本氏は語る。
RPAのプロジェクトは、削減時間や費用だけを強調する事例も多いが、同社の事例は業務を効率化した上で、本業となる分野に人手を振り向けられている。具体的な方法論も含めて企業が参考にできる点は多いのではないだろうか。今後はRPAとOCRとの連携も視野に入れているという。
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